【子どもの自殺を食い止める(7)】自殺予防教育の実際

髙橋聡美 一般社団法人髙橋聡美研究室代表/中央大学人文科学研究所客員研究員

この連載の一覧

 2016年から全国の小中高校で自殺予防教育の授業を行ってきた中で、学校側から「自殺という言葉を使わないでください」との要望を受けることは意外と多い。学校で自殺などについて取り扱う場合は、保護者の同意を必要とする学校も少なくない。自殺予防教育を行うには、まず「死を教材にできるか」が障害となる。

 筆者が行っている自殺予防教育では、「自殺」という言葉は使っていない。「自殺は駄目です」「命を大切に」という従来型の道徳的教育では子どもの自殺を減らせなかったことを考えると、価値観の押し付けでは効果がないと考えるからである。

 授業はストレスへの対処、アンガーマネジメント、SOSの出し方、心の病の気付き方など、ライフスキルをメインに行っている。これらのスキルは、ストレスにさらされたときに支えてくれる力を養うもので、10代のうちに学習しておくことが、社会に出てからのメンタルヘルス上も役立つと考える。

 自分で心を守ることや他者を傷つけないスキルを伝えつつ、困ったときは助けを求められるよう、SOSの出し方教育も併せて行っている。SOSというと「死にたい」というレベルを想像するかもしれないが、子どもたちの自殺の原因の多くは家族・学業問題など日常のことであることを考えると、日々の小さなことからSOSを出していく教育が必要となる。

 SOSの出し方教育で、私は心の痛みについて「身体の傷は見える、でも、心の傷は言わないと見えない。だから言ってみせて。身体の傷は手当てをすると良くなる。心の傷も同じで手当てをすれば良くなる。小さいほど治りが早いので、小さなことでいいから言葉にして誰かに相談して」と説明をしている。そして、大人に相談するように促している。「なぜなら、大人はあなたたちより解決の方法をたくさん知っているから」と伝えている。

 親が最初に気付くべきだと考える人もいるだろう。しかし、世の中には子どもに関心のない保護者もいるし、自分のことで精いっぱいで子どもにまで気が回らない保護者もいる。「親なら子どもの話を聞いて当然だ」という風潮の中で、親子でSOSを出せない状況に追い込まれるのである。

 子どもたちには「あなたのことを守りたいと思っている大人が、あなたの周りに必ずいる。だから、諦めないで3人目までの大人に相談して」と伝えている。自殺予防教育、SOSの出し方教育を実施した後、問われるのは私たちが3人目までの大人になれるかなのである。

この連載の一覧

あなたへのお薦め

 
特集