【紙からデジタルへ(6)】SNSと読解力

ペンシルバニア大学教育大学院教授 バトラー後藤裕子

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 第2回でも紹介した通り、デジタル世代は多くの時間をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に費やしています。実際、子どもたちの多くが、SNSに時間を使い過ぎていることを危惧しているというデータもあります。SNSは心の面への影響も少なくありませんが、ここでは言語・学習面に特化して、その影響を考えてみたいと思います。

 SNSで使われる言葉は「打ちことば」と呼ばれ、「話しことば」と「書きことば」の境界線に位置するようなユニークな特徴を持っています。効率良くメッセージを送るために、視覚的・音韻的にさまざまな省略が行われたりするなど、実はとても創造的な言語でもあります。

 打ちことばは、従来の学校教育で重視されてきた、いわゆる「学習言語」とは異なった特徴を持っています。そのため、打ちことばばかりに接していると、学校での学習に悪影響を及ぼすのではないかと、教育関係者の間では懸念材料となってきました。

 実はアルファベットを使う英語の打ちことばは、音遊びをしたものが多く、打ちことばを使うことで音韻意識を高め、解読能力を高めるというメリットが指摘されています。日本語の場合はアカウントを「垢」で示すなど、視覚で遊ぶことが多く、打ちことばの直接のメリットに関してはあまりよく分かっていません。ただいずれにせよ、打ちことばの使用の有無にかかわらず、学習言語の習得には、学習場面で使われるテキストを読む機会を十分に設けなくてはいけません。SNS への過度な時間投資により、学習言語に触れる機会が減れば、学習成果に悪影響が出ることは十分に予想できます。

 私が2020年に都内のある公立中学で行った調査では、命題の関係性を示す重要な単語の習得が十分にできていない生徒が多いという結果が出ました。生徒が「意味がよく分からない」と答えた言葉の中には、数学でよく出てくる「AかつB」の「かつ」や、「~において」の「おいて」、「なお」「ただ」「しかも」「ただし」「あるいは」「すなわち」などが含まれていました。このような語の意味がしっかり理解されていないと、教科学習に不可欠な論理的思考を行うのに支障を来すのではないかと危惧されます。そして、おそらくこうした言葉は、SNS上では頻繁に使われないと推測されます。

 ただその一方で、学校教育も変わらなくてはいけません。これだけマルチモーダルなコミュニケーションが主流となる中で、テキストだけに特化した狭義のリテラシーの考え方に基づいて、子どもたちの読解力を測っている現状にも問題があると言えます。


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