食生活を見直す独自教材作る 青年海外協力隊員としてサモアへ派遣【JICA】

貧困と幸福度について授業で伝える
貧困と幸福度について授業で伝える
帰国後は民族衣装で世界に視野
埼玉県立新座柳瀬高校の関美奈子教諭

サモアの人々のおおらかで深い愛に学ぶ——。埼玉県立新座柳瀬高校(高橋厚裕校長、生徒数692人)で家庭科を指導する関美奈子教諭は、国際協力機構(JICA)が派遣する青少年海外協力隊の現職教員特別参加制度で、06〜08年まで、サモアのセカンダリースクールで家庭科の授業や教師研修の支援に携わった。教育環境や生活インフラが不十分な中で、創意あふれる調理実習を実施。視覚で学べるフードモデルの共同制作なども行った。

帰国後は、民族衣装を着て世界を意識させる授業やブタを解体した経験を伝えて命を考える指導などを行っている。協力隊の経験を生かして生徒の学習意欲を向上させ、世界を意識する学びにつなげている。

子供の状況を見ながら手探り

赴任したのはサモア独立国。教育省に配属され、サバイイ島のアサウ村にあるセカンダリースクールで、家庭科授業や教師研修を担った。

村は、電気や水道は通っているものの、通電が時間制限だったり、給水施設が不十分で海水が混じったりするなど、不便な生活環境だった。学校の教室環境も同様で、調理や被服室などの専門教室は無く、机やいす、教科書も揃わない中での指導だった。

当初は、サモアの教育課程に導入されたばかりの家庭科指導の普及として、現地の家庭科教師の研修を担う予定だった。しかし、教員が不足しており、授業も担当するようになった。

関教諭は、そんな不便で流動的な状況を楽しみながら、創意工夫の力を発揮。フード・アンド・テキスタイル、ソーシャル・サイエンスという規定の指導内容を押さえつつ、教室の子供たちの状況や要望を見据えながら授業内容を手探りで考案し、実施していった。

栄養バランス学ぶ自作教材を開発

教室で子供たちとの関わりを深める中で試みた授業のひとつが「調理実習」。サモアの家庭では父親の権威が高く、食事も最優先。子供たちは十分に食べられず、いつも空腹な状態にあった。そんな背景の中で、植物の葉や身の回りの物を活用して食器などとし、調理器具などが揃わない中でも、調理と食事を楽しんだ。

また偏った食事や生活スタイルの影響で、肥満や生活習慣病の蔓延が課題となっていた。そこで、家庭科の教育課程を視野に、栄養素の理解やバランスの取れた食生活の大切さについても伝えた。

多様な栄養素と献立のバランスを学べるように、オリジナル教材も作った。小麦粉と細かくちぎった新聞紙に水を混ぜて粘土状にし、鶏肉や野菜、インスタントラーメンなどを造形。色も似せた。これらを、五大栄養素や三色食品群に分類していく授業を行い、適切な食事量と栄養のバランスを、生徒自らが視覚的に考えられるようにしたと振り返る。

世界の多様な価値観を伝える

帰国後には、派遣先での体験を、授業や多様な活動に、積極的に生かした。サモアの人々から学んだ最も素晴らしい姿勢は「おおらかさと、関わり合う全ての人々への深い愛情」だと語る。それに対し、日本の生徒たちは、衣食住には困らないが、自分の限られた生活範囲の中で狭い見方をしがちで、悩みを悶々と抱え続けているように見えたと述べる。

授業で、サモアの人々の生き方や価値観を伝え、生徒たちに広い世界や見方を知ってほしいと願う。合わせて、世界の異なる生活や文化、価値観も学んでほしいとの思いを示す。

そこで、サモアの民族衣装を着て授業を実施。生徒に世界への興味や目を向けさせるきっかけなどを届けている。同時に、和装での指導も織り交ぜ、日本と世界を対比させて見る意識なども育んでいる。

サモアでの調理実習などの体験を踏まえ、生徒にニワトリやブタを解体する流れなども伝えた。店頭の加工肉しか見る機会がない生徒たちに解体のプロセスを知ってもらい、命をいただく重要性や生活の原点を学んでほしいとの願いを抱いている。

また世界では飢餓のために5秒に1人が亡くなっている事実も話す。生徒たちに日本の日常生活を超えた視座を持たせ、広い世界観を持って人生を大切に生きてほしいとも伝えている。

これまでの教え子の中には、関教諭のサモア赴任中に、突然訪ねてくれて共に活動したケースもあるという。教職に進んだ教え子が同制度を利用してサモアに協力隊として赴いた事例なども、うれしそうに話す。

JICAの講演での講師役も多数引き受けている。後に続く教師たちに、同制度を通じた体験の意義を伝え、応援する活動にも力を尽くしている。

青年海外協力隊の「現職教員特別参加制度」を検討している教員には、「日本の当たり前や常識は、世界で異なる場合が多い。教育への新たなエネルギーを養うために、協力隊にぜひ参加してほしい。こんなに恵まれた環境と保障の中で海外研修ができる制度はないと思う」と薦めている。

協力隊の体験は教師力向上にも役立つと評価

高橋校長は、関教諭の普段の指導について「アイデアが豊富で、生徒たちをまとめる力や学びの興味関心を抱かせる授業がとてもうまい」と大きな賛辞をおくる。

海外の人々と仕事をし、世界から日本を見つめてきた体験は、教師の仕事に大いに役立つし貴重だと考えている。グローバル化が進展する中で、海外体験による広い世界観と多様な指導力は貴重。協力隊の経験が教職にも十分に還元されていると、その意義を強調する。

同制度の利用を希望する教員がいれば、応援したいとも話している。


関教諭が参加した「現職教員特別参加制度」について詳しく紹介

◇ 「現職教員特別参加制度」とは

◇ よくある質問

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