【子どもの自殺を食い止める(1)】子どもの自殺の現状~コロナ禍の急増を踏まえて~

髙橋聡美 一般社団法人髙橋聡美研究室代表/中央大学人文科学研究所客員研究員

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 2006年に自殺対策基本法が制定され、それまで「個人の問題」とされていた自殺を「社会の問題」と捉えた取り組みがなされ、3万人台だった自殺者数が2万人台に減少した。これらの自殺対策は一定の効果があったと評価できる。一方で、我が国の自殺対策は中高年男性を中心に進められ、女性と若者・子どもの自殺対策は後回しにされてきた。

 コロナ禍で自殺者数が11年ぶりに増加に転じたが、実は成人男性の自殺はコロナ禍でも減少し続けている。増加は女性と未成年の自殺が反映されたものである。自殺対策がしっかり行われてきた成人男性はコロナ禍におけるさまざまな問題に耐えることができたが、それまで対策が脆弱(ぜいじゃく)であった層がダメージを受けた結果と言える。

 児童生徒の自殺者数を見ると、06年の自殺対策基本法制定後、300~350人ほどと横ばいで推移してきた。この数値からも、自殺対策がなされていないことが分かる。さらに、16年の自殺対策基本法改正以降は、毎年自殺者数が増加しており、19年の児童生徒の自殺者数は399人、コロナ禍の20年には100人増加して499人となった。21年も473人と、依然として高止まりが続いている。

 子どもの自殺の増加の要因は多岐にわたり、一つに絞ることは難しい。会話をしないで登下校をする、給食は黙食など、子ども時代の楽しい日常が失われていることも大きいだろう。

 感染拡大防止の観点から、学校ではさまざまな行事が縮小されている。子どもたちはこの2年数カ月間、楽しみや居場所をなくし、自分らしさを発揮する機会をことごとく失っている。そうした機会を得ないまま、受験や就職など未来に向けた選択を迫られている。子どもたちの心理的負担が私たちの想像を超えていたことが、自殺の急増からもうかがえる。

 コロナ禍により、自粛・ステイホーム・保護者のテレワークなどで家族と過ごす時間が増えた。もともと虐待などの問題を抱えている家庭は緊張状態が高まり、その結果、虐待の件数も増加した。公共施設は閉館や人数制限が設けられ、家に居場所のない子どもたちは、外に逃げることもできずにいた。

 心理的危機を抱えている子どもだけでなく、メンタルヘルス上、ローリスクとされていた子どもたちも、友達と会えない、外で思いきり遊べないなどにより、普段できていたストレス発散ができず、メンタルの不調につながったケースも多い。

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【プロフィール】

髙橋聡美(たかはし・さとみ) 鹿児島県出身。自衛隊中央病院高等看護学院卒。国立国際医療研究センター国府台病院精神科病棟・心療内科病棟で看護師としてメンタルへルスに長年関わる。2003~05年にかけてスウェーデンでメンタルヘルス制度について調査。帰国後、宮城大学看護学部精神看護学領域で看護教育に従事する傍ら、県内の自殺予防活動に着手。11年、仙台市在住中に東日本大震災を経験し、その後は被災地の遺族ケアを実践。つくば国際大学精神看護学教授、防衛医科大学校医学教育部教授などを経て、20年4月より中央大学人文科学研究所客員研究員。21年4月よりBPO(放送倫理・番組向上機構)委員。同年5月には一般社団法人髙橋聡美研究室を設立。著書、講演多数。

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