【不安の予防教育プログラム「勇者の旅」(1)】「勇者の旅」の研究に取り組むことになった経緯

浦尾悠子 千葉大学子どものこころの発達教育研究センター・特任講師

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 初めまして。千葉大学の浦尾です。本連載では私が取り組んでいる、認知行動療法に基づく不安の予防教育プログラム「勇者の旅」(図参照)についてお話できればと思っています。第1回は、私がなぜ認知行動療法に基づく予防研究に取り組むようになったのかについてお話しします。

「勇者の旅」ワークブック表紙

 私は大学卒業後、看護師として精神科病棟などに勤務し、修士課程への進学を経て、30代半ばまでは大学の看護学部で精神看護学の教員をしていました。精神科領域での経験を通じて、さまざまなメンタルヘルスの問題を持つ方に出会ってきました。中でも、不安やうつなどの気分の問題を持つ方々と関わる中で、「ここまで調子を崩す前に何かできなかったのか」と感じることが多く、次第に「メンタルヘルスの問題の予防や早期介入に取り組みたい」という気持ちが膨らんでいきました。

 そんな中で出合ったのが、「認知行動療法」でした。認知行動療法は、不安やうつなどに対する「エビデンスに基づく心理療法」ということでとても興味を持ち、博士課程に進学して本格的に学ぶことにしました。先行研究を調べていくうちに、認知行動療法が「治療」だけでなく「予防」にも適用され、予防プログラムの効果研究も盛んに行われていることを知りました。しかし、西洋諸国に比べてアジアではあまり予防研究が進んでおらず、日本においても、まだほとんど行われていないことが分かりました。「それなら自分が取り組めたら…」と考え、博士課程での研究生活をスタートさせました。

 予防のアプローチには幾つか種類があります。例えば、ハイリスク者だけを集めて行う方法(セレクティブアプローチ)もありますが、5人に1人が生涯に一度は精神疾患にかかるとされる現在、全ての人を対象にするユニバーサルアプローチに取り組むことが必要だろうと考えました。また、なるべく早い段階で予防のアプローチを行うためには、学校教育の中で行うことが重要と考え、その思いをベースに開発したのが「勇者の旅」プログラムでした。

 学校現場でのアプローチを想定した研究に取り組む中で、学校現場にあるさまざまな課題にも触れることになりました。不登校、いじめ、自殺……このような生徒指導上の諸課題は、メンタルヘルスの問題と密接な関わりがあるものばかりです。例えば不登校一つとっても、「勇者の旅」がメインで扱っている「不安」という感情と、実は密接に関連しています。

 そこで次回は、子どもの不安と不登校について掘り下げていきたいと思っています。

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【プロフィール】

浦尾悠子(うらお・ゆうこ) 公認心理師・看護師。千葉大学子どものこころの発達教育研究センター・特任講師。大阪大学大学院連合小児発達学研究科千葉校・講師。千葉大学医学部附属病院認知行動療法センター・セラピスト。 うつ病や不安症などの治療に使われる「認知行動療法」を、小・中学校の教育現場向けにアレンジした予防教育プログラム「勇者の旅」を開発。現在までに、100校以上が取り入れている。

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