【紙からデジタルへ(9)】デジタル時代に求められる言語能力

ペンシルバニア大学教育大学院教授 バトラー後藤裕子

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 本連載ではこれまで、子どもたちを取り巻くICT環境が急激に変化していることを見てきました。では、このような状況の中、どのような言語コミュニケーション能力が必要とされているのでしょうか。変化の度合いが激しいので、具体的に記述するのは難しいのですが、変化に対応できる柔軟な能力であることは間違いありません。また、私たちのコミュニケーションが音声や映像などを伴ったマルチモーダル形式で行われるのが主流になってきていることから、言語に特化したものではなく、言語を中心としながらも、非言語の要素を含むもっと広範で包括的な能力ということになるでしょう。

 私はデジタルの時代に必要な能力は、基本的言語知識と、それを自律的に、社会的に、創造的に使っていける能力だと考えています。基本的言語知識とは、文法、語彙(ごい)、音声や意味に関する知識など、言語を使用するに当たって必要な言語知識全般を指します。

 今までの学校における言語教育は、この基本的言語知識の習得に大きな労力を注いできました。この知識は不可欠ですが、知識を持っているだけでは、言語は使えません。そこで、言語を使用するための能力が必要となります。

 自律的言語使用能力とは、目的を持って自律的に言語活動を行う能力です。インターネットには膨大な情報が溢れています。その膨大な言語情報を効率良く処理し、信ぴょう性を判断し、自らに必要なものかどうかを取捨選択した上で、批判的な視点を持ちながら、分析・理解することのできる言語能力となります。

 デジタル時代には、知識やスキルが、他者とのネットワークの中で構築される機会がますます拡大していくと予想されます。そのため、時間や距離に拘束されない空間で、他者との間に有益なネットワークを築きながら、言語を使って個人および集団の知識を拡大できる能力を培うことが重要となります。これが社会的言語使用能力です。この中には、多様性に対応できる柔軟な姿勢や、言語情報から相手の思考を理解するだけでなく、感情・情緒を感知したり、共感を深めたりできる能力も含まれます。

 創造的言語使用能力とは、言語情報から変換された既存の知識を再構成・再構築したり、新しいコンテキストへの植え替えを行ったりする能力です。対象となる情報の中には、音声や映像など非言語情報も含まれます。

 まとめると、デジタル時代に求められている言語コミュニケーション能力とは、基礎となる言語知識と、変化の激しいデジタル空間の中で、その言語知識を柔軟に使っていく能力から成り立っているのだと考えています。


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