【学校と法律をつなぐ(10)】「子どもコミッショナー」は必要なのか

神内 聡 弁護士・兵庫教育大学大学院准教授

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 国会では今、子ども基本法案が議論されています。自民党が提出した法案では、第三者機関として勧告などを行う「子どもコミッショナー(仮)」の設置は見送られています。

 私個人は子どもコミッショナーの設置に賛成ですが、一口に第三者機関と言っても権限や在り方を巡っては論者によって考え方にかなり幅があり、海外の第三者機関も多様で、効果を十分に検証できてはいません。子どもコミッショナーに限らず、教育業界での外部人材は現場に即した議論や効果検証がなされないまま導入される傾向があり、導入がうまくいった成功例だけが注目され、失敗例は話題になりません。現場での必要性以上に外部人材を巡る既得権が優先されてしまうこともあります。

 本当にいじめや虐待などで苦しむ子どもたちを救済したいのであれば、子どもコミッショナーを導入するよりも、子どもの権利を的確に理解している能力の高い教員や児童相談所職員などの「現場の人間」を増やすことの方が、よほど優先すべきことのように思われます。コミッショナーにふさわしい人材育成が十分にできているのであればよいですが、現実はそうではありません。現場経験のない人間がコミッショナーになったとしても、実際に現場でいじめや虐待に対応できる人材が増えるわけではありません。

 おそらく子どもコミッショナーが機能するのは、誰がどう考えても特定の子どもの権利が侵害されている場合ですが、実際に現場で起きている事件は必ずしもそのようなものばかりではありません。被害者と加害者が容易に特定できないケースをはじめ、現場のトラブルはさまざまな子どもたちが存在する複雑な当事者関係の中で生じており、保護者や先生の考え方も多様です。学校設置者や学外の人間なども含めた複雑な利害関係も存在するため、コミッショナーが有効に機能するケースは限られると思います。

 この連載ではスクールロイヤーの視点から学校の法律問題を紹介してきましたが、実際に先生が現場で対応しなければならない問題は、想像以上に複雑かつ過酷なものです。私も何度も失敗してきましたが、子どもたちに対して直接責任を負うのは弁護士でも研究者でもなく、現場の先生です。そのことを念頭に、スクールロイヤーは子どもたちに対してどのように関わっていけばよいか、学校現場の法律をどのように適用していけばよいか、適切な議論をしていくことが大切だと考えています。

 (おわり)

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