教室掃除などを導入 現職教員特別参加でブラジルに【JICA】

名古屋市立下志段味小の住友夏代教諭に聞く
日本式教育の良さを再認識
体験知から異文化理解深化

「日本の当たり前がブラジルでは異なる。分かっていたつもりだが、体験を通じて実感知になった」と語るのは、名古屋市立下志段味小学校(丹羽正校長、児童数703人)の住友夏代教諭。〓国際協力機構(JICA)が実施する日系社会青年ボランティア・現職教員特別参加制度として、ブラジル・サンパウロ市内にある私立の幼小中一貫校で、日系人の子どもたちに、日本文化を伝えるなどの教育支援に携わった。公徳心や礼節など、日本の教育の良さを現地の学校にも取り入れてもらえるよう、「掃除活動」の普及などに力を入れたという。

小学生にフラワーアレンジメントの授業
小学生にフラワーアレンジメントの授業
■日本式教育の導入を手助け

日系社会青年ボランティアは、中南米の日系人社会の支援が目的。日系人社会以外の開発途上国の課題に対応する青年海外協力隊と異なり、派遣国がブラジルに限定され、子どもたちの指導を軸に、現地の学校に日本の学校教育の特性を導入する手助けをしたり、日本文化を伝えたりするのが目的になる。

同教諭は、現地の子どもたちとしっかり関わりたいとの思いが強かったため、その点に魅力を感じて参加を決意。2013年8月から昨年3月までの約2年間、ブラジルのサンパウロ市内の私立ミラソウ学園で、教育支援に携わった。幼小中12年間を通した学びを行う一貫教育校で、在籍する大半が日系人だった。

学園の経営陣は、日本の教育制度を高く評価しており、日本式の教育内容を取り入れたいとの願いを抱いていた。そこで同教諭は、組体操などの集団活動によって団結力を高める学校行事導入のサポートを担った。日本の学校教育で普通に実施されているしつけや礼節を学ぶ機会、仕組みづくりの手助けなどにも携わった。

一方、ブラジル日系移民の間では、苦難の開拓史が徐々に過去の記憶となっている。その子孫の間に、日本人が有していた美徳である公徳心や勤勉性に重きを置く生き方の感覚が薄れてきている現状が危惧されている。学園の理事長は、そんな問題を克服する一助についても、同教諭に託していた。

■子どもたちによる教室掃除などを推進

同教諭は、日本では当たり前に行われている子どもたちによる教室掃除や学校の集団行事が、ブラジルの学校であまり実施されていないのを知り、国による教育や文化の違いに、改めて驚きを受けたと振り返る。そこで、子どもたちによる教室掃除、机や学習道具の整理整頓を習慣化するのに力を入れた。
ブラジルでは、業者に教室掃除を依頼している。そのため当初は、子どもたちに働きかけても、まじめに取り合ってくれなかった。それでも「自分たちの学ぶ教室を自分たちで掃除する意味」を丁寧に説明する中で、子どもたちの間に、次第に掃除活動が浸透していくようになったという。

これは教職員も同様で、職員会議で繰り返し説明する努力を続ける中で、理解が深まっていったと話す。一連の取り組みは「KAKARIプロジェクト」と命名され、学園内の継続的な活動への礎づくりを果たせたと同教諭は喜びの笑みをこぼす。

その他、ブラジルでちょっとしたブームになっていた「和太鼓」を取り入れ、学級や全校活動につなげる取り組みを進めた。集団の規律やルールを学ぶために、演奏の最初と最後は、みんなであいさつするようにした。子どもたちはリズム感が良く、のみ込みが早かったので、演奏中はなるべく自由に楽しく太鼓をたたかせ、「規律と自由さ」を両立する活動を大事にした。

その一方で、日本の教育や文化を一方的に伝えるだけでなく、学園の教員やブラジルの人々から、逆に日本文化とその良さを教えられる経験も数多くしたと振り返る。

学園の教員の中には、茶道などの日本文化に深い造詣を持ち、日本人以上にその良さを理解し、伝承を重視している点には頭が下がったという。

また過去の日系移民が、開拓の厳しい苦難を乗り越え、勤勉で誠実に仕事に打ち込む姿から、ブラジルで強い尊敬と信頼を勝ち得ていったのを、現地の声や生活から、ひしひしと感じたとも話す。

■世界を学べる課外活動を実施

これらの貴重な経験を生かして、帰国後の現職では、「世界の果てまで知ってQ」と題した課外活動などを実施。児童に世界を楽しく知る学びを多数企画し、提供している。

この活動では、世界の食や遊び、生活などを、体験を通じて楽しく学べる内容を工夫。ブラジル篇では、現地の「ブリガデイロ」という甘いお菓子を実際に作った。児童と試食しながら、どんな材料で作られているかなどを当てるゲームを楽しんでいる。

同教諭は、活動参加前に、ブラジル滞在時の危険性を過度に意識していたという。でも、実際に行ってみると、日本人への深い尊敬心を持つ人が多く、とてもフレンドリーで気さくな国民性に感動したと話す。ブラジル人からは「先を考えすぎずに行動してみる」点を大いに学んだという。

そこで児童たちには、体験を通じて、さまざまな世界を知ってもらいたいと、取り組みは体験重視の学びを大事にしていると強調する。

日本での当たり前は、ブラジルでは当たり前ではない。それを身をもって知ったのは、貴重な体験だった。知識や頭の中だけで分かったつもりになってはならない。生活や人々や物事に、実際に触れて知る体験知が大切だ。その真理を改めて認識したと振り返る。

またブラジルとその人々から、日本の良さや教育の素晴らしさを教えてもらい、自国の良さを再認識したとも。

教育支援だけでなく、ブラジル滞在中は、他の市で活動している仲間を訪ね、さまざまな学校の教育活動を見聞。アマゾン川の大自然に触れたり、現地の打楽器「パンデイロ」を習ったり、サッカーのワールドカップ観戦で日本人サポーターの掃除活動に触れたりと、教育観を広げる多様な経験を積めたのも意義深かったと述べる。

■経験を通じて異文化理解の幅が広がる

同教諭の活動の意義と教育活動への影響について丹羽校長は、「ブラジルでの経験を通じて、同教諭の異文化理解の視点や意味が、広く深くなったと感じる。帰国後の指導力向上にもつながっているし、制度の意義を感じる」と指摘。「海外での支援経験を生かして、指導する教員自身が異文化理解を広げてもらえたら」と、同制度の意義を指摘する。


青年海外協力隊
「現職教員特別参加制度」

独立行政法人国際協力機構(JICA)では、国立、公立および私立学校の教員が、身分を保持したまま青年海外協力隊に参加できる「現職教員特別参加制度」を設けており、毎年、多くの教員がこの制度を利用して世界各地で貴重な体験をしている。

この制度は、平成12年度に当時の文部大臣の私的懇談会である「国際教育協力懇談会」が提言し、文科省、外務省や都道府県教委などが協力し、13年度に創設された。

現職教員は、指導案の作成、教材開発、各種技術指導など、子どもに直接働きかける実践的な教育経験をもっており、その能力をいかんなく発揮して、途上国における教育分野で役立てることは、日本の国際協力においても、とても有効なものである。

一方、教員が途上国でいろいろな経験をすることは、視野を広げ、異文化理解はもちろん、コミュニケーション能力を向上させることにもつながり、帰国後、日本の子どもたちのために大いに役立つ。

また、日本国内のグローバル化等により日系人子弟も増え、学校現場の「多文化共生」が進む中、彼らの言語や生活を理解する人材が必要とされている。これら現場の要望を受けて、20年度から日系社会青年ボランティアについても本制度が適用され、日系ブラジル人社会への派遣が開始されている。
加えて、幅広い教員が参加できるように、25年度から私立学校教員の方も同制度の参加対象となった。

参加資格は、教師としての勤務経験が3年以上で、募集期間の最終日現在39歳以下であることが条件。

職種としては小学校教育、理科教育、数学教育、障害児・者支援、体育など約120職種あるが、小学校における算数・理科の指導および、図工、音楽、体育等の情操系科目の指導といったものが期待されている。

小学校以外に、教育事務所・教員養成機関などに勤務し、教員を対象に活動を実施する場合もある。

帰国後は再び派遣前の学校に勤務することもあれば異動ということもあるが、学校現場に復職し、多くの体験を生かすことになる。学校現場に戻った教員は、国際理解教育担当者や国際協力関係のNPO法人のファシリテーターとしても経験を生かしており、これからも国際理解教育分野での活躍が期待される。実際に、日系社会青年ボランティアで参加した教員によると、ブラジル国籍の学級担任となり、生徒や日本語を話すことができない親に対しポルトガル語で話すことでコミュニケーションが図れたという。また、ブラジルではお互いの距離感が非常に近いので2年間暮らしたことで、日本で生活している日系の子どもが、学校の中で友達との距離感に対し寂しい思いをしているのではないかということも、同教員の経験から感じられるようになったという。

独立行政法人国際協力機構=〒102―8012東京都千代田区二番町5―25/TEL03(5226)9323。

制度に関する詳しい説明やよくある質問などはホームページ(http://www.jica.go.jp/volunteer/)を参照。