【紙からデジタルへ(1)】デジタルで変わる子どもたち

ペンシルバニア大学教育大学院教授 バトラー後藤裕子

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 私たちの生活を巡るインフォーメーション・コミュニケーション・テクノロジー(ICT)は、毎年驚くようなスピードで変化しています。現在の赤ちゃんの多くは、1歳になる前に動画を見たり、タブレット端末に触れたりしています。アメリカに住んでいると、人工知能(AI)と話しをしない日はほとんどありません。銀行や役所、病院などへの問い合わせも、まずはAIと会話をしてから、人間と話す機会が与えられるからです。

 日本でもこのような状況は徐々に進行しつつあります。「あなたの言っていることが分かりません」など、人間ならぶしつけな対応と受け取れることも、AIは平気で言ってきたりします。こうしてAIと円滑にコミュニケーションできることも、今後は重要な能力となってくるでしょう。

 急速に変化をしていくデジタル社会では、今後身に付けるべき能力も、またその能力を身に付ける手段にも、大きな変革が求められます。ICTは教育の一つの目的でもあり、また教育を行う手段としても、中心的な役割を果たすようになっています。

 日本は他の先進諸国と比較して、ICTの教育への使用が非常に遅れていることが指摘されてきました。残念ながら2020年春、コロナ禍で学校が閉鎖に追い込まれた時に、多くの小中学校がすぐにオンライン授業へ移行できなかったことも事実です。2021年度よりGIGAスクール構想が前倒しになり、本格的に小中学校で1人1台の端末が実現することになったのは大きな前進です。ただ、端末は単なる道具にすぎないことも認識しておかなくてはいけません。ICT は、使い方が問題なのです。

 私はアメリカの大学の教育大学院で、言語教育を専門にしています。英語を中心とした言語教員養成のプログラムのディレクターをしており、アメリカ人だけでなく、世界各国から集まった先生たち、またはこれから教職を目指す学生たちと共に、今後言語教育の中にどのような形でICTを使っていくかを日々考えています。そうした中で、どんなにICTが進んでも、教師の果たす役割がますます大きくなっていくことを痛感しています。

 これから10回にわたり、言語という側面に焦点を当て、デジタル社会を担っていく子どもたちにとってどのような言語能力が必要なのか、言語教育の中でICTを有効に取り入れていく際にどんなことに注意しておいたらよいのかを考えていきたいと思います。2021年5月に上梓した『デジタルで変わる子どもたち-学習・言語能力の現在と未来』(ちくま新書)の内容から、エッセンスを取り出していく予定です。


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【プロフィール】

バトラー後藤裕子(ばとらー・ごとうゆうこ) ペンシルバニア大学教育大学院教授。東京都出身。東京大学文学部卒業後、スタンフォード大学にてPh.D習得(教育心理学)。サンノゼ州立大学教育大学院教員養成プログラムでの教鞭経験を経て現職。ペンシルバニア大学教育大学院では、Teaching English to Speakers of Other Languages (TESOL)プログラムのディレクターも務める。専門は子どもの第二言語習得・言語教育、言語アセスメント。日本語での著書に『多言語社会の言語文化教育』、『日本の小学校英語を考える』、『学習言語とは何か』、『英語学習は早ければ早いほどよいのか』、『デジタルで変わる子どもたち』などがある。

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