【新時代の部活動指導(7)】続・脱走事件

京都橘高校吹奏楽部前顧問・吹奏楽指導者 田中宏幸
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夜明けを迎えた頃、校内から脱走しようと走り出した94期生たちは、西門を出てから一般道へ出るまでの約数十メートルの通路にいた。乃木神社の壁に沿ったパレード練習で、よく使っている場所である。

誰が主導するでもなく、泣きながら走り出した1年生たちは、誰かが指示をしたわけでもないのに、全員がピタッと立ち止まった。そこから向こうは明らかな外の世界。駆け出てしまうには、さらなる勇気が必要だった。勢いよく走り出したものの、そこまでの準備はしていない。荷物が全部教室に置きっぱなしだということだけじゃなく、無計画な自分たちの行動にそれぞれが歯止めをかけたのであろう。彼女らはとぼとぼと教室に戻った。隣室の上級生を起こさぬよう、声を殺して話し合った。

彼女らは、そのひそひそ話の結果、素晴らしく正しい結論にたどり着いた。

「思いの全てを先生方に聞いてもらおう」

私たち指導者2人は朝食後の時間帯、準備室に1年生全員を迎え入れた。この頃在席していた94期生は20人程度。教室のハーフサイズの準備室に入れる人数だ。40人以上いる92期生、93期生と比べても、明らかに少ない。部活動は通常、人数が集まらなかった学年は退部者を出してしまわないよう、少々大事に扱われるものなのだが、「伝統のおきてに支配された女子校」ではそうはいかない。上級生は自分たちが1年生の頃に受けてきた通りの方法で1年生を鍛えようと、精神的・肉体的に追い込んだ。その結果が今回の騒動である。

94期生は私たち2人の顧問に精いっぱい訴えた。最初は「うちのパートのある先輩にこういうことを言われました」というような言い方だったが、「それじゃ解決しない。実名で言いなさい」と促したことで、3年生を中心とした上級生が、彼女らにしていた仕打ちのほぼ全貌が明らかになった。

私たち指導者2人は「これは、練習どころの騒ぎじゃありませんね」と顔を見合わせて、1年生に向かって私たちを信じて今後を任せてくれるかどうかを聞いた。彼女らは表情をこわばらせながらも、この問題の解決を私たちに一任すると、つき物が落ちたような明るい表情になった。このところ彼女らのつらそうな顔ばかりを見せられていた私たちは、その笑顔が懐かしく思えた。そして、この問題の解決に向けて尽力すべく腹をくくった。

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