【紙からデジタルへ(10)】これからの教師の役割

ペンシルバニア大学教育大学院教授 バトラー後藤裕子

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 前回、デジタル世代に身に付けるべき言語コミュニケーション能力は、基本的な言語知識と、それをデジタル空間、非デジタル空間の両方で、自律的、社会的、創造的に使っていける能力ではないかという提案をしました。では、そのような能力を子どもたちに身に付けてもらうには、どうしたらよいのでしょうか。

 AIの発達で多くの職業がなくなっていくという話はよく聞きますが、今後デジタル技術がどんなに進歩を遂げようとも、教師の果たす役割はますます重要になってくると考えます。子どもたちにデジタル機器やアプリを与えるだけでは駄目だからです。

 まず、子どもたちの言語使用や認知スタイルを理解することが大切です。多くの子どもたちはSNSや動画配信などを通じて、デジタル空間ですでにさまざまな言語使用を行っています。そうした彼らの既存の活動空間やスキルをうまく利用しながら、さらに自律性、社会性、創造性を高める機会を提供することが有効です。逆にデジタル依存が行き過ぎている場合には、基本的知識が身に付いているのか、どのような支援をするべきかを見極める必要があります。例えば、宿題をしながら動画を見るなどマルチタスクを行っている子どもが少なくありませんが、人間の脳はマルチタスクを効率的に行えるようにはできていません。マルチタスクの非効率さを子どもたちが体験できるような活動を授業に取り入れるなども一案でしょう。

 教師がデジタル・リテラシーを身に付けることも必要です。デジタル・リテラシーとは、①自分の目的に合ったコンテンツを見つけ出し、使えること②動画を作るなど必要なコンテンツを作成できること③デジタル機器やアプリを通じて、コミュニケーションや情報収集ができること――を指します。教師が常に新しいアプリに精通している必要はありませんが、授業を自信を持って進めるための最低限度の知識は不可欠です。そのための教師への支援は、十分に整備されなくてはいけません。

 ただ、全てを完璧に準備して児童生徒に与えるという考えからは解放されましょう。子どもたちは、デジタル使用に関しては大人よりも柔軟で、知識や経験も豊富かもしれません。彼らの知識や経験をうまく取り入れ、お互いに助け合いながら、ICTを活用した学習を楽しむという姿勢が大切だと考えます。

 デジタル技術は私たちの認知力を拡大し、多様性や個性の謳歌(おうか)につながります。しかし、一歩間違えると認知機能を低下させたり、没個性化を助長したりします。デジタル技術のメリットを享受できるかは、私たちの使い方次第なのです。

 (おわり)


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