【紙からデジタルへ(4)】デジタル上と紙上の読みの違い

ペンシルバニア大学教育大学院教授 バトラー後藤裕子

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 今回は、デジタル上の読みと紙上の読みの違いについて見ていきたいと思います。実は、「読み」とは非常に複雑な認知プロセスです。文字と単語のマッピングを行う解読のプロセスも読みの一部ですし、単語や文法知識を使うことや、背景知識を基にしながら意味を構築するプロセスも読みの一部です。

 また、読みは社会的なプロセスでもあると言えます。そもそも、どんな本やテキストを読むかはその人の所属する社会の影響を受けますし、小学校でみんなで教科書を音読することをはじめとして、実は私たちは「読み」を他人と共有していることが多いのです。

 デジタル上の読みと紙上の読みの違いについては、多くの研究者の関心の的になってきました。以前はスクリーン上の読みは目を疲れさせ、読みのスピードも遅くなることが指摘されていましたが、テクノロジーの進歩で、両者の違いはほとんどなくなってきたと言われています。読むスピードにも、今や差がありません。ただ、細部に注意すると、まだ違う点もあります。

 一つは、テキストの長さによる違いです。短いテキストの場合は、デジタル上も紙上も読みに違いはありませんが、ある一定の長さを超えると、紙での読みに軍配が上がります。デジタル上では、スクリーンに収まりきらない長さのテキストを読む場合は、スクロールしなくてはなりませんが、このスクロールという行為が、読解を一時的に妨げるようなのです。

 紙の場合、多くの人はページを読み終わる前に、手で次のページをめくる準備をします。文末に注釈などがある場合は、その部分に指を挟みながら読むなどしています。そのため、デジタル上に比べて特定のページに戻る際にかかる時間を短縮できるのです。このように、実は読みの際、手が重要な役割を果たしていることが分かってきました。私たちは目だけでなく、手でも読んでいたのです。

 また、ざっくりと内容を理解するにはデジタル上も紙上も読みに違いはありませんが、細部の内容を記憶したり、推測しながら読んだりする場合には、紙に軍配が上がるようです。「あの記述は3分1ぐらい読み進めたページの左上あたりだった」などという記憶は、皆さんもあることでしょう。こうした空間記憶などは、本の持つ物理性が優位になります。

 ただ、生まれた時からデジタルの読みに慣れ親しんでいる子どもたちの間では、異なる結果が出てくる可能性もあります。私が2020年に日本の大学生に行ったアンケート調査では、デジタル上の読みの方が紙上の読みよりいいと答えた学生が半数以上を占めました。


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