「資質・能力」と学びのメカニズム 著者の奈須正裕上智大学教授に聞く

一般教員が全体を俯瞰できる
奈須正裕 著 東洋館出版社 1850円+税
奈須正裕 著
東洋館出版社
1850円+税

中教審初等中等教育分科会の教育課程部会、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会など、数々の部会の委員として学習指導要領の改訂に携わった奈須正裕上智大学教授が、『「資質・能力」と学びのメカニズム』を上梓した。新学習指導要領の「資質・能力」論を理解するためのポイントなどを、体系的に、明瞭に解説している。同教授に聞いた。

――この本の役割は。

新学習指導要領は、内容中心の学力論から「資質・能力」を基盤にした教育へと劇的に変わった。教える内容は現行と変わりないが、どんな学力を身に付けさせるかという質が変わる。しかし「資質・能力」という言葉は、どういう概念で、なぜ出てきたのかが分からないと、現場の教員は授業もカリキュラムも作れない。

とはいえ学習指導要領には、そういう背景は書かれていない。中教審答申を読むのもよいが、それ以外の議論も多いし、現場の教員に時間はないだろう。だから「資質・能力」論をはじめとする、新学習指導要領で書かれている学びについてまとめた。

――どういう視点で、新学習指導要領を読み解いているのか。

マクロとミクロの2つの視点からだ。マクロの視点とは、社会や経済からの視点だ。2030年の社会を考えると、AIやロボティクスで、私たちが教えてきた伝統的な内容中心の学力論は無効化されてしまう。インターネットで即時に調べられるし、単純な技能はAIに置き換えられる。教育として重要なのは、そうした社会に適応する子供を育てていいのかどうかだ。

思い違いをしている向きが多いが、「社会に開かれた教育課程」とは、社会に遅れずに付いていくという意味ではない。社会の変化を主体的に受け止め、自分で判断して生きていける人間を育てるという意味だ。知識を作り出し、多様な他者と協働し、考え続ける「資質・能力」が大事になり、教員や学校も変わらなければいけない。つまり、私たちは世界史的に大きな変動の時代にいるという、マクロな視点で書いた。

――ミクロの視点は。

学ぶ、育つ、生きるという、子供の自然な「学びのメカニズム」からの視点だ。「資質・能力」は高度なことだと思われているが、赤ん坊や幼児にとっては、教わらずに自分で知識を生み出したり、よりよい状態を求めて考えたりするなど、当たり前で自然なことだ。私は心理学者なので、社会がどう変わろうとも、人間がどう学び育つかを考えると、自ずと「資質・能力」論になる。高度な学問を新たに教えるのではない。子供が学び、育とうとする、もともとの動きの先に、資質・能力主義がある。実は「子供を大事にする」「丁寧に見つめる」ということでしかない。

それが分かると、教員はすごく楽になるはずだ。

――どういう教員に読んでほしいか。

学級担任など、現場の先生方だ。若い教員に読んでほしい。管理職は学習指導要領の改訂に敏感だろうが、普通の先生方に自分の考えを形成していただきたいので、「学習指導要領とは何か」という始まりから優しく書いた。さらに第4章では、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を解説した。

これからは、教科の系統や本質が重要になる。ここもしっかり読んでほしい。新学習指導要領で押さえるべきポイントは、実は多くない。「社会の変化」「子供の学び」「教科の見方・考え方」の3つだけだ。それをコンパクトにまとめた。

これらを押さえて、それぞれがどんな関係かを了解すれば、あとは先生方が一人ひとりのこだわりや個性や持ち味、得意を生かして授業を作れる。いろいろな解説書が出ているが、全体を俯瞰してポイントを明示しているのは、本書くらいだろう。