【教室と世界をつなぐ「探求」(10)】デンマークの教育と探求(後編)

株式会社教育と探求社 代表取締役社長 宮地 勘司
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前回から続くデンマーク教育視察、今回は自由高校だ。自由高校は、首都コペンハーゲンにある非常に個性的な私立学校である。まず驚くのはその建物。外壁、内壁、天井まで落書きで塗り込められている。まるで危険なエリアに踏み込んだのではないかと錯覚しそうになる。壁には政治的なメッセージを書いたステッカーも貼ってある。

それらは全て、生徒の判断に任せられている。それが、生徒が主体となって運営する究極の民主主義の学校、自由高校である。生徒も先生も等しく1票を持ち、学校運営や学校の主要な事柄は投票で決めることになっている。「自分たちの学校なのだから、自分たちで決めることができる」ことを共有価値にしている。

例えば、次の校長を誰にするのかを決めるのも、生徒主導で進めていく。まずは生徒会が要件を決め、新聞広告で募集。書類審査を通過した2人の候補者が、学内のホールで全校向けにスピーチをする。生徒も1票、先生も1票で投票し、校長を決める。日本ではとても考えられないことだ。

放課後、何人かの生徒に「どうしてこの学校を選んだの?」と聞いた。「生徒と先生が平等であり、先生が権威を持たないところ。学校運営に関わる全ての事柄を投票で決められる。また、どんな生徒にも居場所があることで自己確立が図られ、自己肯定感が高まる。それに伴う責任感が生まれ、周りに影響されず自分探しができる。実際にこの学校に入って、自分のことにも社会のことにも責任感がとても強くなった」。確信に満ちたその表情が印象的だった。

これまで見てきた森の幼稚園、小学校、自由高校は、所在エリアも学校種も異なるが、通底するものを感じた。それは、学び手である子供たちが中心であり、誰もが自分らしくあることを許されていること。そして、前提にとらわれることなく、本質に根差して合理的かつ創造的に物事を考えていこうという姿勢があることだ。成熟した人間観、哲学のようなものを感じる。

私はデンマークの教育を手放しで礼賛するつもりはない。日本の教育にも負けないくらいの素晴らしさがあると思っている。しかし、時代の変わり目の中で、制度疲労を起こしつつあることもまた事実だ。そのことに皆、気付いている。文科省が旗を振っても、学習指導要領を改訂しても、思うような変化は起こせない。私のチャレンジは、クエストを通じて生徒の心を開くこと、「ティーチャーズ・イニシアチブ」を通じて先生の教育観を更新すること。現場からこの両輪を回し、日本の教育をより良いものに変えていきたい。

(おわり)

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