【不安の予防教育プログラム「勇者の旅」(7)】「勇者の旅」の授業で大切にしたいこと

浦尾悠子 千葉大学子どものこころの発達教育研究センター・特任講師

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 私たちのこれまでの研究から、SCAS(スペンス児童不安尺度)のカットオフ値を超える子どもは約1割、つまり30人学級であれば約3人は高い不安を持つということが分かっています。一方で学級には「不安なんてないよ」と言う子どもも一定数います。このため、「勇者の旅」に取り組む際には両方のタイプの子どもに配慮しつつ、誰もが安心して、なおかつ目的意識を持って授業に臨める「環境づくり」をしてもらうことが大切と考えています。そのために、「プロローグ」というプログラム導入用のステージを用意しています(図参照)

「勇者の旅」ワークブック「プロローグ」より一部抜粋

 また、先生方にはこの授業を通じて子どもたちの「メタ認知」を育むことを、ぜひ意識してほしいと考えています。「不安やうつの問題に認知行動療法はなぜ効果があるのか」という問いに対して、「それはメタ認知が鍛えられるからだ」と言う専門家もいるほど、メンタルヘルスにとってメタ認知は大切です。

 ところで、読者の皆さんはメタ認知についてどの程度理解し、意識されているでしょうか。メタ認知というのは、自分のことを客観的に認知する能力のことです。日頃から、何か不快な出来事があるたびに「今、自分は○○って考えたな。それで不快な気持ちになったんだな」などと自分の認知や感情を客観的に観察できる人は、メタ認知の力が高い人です。しかし、不安症やうつ病の患者さんは、この力が働きにくくなっているため、自分の内的体験を客観的に捉えられずに、不安やうつなどの感情が持続してしまいます。

 そこで、認知行動療法を通じて、ネガティブな感情体験を振り返る(客観視する)作業を繰り返し行います。そうすることで、少しずつメタ認知が強化され、ネガティブな感情体験が起きてもそれに巻き込まれずに一歩引いたところから状況を観察し、対応できるようになっていくのです。

 以上のような理論的背景から、「勇者の旅」では予防的に子どもたちのメタ認知を育み、将来何らかのネガティブな感情体験が起きても、自己の内的体験(認知や感情)に巻き込まれずに、状況を客観視しながら適切な対処行動を検討できるようになっていくことを目指しています。ただし、例えば神経発達症(発達障害)の子どもたちは、定型発達児に比べてメタ認知の発達が遅れると言われています。そのため、子どものメタ認知は一律に育むのではなく、個々の発達のペースに沿って育むことが、とても大切になります。

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