つながりが生み出す 未来への道しるべ 第15回博報教育フォーラム

(公財)博報児童教育振興会(成田純治理事長)主催、文科省後援の第15回博報教育フォーラムが2月24日、東京都千代田区の日本工業倶楽部で開催された。テーマは「つながりが生み出す 未来への道しるべ」。基調講演やパネルディスカッション、今年度第48回博報賞受賞者の中から3つの事例発表などが行われた。「子供の未来は今である」――子供の一瞬一瞬に未来への道しるべがあることに、登壇者や参加者が深く考えるよい機会となった。

鹿毛教授
鹿毛教授
『未来への道しるべ』とは ~一歩先に歩み出すために~
鹿毛雅治 慶應義塾大学教授

基調講演では鹿毛雅治慶應義塾大学教授が「『未来への道しるべ』とは ~一歩先に歩み出すために~」をテーマに、歩み出すために必要なことについて話した。

「『道しるべ』は、一歩先に踏み出すためのガイドで、目的地と方向と距離が示されている。さまざまな環境から投げかけられるなど、本人の心の側にある。(歩きながら目的が具体化する)。それは未来への分岐点となり、意思決定が必要である。より良い意思決定をするためには、目指すべき地点が明瞭化、具現化されていること。立ち止まって先を見通すこと(展望があること)」と述べた。

その上で「一歩踏み出すためには、やる気(動機づけ)が大切であり、希望と意欲(意志と欲求)が必要で、当人しかできない。誰かがそこに連れて行ってくれるわけではない。動機づけには重要な要因として期待(成功する見込み)と価値(主観的な価値づけ)が影響しており、その掛け算である」と指摘した。

いくつか職業の事例を提示し、(1)期待として、どの程度、その職に就けそうか(2)価値として、自分にとってその職が、どの程度魅力的か――を参加者に数値化させるワークで理解を深めた。

パネルディスカッション
パネルディスカッション

基調講演とポスターセッションの後、パネルディスカッションが行われた。コーディネーターを務めたのは嶋野道弘元文教大学教授。パネリストは鹿毛教授、小西喜朗滋賀県甲賀市立甲南中部小学校校長、川田勝巳島根県奥出雲町文化体験実行委員会委員長、市村直新潟県津南町立津南中学校校長。

パネリストたちの事例発表から「道しるべ」につながるキーワードを拾い出し、議論を展開した。その中で、▽川田さんは「最初は体験ありきで、『道しるべ』は活動を継続して行く中で子供と大人が生み出した自然発生的なものであった」▽小西校長は「子供やその親御さんとの出会いが『道しるべ』の源であった」▽市村校長は「良い町にしてほしい。発展してほしい。町の人の心を一つにしたい。そんな中学生の志が『道しるべ』となった」

各意見を踏まえ鹿毛教授は、「未来展望(ビジョン)が無いと一歩先に進めない。そのためには、振り返り、見つめ直すことが必要で、立ち止まり展望、見通しを立てないと『道しるべ』は見えてこない」と指摘。さらに、「今までの教育は『~すべき』といった単純確認するだけの『道しるべ』になってしまっている。さまざまな物事をやりながら考えるから目標も変わって行く。当然『道しるべ』の活用の仕方も変化して行く。これからの学びは方向性が柔軟で『べき』に縛られないスタンスが重要である」と述べた。

グループセッションでは、参加者全員で「自身のこれまでの歩みの中で印象深い道しるべはあったか」について意見を出し合い、これまでに出会った「道しるべ」やこれからの子どもたちのための「道しるべ」について議論した。「出会い」「ことば」「環境」「時期・タイミング」など、さまざまな「道しるべ」があり多面的な視野が必要であることが共有された。

嶋野元教授は「大人と子供では過去と未来の時間の長さに違いがある。『道しるべ』は大人が子供に与えるものではなく、子供が『道しるべ』を見つけなければならない」と指摘した上で、「大人が子供の潜在能力を顕在化してあげること。例えば、視野を広げてあげる、自己肯定感を高めてあげる、良いもの、本物を知らせてあげる――など。子供に今を見せてあげることが大切。大人は、子供の一瞬一瞬に自己実現があることに意識をもつこと。子供の未来は今である」と訴えた。

最後に嶋野元教授は以下のように結んだ。

「自分と人や社会や自然とのつながりから、『道しるべ』を見つけ出し、『道しるべ』を辿って未来を目指すのは子供にとっての〝ときめきの旅〟です。子供を〝ときめきの旅〟に出しましょう

子供の「納得の仕方」を理解しながら指導内容を考察
子供の「納得の仕方」を理解しながら指導内容を考察
「その子らしさ」を活かす発達支援~縦と横の連携を紡ぐ~
小西喜朗 滋賀県甲賀市立甲南中部小学校校長

「『その子らしさ』を活かす発達支援 ~縦と横の連携を紡ぐ~」をテーマに小西喜朗滋賀県甲賀市立甲南中部小学校校長が発表した。

特別支援への理解が浸透していなかった1980年代、初めて発達障害児と対峙した時は、対応にとまどい、分からずじまい。そこで、児童相談所(現家庭児童相談センター)の先生に定期的に時間をとってもらい、学校でのエピソードや実践している指導内容を報告しながら、月に1回指導を受け、子供の「納得の仕方」を理解しながら指導内容を考察した。そして、自分で理解したことを他の教師や周囲に、どのように理解してもらい、子供との良好な関わりや適切な指導につなげていくかを大切にした。

また、「自分が対峙しているような子供は他にもいるのではないか」と思い、周辺の地域にチェックリストを使って通常学級の先生にアンケート調査を実施した。子供たち、担任の先生が困っている状況が見えた。さらに、支援が必要な児童の保護者から「先生は、学校では指導内容の品質管理はどう担保しているのですか」と問われる。継続性のない支援・指導内容に不安を感じる親の心叫びを聞いた。みんなが困っていた。

一番重要なのは「必要な人に必要なときに必要な支援」。生涯にわたる支援体制の構築が急務であった。そのために領域を超えた「ケース会議」を実施。会議では、支援の継続性のため「縦の連携」と「横の連携」を大切にした。

「縦の連携」は社会自立等の自己実現のために、就労支援まで一本化した継続した支援。「横の連携」は実現可能な目標に向かって想定される支援の関係者の役割分担を明確にし、支援者としての主体性を意識付けたこと。この二つの連携を結びつけるため、イントラネットによる情報共有を行い、支援情報を蓄積。それらをもとに支援のタイミングや内容を考察し、子供の特性に応じた支援体制を構築した。

小西校長は「重要なのは『あきらめない』『抱え込まない』『チームワーク』」と指摘した上で以下のように結んだ。

「人は出会うべく出会う。子供たち、親御さんたちがいたから今の私がいる。子供たちの成長とともに、その自己実現に向かって支援が連鎖するように、必要な出合いを紡いでいく。発達支援の充実のためにAll for one, One for allを大切にしたい」

児童がたたらの炉の中に砂鉄と木炭を交互に入れてゆく
児童がたたらの炉の中に砂鉄と木炭を交互に入れてゆく
チーム奥出雲で取り組む『たたら体験学習』 ~未来へつなぐ絆とふるさとへの誇り~
島根県 奥出雲町文化体験実行委員会

川田勝巳奥出雲町文化体験実行委員会委員長は、「チーム奥出雲で取り組む『たたら体験学習』 ~未来へつなぐ絆とふるさとへの誇り~」と題して発表した。

奥出雲町は「たたら製鉄」の技術が1300年の時を経た今も継承されている町で、町内全ての小学校の子供たちを対象にした「たたら体験学習」を2005年から実施してきた。

文化体験実行委員会は奥出雲町の小学校の校長会、教頭会、教育委員会社会教育課、担任教諭らで組織されている。その年度の「たたら体験学習」について提案協議し実施内容を検討し、当日の運営も行う。現在の学習のテーマである「つなぐ・伝える・表現する」を平成21年度から25年度の5年間をかけ構築し、(1)ゴールを体験から表現にする(2)体験学習にテーマをもつ(3)メモをとる力を育成する――の3点を大切にしながら学習を進めている。

「たたら体験学習」は、(公財)日本美術刀剣保存協会が直接に運営するたたら「日刀保たたら」の村下(むらげ)をはじめとするスタッフの支えが欠かせない。「日刀保たたら」のスタッフの専門性が、体験学習の安全性の確保や学校・保護者・地域からの信頼性にもつながっている。

体験学習では、小学校6年を中心とした児童を対象に、小学校合同で3日間の体験学習を実施する。1日目は「たたらと刀剣館」で、たたらと奥出雲の文化との関わりなどの事前学習。2日目は炉を築く事前準備。3日目は実際に鉄づくりを行い、夕方に真っ赤にやけた鉄の塊「鉧(けら)」を取り出し、体験は終了となる。

実行委員会では、この体験学習を単なる鉄づくり体験で終わらせないためには、各学校での事前・事後学習が大切であると考えた。

事前学習は「何を学ぶか」「どのように学ぶか」課題づくりをし、たたら製鉄と関係が深い「ひと・もの・こと」との出会いなど各校区・地域の特色を生かしたものとした。

事後学習は「たたら体験学習」の総まとめとして、特に「表現する」に重点を置いた。保護者向けのプレゼンテーション、巡回展示、全校児童向けの発表会、新聞づくりや校内掲示、学習発表会などでの地域への発信――などさまざまである。

「たたら体験学習」は、その目的を「体験を通じて感じたこと・得たことを表現すること」へ再定義したことで、ふるさとへの理解を通して子供たちの主体性やコミュニケーション力を育てる大きな役割を果たすようになった。また、過疎化やふるさとの誇りの空洞化が問題となっている中、町全体でふるさとに誇りを持てる子供を育ていくための『未来への道しるべ』にもなっている。

ポスターなどを作成して修学旅行先でPR活動を行う
ポスターなどを作成して修学旅行先でPR活動を行う
町を支え、町に支えられて行う、地域貢献の取組み
新潟県津南町立津南中学校 菊地一秀教頭 太平美佳子教諭

「町を支え、町に支えられて行う、地域貢献の取組み」について発表したのは、菊地一秀新潟県津南町立津南中学校教頭、太平美佳子同校教諭。

少子高齢化や人口減少の課題を抱えながら、平成15年に市町村合併せず単独の町であることを選んだ津南町では、町の発展を願う当時の中学生の提案から、さまざまな振興事業を推進。その中で同校は、地域の次世代を担う若者を育てるため、2007年から「地域貢献による自分磨き」をテーマに、総合的な学習の時間を中心に、各学年で段階的にさまざまな活動を行っている。

1学年は「地域を知る・自己を広げる ~地域調べ 職業調べ~」をテーマに、日本ジオパークに認定された苗場山麓の河岸段丘や津南町の生物などの自然、文化、歴史を再認識する学習を実施し、壁新聞やポスターセッションなどで地域への広報活動を行っている。

2学年は「地域と関わる・自己を深める ~職場体験学習・修学旅行学習~」をテーマに年度前半は、津南町を中心に原則、一人一事業種で職場体験を行っている。「育ネットつなん(教育委員会・学校・PTA・地域の代表による組織)」の地域部会が受け入れ先を支援する。年度後半は職場体験で学んだ「津南の良さ」を発信することを目的に修学旅行先でのPR活動を行っている。また、ポスター作成や物産の仕入れなど、PR活動の準備段階を通し、町役場地域振興課や町の人たちとのつながりを深めている。

3学年は「地域に貢献する・自己を見つめる ~地域貢献上級学校調べ~」をテーマに、地域に貢献するために自身ができることを考え、町長をはじめ、地域の人たちに発信し「津南町の発展のために必要なこと」について話し合い、貢献活動を展開する。貢献内容は、観光活性化、介護・保育・教育、地域スポーツの活性化、地域の歴史や文化を守る――など多岐にわたる。

このキャリア教育は、10年にわたり教育委員会や各事業所との連携が継続してきたことで、総合的な学習の時間に対しては、津南町全体で教育活動を支援する体制が確立した。

最後に太平教諭はこのように結んだ。

「3年間の学びを通して大切なことは、自分の町の魅力を理解し、誇りを持ち、社会に貢献できる主体的な子供を育てること。日本や国際社会の未来を担うには、足元から見つめる視点が大切である」