小学校の英語教科化に向けて 注目されるTOEFL Primary(R)

指導力と児童の意欲を向上

新学習指導要領で定められた、平成32年度の小学校の英語教科化(外国語科)を前に、教員の指導力と児童の英語学習への意欲の向上が課題となっている。そんな中で、指導と評価の一体化の具体的な方法が探られている。そこで注目されているのが、小・中学生向けに開発された英語テスト「TOEFL Primary(R)(トフルプライマリー)」である。先駆けて同テストを昨年度に導入実施した、秋田県由利本荘市立由利小学校(畠山隆校長、児童212人)の実践を取材し、同校の指導に当たった町田智久国際教養大学准教授にインタビューした。

ノンネイティブの担任が英語使う その姿を児童に見せるのが重要
町田智久国際教養大学准教授に聞く

町田准教授
町田准教授

――なぜ小学生から英語教育が必要なのか。

「21世紀型スキル」と呼ばれる、21世紀を生きる子供たちが身に付けるべき能力がある。具体的には、コミュニケーション能力や対応・適応力、問題解決能力などだ。その核は言語能力。グローバル化を考えると英語能力は基本であり、21世紀型スキルを伸ばすために必要だ。それが一番の目的で、すでに必要とされている。早い段階から導入するほうがいい。

――教える側はどうすればいいか。

新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」と掲げている。ただのイエス、ノーではなく、問題をいかに深く掘り下げて答えを見つけ出していくかが求められている。授業では、それを提示する必要がある。なぜそう思うのかまで問いかけ、グループで考えさせて、協働しながら答えを導き出す方法を学ばせなければいけない。多くの教員は、どの教科でも子供が考える過程を大切にしている。しかし、英語になると、教え方が分からないと固まってしまう。考える過程を大切にする発問のしかたは同じでいい。新しい指導法が必要なわけではない。

――小学生に英語を教える上での、具体的なアドバイスを。

特別なことはない。他教科と同様に、授業のゴールを示し、達成させるために活動やタスクを生かせばよい。英語で特徴的なのは、小学生の段階ではインプットが中心になる。リズムやイントネーションなど、日本語との違いに気付かせ、慣れさせるのが大切だ。

――評価はどうすればよいか。

評価には2種類ある。小テストやルーブリックを使い、途中経過をみる形成的評価と、中間や期末の定期テストなどの総括的評価だ。英語のスピーキングやリスニング力を見るには形成的評価が良い。授業を進めながら、「ここが強い、ここが苦手」と把握して、次の授業に反映させる。TOEFL Primaryの良いところは、スコアが出て、どこが弱いかや、頑張るべき箇所かが分かる点だ。指導と評価を一体化でき、担任はより具体的なアドバイスができる。

――TOEFL Primaryは教育現場で使いやすいか。

検定級の合否ではないので、子供が「不合格になった」という気持ちにならないのが、なにより良い。そしてグローバルな人間を育てるのだから、評価も世界基準なのが良い。複数の言語が使われる欧州では、異なった学習環境で得た言語技能を比較するためにCEFR(セファール)が作られた。TOEFL Primaryのスコアは、このCEFRでのレベルが分かるようになっている。世界での自分の英語レベルが把握できるので、「わくわくする」と言った児童もいた。テスト時間も、リーディング30分、リスニング30分と、子供たちが集中できる長さ。さらに、身近な学校、家庭、友達などがテストの話題の中心になっているので、親しみやすいテストだ。日常で体験する場面が多く、こういうときに、こうやって使えるのか、表現できるのかと想像しやすいので、小学生にとても向いている。テストのための勉強ではなく、生きた知識になる。

――英語に苦手意識のある教員にアドバイスを。

英語が苦手な教員が発音を教えて大丈夫かという不安をよく聞くが、実は問題ではない。世界中の国々に訛りがある。大切なのはきれいな発音ではなく、相手に伝わる、分かる発音だ。国連の会議をみても、各国の代表に訛りはあるが、自信を持って自分たちの主張を伝えている。ネイティブのALTが英語を使う様子ばかりを見せても仕方がない。ノンネイティブとして英語を使う大人が、児童の目指す姿だ。ノンネイティブである担任が、どう英語を使うかという姿を見せれば、児童にとって将来のイメージモデルになる。だから先生には、頑張って英語を、どんどん使ってほしい。苦手な人が英語を使う姿、完璧でない姿を児童に見せることに意義がある。英語学習は、新しい視点や文化を教えてくれる世界への扉だ。教員はそういう意味では、児童にとってのスーパーヒーロー。ノンネイティブとして、どう英語を使うかという、いい見本になってほしい。

児童が英語学習に積極的に 授業づくりにも結果を反映
秋田県由利本荘市立由利小学校

(左から)佐々木真智子教諭、丹野紋子教諭、小番雅和由利中学校教頭
カードやディスカッションなど、さまざまな手法を取り入れ、すべて英語で行う

文科省の「英語教育強化地域拠点事業」の地域拠点校でもある、由利小学校。全学年で「Enjoy English活動」に、通年で積極的に取り組んでいる。1、2年生では英語に触れ、3、4年生では英語に親しみ、5、6年生では英語に慣れ、四技能(聞く、話す、読む、書く)の初歩を身に付けていく。

1~4年生の外国語活動と、5、6年生の英語科の学習は、町田准教授の指導で、すべてを英語で行っている。

この日の授業は、「憧れの人について、よりよい紹介ができるように、友達とアドバイスし合いながら話すことができる」ようになるのがねらい。授業者である担任の佐々木真智子教諭、副担任の丹野紋子教諭は、ALTとともに、すべてを英語で進行した。

一方通行的な授業ではなく、身振り手振りをたくさん使って、児童と対話するように熱心に英語で指導する両教諭。適宜、児童らにもグループワークや発表をさせて、英語での発言を促した。

児童らも、“My hero is my father!”“My hero is my friend!”と、自分にとってのヒーローを英語で返答。その表情は豊かで、緊張している様子の児童は一人もいない。リスニング力、スピーキング力だけでなく、思考力、判断力、表現力も培われているのが見て取れた。

佐々木教諭は「本校の方針として、単元のゴールを最初にきちんと示すようにしている。授業の冒頭で、これから学習する内容が何につながっていくのかを児童に示し、ここに向かって頑張っていると目標をもたせる。そうすることで『話したい』『考えたい』という興味がわくようにしている」と、同校の英語教育方針を語る。

その同校がTOEFL Primaryを実施したのは昨年度。7月と2月の2回にわたり、当時の6年生全員が、ステップ1(リスニングとリーディングのマークシート方式)に挑戦した。

同テストは、「どれだけ覚えたか」ではなく、「どれだけ使えるか」を測定するための問題づくりが特長だ。受けた児童の反応は、どうだったのか。

カードやディスカッションなど、さまざまな手法を取り入れ、すべて英語で行う
(左から)佐々木真智子教諭、丹野紋子教諭、小番雅和由利中学校教頭

当時の児童の担任だった丹野教諭は「リスニングは、英検のようにゆっくり2回話すのではなく、普通のスピードで1回話す出題スタイル。7月の時点では、まだ児童らには難しいかもしれないと思ったが、振り返りを見ると、児童らは『聞き取れた部分があった』と、かえって自信を深めていた。自分たちなりに手応えを感じたようだ。2月にもう一度、挑戦できると知ると、『次はもっと読めるように』『もっと話せるように』と、自分たちで目標を持ってくれた」と効果を話す。

同テストは、検定級の合否を判定するものではなく、結果がスコアで示されるので、児童の英語力が的確に分かる。同教諭は「児童の伸びや、何に関心を持っているかなど、スコアから読み取れるデータがたくさんあった。リーディングが苦手なのが分かったので、授業に英語の絵本を読む活動を取り入れたところ、児童らの意欲がすごく向上した」と、結果を授業づくりに活用したという。

また教員側にも大きな発見があったという。小番雅和前教頭(現在は同市立由利中学校教頭)は「外部評価によって、児童にどれだけの力がついたかを見るのが目的だったが、小学校段階の児童の潜在能力は、私たちが思っているよりも、はるかに高いと知らされた」と振り返る。

「授業のスタンダードをどこに置くかは、とても重要。なぜなら、そのレベルまでしか子供たちは伸びないからだ。TOEFL Primaryは、実際にレベルは高いのだが、それだけの内容でも、児童はついてきた。力をぐっと高く引き上げられると分かった」と話す。

TOEFL Primaryを受けた昨年度の6年生児童らは、中学校1年生になった今も、英語学習に積極的だという。

同校では今後も、TOEFL Primaryで得られた結果を、授業づくりに反映させていく方針だ。

TOEFL Primary(R)とは

世界最大のテスト開発機関ETSが開発。小・中学生向けで「CEFR」A1未満~B1レベルの英語運用能力を測る。TOEFL(R)のファーストステップのテストとして、世界約50の国と地域に広がっている。