【紙からデジタルへ(5)】デジタル上の読みで注意したいこと

ペンシルバニア大学教育大学院教授 バトラー後藤裕子

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 前回は、デジタル上の読みと紙上の読みとの間では、基本的に違いはなくなってきたものの、紙の持つ身体性・物理性は現在のデジタル技術をもってしても、なかなか克服できないことをお話ししました。ただ前回の話は、デジタル上と紙上で同じテキストを読んだ際の違いについてであり、実際のデジタル上での読みはもっと複雑です。

 デジタル上の読みでは通常、インターネット上の膨大な情報にアクセスすることが可能です。ハイパーリンクも便利である一方、認知資源を使いすぎてしまえば、読解を妨げる要因になります。つまり、情報の信ぴょう性を見極め、必要な情報を効率良く拾い上げ、それを知識として身に付ける能力が重要となります。単なる情報は知識ではありません。

 編集者、作家や研究者など、普段からテキストを多く読む仕事をしている人が、どのようにデジタル機器を使っているかを調べた研究によると、このような「達人」たちは、デジタル、紙媒体の特徴をきちんと把握した上で、目的に応じて両者をうまく使い分けていました。ある事象の大まかな内容を把握したいときには、デジタル上で無関係な映像などは無視しながら効率良く必要な情報だけを取り出し、一方、正確な読解を必要とするときには、あえてプリントアウトして、他情報へのリンクができないような状況をつくり、テキスト内容に集中するといった具合にです。しかし、このようなストラテジーを身に付けないまま、情報過多の状況に置かれると、必要な情報を得ることが難しくなってしまいます。

 読解力の高い学生と低い学生の目の動きを調べた研究からは、両者の間の読みのプロセスに違いがあることが分かります。読解力の高い学生は、テキストに満遍なく目を通し、効率良くスキミングしている一方で、重要な用語などは注視していました。読解力の低い学生はメリハリのある読みができず、一部の情報だけにしか目を通していませんでした。今後、デジタル上の読みが増えてくるにつれ、情報処理を行うストラテジーの習得がますます重要になってくると言えます。

 つまり、デジタル本や教科書をただ子どもに与えるだけでは不十分なのです。デジタル本も教科書も、それ自体が効果を保証するのではなく、それをどのように使うかが重要なのです。デジタル本を使うときには、大人が一緒に本の内容について子どもと話し合ったり、子ども同士で学習のプロセスを共有する機会を設けたりするなど、デジタル本・教科書をインタラクティブ(相互作用的)に、かつ方略的に使う指導が大切になってきます。


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