【ICTと子どもの健康(1)】情報活用と健康のバランス

東海大学情報通信学部情報メディア学科教授 柴田隆史
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子どもたちが学校で、1人1台のデジタル機器を使って学習する時代になりました。新しい情報メディアやディスプレーが実用的に使われるようになると、それらに対する期待とともに、使うことによる健康面への影響が懸念されることがしばしばあります。例えば、テレビやスマートフォンが登場して多くの人が利用するようになると、目の疲れや視力の低下が懸念されました。確かにそういうことが起こる可能性はあります。しかし、だからといって皆さんは、テレビやスマートフォンの利用をやめるでしょうか。

もう一つ例を出しましょう。1990年代にパソコンが急速に普及して、オフィスでの仕事のみならず家庭でも使われるようになりました。それまでの「紙」の書類を用いたワークスタイルから、「コンピューター」を用いたVDT作業によるワークスタイルへと変わりました。そして、眼精疲労や肩凝り、頭痛などといった健康障害が懸念され、実際の調査結果でもそうした症状が生じたことが示されています。それでは、その頃から30年ほどたった現在、オフィスや家庭でのワークスタイルはどうなっているでしょうか。

これらの状況は、実に重要なことを示唆しています。一つは、言うまでもなく、社会における情報化が進んでいるということです。そして、目の疲れや肩凝りといったネガティブな要因が懸念されるとしても、それを上回る利便性が情報機器の活用にあるということです。

私自身、ネガティブな要因が多少あってもよいと考えているわけでは決してありません。情報メディアやディスプレーが、人に対して悪い影響を与えないように十分に配慮することは重要です。また、われわれはどんな活動をしていても疲労が生じます。仕事に限らず、楽しく遊んでいても疲れます。そのため、情報活用において最も重要なのは「バランス」を考えることだと思っています。現代の子どもたちに当てはめて言うと、ICTを活用した学びによる良い効果と健康面とのバランスを考えるということです。

もう一つ、重要な示唆があると思っています。それは、情報化が一層進んだ現在も、紙メディアが使われているということです。ここでも、私は「バランス」が重要だと考えていて、紙とデジタルのメディア特性の違いを踏まえた使い分けがなされているように思います。教育においても、「紙かデジタルか」という議論がありますが、双方の特性を教育という視点から探る必要があるだろうと思います。さらに、現代の情報化社会で重要なICTを効果的に活用するために、デジタル機器の特性や教室の環境、子どもの身体特性や健康面などを考慮することが、「バランス」を考える上で重要だと思います。この連載では、私の専門である人間工学の視点から、学校でのICT機器の利用と健康面に関する現状や対策などについて取り上げていきます。

【プロフィール】

柴田隆史(しばた・たかし) 東海大学情報通信学部情報メディア学科教授。博士(国際情報通信学)。日本学術振興会特別研究員PD、カリフォルニア大学バークレー校ポストドクトラルフェローなどを経て、2021年4月より現職。専門は人間工学。文科省「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」の委員や日本人間工学会「子どものICT活用委員会」の委員長、The Society for Information Display (SID), Applied Visionの委員などを務めている。人の心理特性や生理特性、行動特性などに着目して、情報メディアの効果的な活用に関して研究している。

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