インフルエンザやノロウイルスなど 冬の感染症対策を万全に【感染症特集】

インフルエンザ・ノロウイルスなど、感染症が流行しやすい学校現場――。今季は8月末から全国各地の学校でインフルエンザの集団感染の報告が相次いでおり、千葉県の学習塾では結核の集団感染が発生するなど、感染症対策が急務となっています。 そこで今回は、感染症の基礎知識と予防・対策を特集します。国の取り組みや対策方針を紹介するほか、専門家がウイルスや危機管理の基礎知識を解説。学校現場で取り組むべき衛生管理や健康教育について、最前線で働く養護教諭がポイントを指南します。


全国養護教諭連絡協議会役員 愛知県安城市立篠目中学校主任養護教諭 山下和美


 

全国養護教諭連絡協議会役員 愛知県安城市立篠目中学校主任養護教諭 山下和美
全国養護教諭連絡協議会役員 愛知県安城市立篠目中学校主任養護教諭 山下和美
健康観察の徹底で予防 保健管理から保健指導へ

例年、秋から冬にかけては、インフルエンザやノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の集団感染が多数報告されます。学校生活では、感染症が流行しやすい環境にありますが、特に中学校3年生は、受験の大事な時期と重なることもあり、生徒の感染症予防には、細心の注意を払っています。

学校における感染症の予防活動を効果的に行うために、本校では、次のような取り組みを行っています。

1.日常の健康管理の徹底

毎朝、学級担任は生徒の健康観察を行います。中学校では、教科ごとに教師が入れ替わるため、授業の開始時にも健康観察を行うようにしています。健康観察に際して、病気の初期症状の留意点を示し、感染症の兆候や発生を早期に発見し、集団感染を防ぐように努めています。

養護教諭は、全校の欠席や罹患状況を集約し、欠席者の増加傾向、登校生徒の感染症を疑う生徒が多数ある学級を把握します。また、保健室来室者や早退者の増加に留意しています。このような状況が見られる場合は、校長をはじめ、関係職員、学校医に相談し、今後の対応を協議します。

近隣の学校で、インフルエンザなどの流行が始まったら、朝の健康観察を強化し、インフルエンザ様症状などを把握し、そのような症状の生徒は、保健室においてフィジカルアセスメントを行い、学校生活が継続可能かどうかを判断し、感染者を早期に発見し、集団発生防止に配慮しています。また、インフルエンザは、飛沫感染が中心となるので、給食の時間は、グループで机を合わせて向かい合っての会食を中止したり、各クラスの生徒保健委員が、休憩時間ごとに換気を行ったりして、感染しにくい環境にします。

2.保護者との連携

感染症は、予防と早期発見が重要になります。家庭での保健管理に必要な情報について、保健便りや学校便りなどを使って知らせ、保護者の協力を依頼しています。また、学校での感染症の注意喚起には、携帯電話のメール配信システムの活用も行っています。

3.教職員の健康管理と危機管理意識

塾や学校の職員が感染源となる、結核の感染が後を絶ちません。インフルエンザに関しては、教職員の発症が毎年あります。養護教諭は、教職員が、集団感染の感染源にならないように、職員の健康管理にも気配りしています。予防接種を推奨し、感染症を疑う症状が見受けられる場合は、早急に受診するように指示しています。

中学校では、感染性胃腸炎の集団発生は少ないですが、吐しゃ物の処理は、常備している吐しゃ物処理セットと対応マニュアルに沿って、教職員が行うように周知しています。

学校内の感染症対策は、教職員の危機管理意識の向上が大切です。管理職と教職員の役割を明確にし、養護教諭が学校医と連絡調整し、組織的な体制を構築しています。

4.学校間のネットワークの活用

安城市では、市の教育センターにシステムサーバーがあり、市内小・中学校がネットワークでつながっています。その中に養護教諭の連絡掲示板があり、一つの学校からの情報が、各学校で閲覧できます。このシステムを活用し、各学校からの感染症情報が掲載されます。また、インフルエンザの流行期には、市内小・中学校のインフルエンザ罹患状況を毎週一覧にして、情報共有をしています。この情報を、時期を逸することなく、保健管理や保健指導を行うために役立てています。

5.保健指導

養護教諭は、日ごろから地域の感染症発生状況に留意し、生徒に対してタイムリーな指導が行えるように情報収集し、情報提供や保健指導に必要な資料を作成し、各学級において、指導が行えるようにしています。生徒自身が、今までに習得した知識を生かし、感染症予防の行動ができるように、こまめな指導に心がけています。

また、保健委員会の掲示板や手洗い場には、感染症に関する知識や正しい手洗いの掲示をして、生徒がいつでも情報が得られるようにしています。

特に、新型インフルエンザの流行以降、感染防止のためにマスクを着用する生徒は多くなりましたが、マスクの正しい着用方法や処理については理解が進んでいない様子も見受けられます。保健室を訪れるマスク着用者への個別指導や咳エチケットを、学級でも呼び掛けるようにしています。

健康観察の徹底など、日々の保健管理を充実させ、その情報を保健指導に生かすことで、感染症予防につながるように取り組みを進めています。

東京医科大学兼任教授 中村明子

 

東京医科大学兼任教授 中村明子
東京医科大学兼任教授 中村明子
正しい知識で予防対策を

今年も”冬の感染症”の流行シーズンを迎えた。厚生労働省は11月7日、インフルエンザの1週間当たりの患者数が昨年同期の約4.7倍である、と発表した。今シーズンの入院報告数も昨シーズンに比べて約4倍となり、患者の年齢は60歳以上が全体の6割超を占めているという。インフルエンザの他にも、ノロウイルスや麻しんなどウイルスによる感染症、放置しておくと集団感染を起こす結核菌による感染症などの発生報告が相次ぎ、予防対策の正しい知識が求められている。

◇  ◇  ◇

〈インフルエンザ〉

9月、東京都教委は、「都内公立学校におけるインフルエンザの予防及び発生時の措置について」という通知を出した。今季初めての学級閉鎖が発生したためである。初発の学校における初期の対応が功を奏したためか、その後の広がりは見られていない。

インフルエンザは、高熱、全身のだるさや筋肉・関節の痛みを伴う全身症状の強い疾患で、合併症も起こしやすい。肺炎や脳炎などにより死に至る場合もある。インフルエンザは世界中至るところではびこっており、いまだに残されている最大級の感染症といえる。周期的に流行が現れるところから、16世紀のイタリアの星占家たちは星や寒気の影響(influence)によるものと考え、これがインフルエンザ(influenza)の語源になったといわれている。

インフルエンザの予防対策は、流行期には人込みを避けること、外出の際には咳による飛沫を遮断するためにマスクを着け、付着したウイルスを除去するための手洗いを実行するなど、基本的な注意を守ることである

〈麻しん〉

「はしか」ともいわれ、患者の咳やくしゃみに含まれる麻しんウイルスを吸い込んで感染する。39度前後の高熱とそれに続く全身の発しんが特徴である。感染性は非常に強く、抗体を持たない人が患者の飛沫を浴びると、ほぼ100%感染する。肺炎や中耳炎などの合併症を起こしやすく脳炎になる場合もある。麻しんは対症療法のみで、ワクチンによる予防が最も重要である。麻疹・風疹(MR)混合ワクチンの2回接種が導入されており、1歳で1回目の接種、小学校入学前の1年間に2回目の接種が行われる。

〈結核〉

8月、千葉県F市の学習塾で結核の集団感染が発生した。結核に感染していた塾講師が原因で、塾の生徒43人を含む56人の感染が確認された。結核は飛沫により排出する結核菌の感染によって発病する伝染性疾患である。患者の咳やくしゃみとともに排出され空中に浮遊している結核菌を、免疫のない若年者が吸い込んだ場合は特に感染の危険が高い。周りの人に結核をうつす恐れがあるのは喀痰中に結核菌を出している患者なので、これらの早期診断と治療が大切である。

〈ノロウイルス感染症〉

ノロウイルス感染症は12月~3月の発生が多く、昨年には食中毒患者の40%を占めた。ノロウイルスは食品中で増殖できずヒトの小腸のみで増殖し、ふん便およびおう吐物中に排出される。
ノロウイルス感染症の主な症状は、下痢、腹痛、おう吐で、潜伏期間は12~72時間、1~3日後には症状は治まる。しかし、ふん便中には長期間ウイルスを排出し続けるので、注意しなければならない。

ノロウイルス食中毒の原因食品は、牡蠣など生の魚介類とされていたが、現在は、ノロウイルスを保有しているヒトの手指を介して、あらゆる食品が汚染されることが明らかになった。ノロウイルス粒子の感染数は極めて少なく、一人当たり10~100個である。

ノロウイルス感染症に有効な治療薬はなく、予防のためのワクチンも無い。ノロウイルスを不活化する消毒剤も、高濃度の塩素系薬剤など限られたものしか効き目がないために感染源対策も難しい。しかし、感染経路を断つことでノロウイルス感染を防ぐのは可能である。

ノロウイルスの感染経路は、汚染食品を介した経路と感染者からの二次感染である。ノロウイルスに感染・発症したヒトのふん便やおう吐物の中には膨大な数のノロウイルスが存在しているから、便やおう吐物の正しい処理方法が必要である。

平成27年の厚生労働省食中毒部会の報告によると、ノロウイルス食中毒発生要因の65%は食品取り扱い者が原因であった。下痢やおう吐の症状がある人が食品取り扱いを控えるのはもちろんのこと、症状のない感染者(ウイルス保有者)も発症者と同程度のノロウイルスを排出するので、ノロウイルス流行シーズンには、すべての食品取り扱い者は、「ノロウイルスを保有している可能性がある」との前提で調理作業などに従事することが重要である。

ノロウイルス感染の予防は、(1)せっけんでの手洗い(2)おう吐物の処理を素手で行わない(3)ウイルスの消毒(不活化)に塩素系薬剤を使用する——など、基本的な衛生管理を守ることで対策が可能となる。

筆者註/7月1日、厚生労働省から「大量調理施設衛生管理マニュアル」の改正について(生食第0701第5号)が出され、その中でノロウイルスの不活化条件に関する調査結果が報告された。近いうちに結論が導かれるものと思われる。

文部科学省健康教育・食育課 健康教育調査官 小出彰宏

 

日常対策以外の予防

学校は、児童生徒等が集団生活を営む場であることから、感染症が発生した場合は感染が拡大しやすく、教育活動にも大きな影響を及ぼすことになる。感染症予防の基本は、栄養と睡眠を十分に取って抵抗力を高め、手洗い・うがいを心掛けること、換気などを行い、衛生環境に気を付けることなどの日常対策である。

一方、学校保健安全法(第19条および第20条)では、感染症予防対策として、出席停止および臨時休業が規定されている。校長は、感染症にかかっている、かかっている疑いのある、またはかかる恐れのある児童生徒などがあるときは出席を停止させることができ、学校の設置者は学校の全部または一部の休業を行うことができる。

出席停止の期間は、学校保健安全法施行規則(18条および19条)において、感染症を第一種、第二種および第三種の3つに分類し、人から人への感染力を有する程度の病原体が排出されている期間を基準に、感染の種類に応じて規定されている。

第一種の感染症は、「治癒するまで」とされ、第二種の感染症(結核および髄膜炎菌性髄膜炎を除く)は、感染症ごとに個別に定められている。インフルエンザ(鳥インフルエンザや新型インフルエンザは除く)であれば、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」と規定されており、「発症」および「解熱」という現象が見られた日を第0日、その翌日を第1日として算定する。結核、髄膜炎菌性髄膜炎および第三種の感染症は、「病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めるまで」と規定されている。

第三種の感染症には「その他の感染症」との記載があるが、学校で通常見られないような重大な流行が起こった場合に、その感染拡大を防ぐために必要があるときに限り、学校医の意見を聞き、校長が第三種の感染症として緊急的に措置を取ることができるものとして定められたものである。

したがって、感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルス)、サルモネラ感染症(腸チフス、パラチフスを除く)、カンピロバクター感染症、マイコプラズマ感染症などが学校でしばしば流行するが、必ず出席停止を行うべきというものではない。

教職員がインフルエンザなどの感染症にかかった場合の病気休暇については、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」における就業制限などを踏まえて適宜判断することになるが、各学校等の判断において学校保健安全法施行規則の基準を準用することは差し支えない。

また感染症予防対策の一つとしてワクチン接種がある。今年は関東、関西を中心に麻しんが流行した。国内に由来する麻しんウイルスは、昨年に世界保健機関(WHO)から「排除状態」にあると認定されており、今年の流行は海外からの持ち込み症例を発端としたものである。麻しんワクチンは、平成18年から小学校の入学までに2回接種することになっている。

2回接種となった理由は、(1)1回の接種で免疫がつかなかった子供たち(数%存在すると考えられる)に免疫を与えるため(2)1回の接種で免疫が付いたにもかかわらず、その後免疫が減衰した子供たちの免疫を強固なものにするため(3)1回目に接種しそびれた子供たちにもう一度接種のチャンスを与えるため——である。教職員は罹患歴および予防接種歴を確認し、未罹患であり、かつ、麻しんの予防接種を2回接種していない者については、予防接種が推奨される。

体力の弱い子供たちは、感染症に罹患すると重症化しやすいことから、子どもたちと接する機会の多い教職員には、より適切な感染症対策が求められる。

参考:学校において予防すべき感染症の種類