4月10日は「教科書の日」

「今年の教科書の日は、特に意義深い」――。新学習指導要領に先立ち、今年度から、小学校で道徳の教科書の供給がスタート。中学校でも道徳の教科書の検定結果が公表された。さらに、2019年度からデジタル教科書の併用を可能とする学校教育法改正案も国会に提出された。

教科書を取り巻く状況が大きく変化しつつある今、文科省の梶山正司教科書課長には「これからの教科書に求められる役割」を、また、(一社)教科書協会の千石雅仁会長には、「教科書完全供給制度の意義」や「新学習指導要領の趣旨を実現するための教科書の役割」についてそれぞれ聞いた。

これからの教科書に求められる役割とは 新学習指導要領の趣旨の実現目指す

梶山正司文科省教科書課長に聞く

「主たる教材」として役割の再認識を
――教科書が果たしてきた役割とは。
デジタル教科書を考える上で、教科書の役割を再認識したという梶山課長
デジタル教科書を考える上で、教科書の役割を再認識したという梶山課長

最近のトピックスとして、デジタル教科書の併用を可能とする学校教育法改正案を国会に提出した。一般的な使用だけでなく、特に、特別な支援が必要とされている子供たちにも、デジタル教科書が果たすであろう役割に対する期待は大きい。ICTの技術を生かして、デジタルならではの教育を展開していく。まずはそのためのキックオフだと捉えている。

実は、デジタル教科書の併用を考える過程で、教科書がこれまでどういう効果を持っていたか、どういう役割を持っていたのかを再認識するところから検討を始めた。現行制度における教科書の意義や位置付けとして、教科書は普通の教材と違って、▽各学校における使用義務▽検定による質の確保▽義務教育段階での無償給与による経済的負担の軽減▽国から発行者への発行指示や価格認可による安定供給の確保▽著作権の権利制限など適切な著作物の利用による質の向上――によって、全国的な教育水準の向上や教育の機会均等の保障、適正な教育内容の担保などを実現してきた。

教科書が教育の主要なファクターとして機能してきた。まさに、学校教育の主たる教材だと思っている。

その上で、デジタル教科書についてはその効果を今後検証しつつ、今後の方向性を検討することになるが、これからの教科書が、紙であれデジタルであれ、同じ役割を果たしていくのが「教科書」であると考えている。

新要領に合わせて検定基準も検討
――学習指導要領の改訂で、どのような教科書が求められているのか。

学習指導要領の改訂で、今年、小学校の新しい教科書の検定が行われる。その前段階として、道徳が先行的に実施される。いわゆる「アクティブ・ラーニング」を、ある意味で先取りし、子供たちに価値観を押し付けるのではなく、子供たちが考えて議論する道徳が求められており、教科書にもさまざまな工夫をしていただいたと思っている。

道徳の教科化や教科書の使用をめぐっては、今までの道徳の授業や副教材の使い方が、いわゆる「読み物道徳」になっていたという批判があった。そこから脱して、考え議論していく道徳を目指す上では、教材そのものというよりも、教材の中にある道徳的価値というものを、子供たちなりに考えて、周りのクラスメートと話していくということ、それを先生方の授業の中で高めていくことが極めて重要なのではないか。また、身近なオリンピック選手や先人のエピソードなど、教科書では子供たちの関心を引くような素材が多様に収載されている。こうしたものから考えていくのも、質の向上につながっていくだろう。

子供たちの手に渡るのは19年度になるが、中学校道徳の教科書でも、中学校ならではの社会的な課題、現代的な課題について取り上げられている。それらを生かして、自分の生き方や在り方をより深く考えていくことを期待したい。

――高校の学習指導要領も告示されたが。

高校の教科書の検定基準も、新しい学習指導要領に合わせて検討していく。新しい学びに対応して、教科書も常に変わっていく必要があると思っている。特に高校に関しては、新しい教科・科目が多い。教科書発行者は、新科目に対して、根元から考えて、教科書を作ってもらうのが一番重要だ。新教科・科目の根元と照らし合わせて、今求められている教育に必要なものをぜひ発行者に考えてもらいたい。2年ほどの時間しかなく大変な作業だとは思うが、それこそが今までの日本を支えてきた教科書発行者の腕の見せ所であろう。良い教科書を制作してもらえるものと大いに期待している。

新しい教科として理数科が置かれ、科目としての「理数探究基礎」では教科書が使用される。探究のやり方を学ぶのが「理数探究基礎」の一番大きな要素になるだろう。今回の学習指導要領の改訂は、現場の取り組みを踏まえており、SSHの取り組みなども参考にしている。教科書もこのようなことを踏まえ、検討されると思われる。そういった新しい動きに対応した教科書を発行者にぜひ考えてもらいたい。良い教科書の発行こそが新学習指導要領の趣旨の実現に不可欠である。

「完全供給」で学校現場に貢献
――教科書の日に向けて、教員にメッセージを。

日本の教科書は、世界の他の国々と比較してもとても優れている。コンパクトにまとめられ、子供たちの学力を上げるための工夫にあふれている。その教科書の力を発揮し、実効性のあるものにするためには、全国津々浦々にきちんと供給されているという完全供給の実現が極めて重要だ。これまでも震災などに遭い、教科書が子供たちの手に渡らないのではないかと危惧されても、教科書関係者が力を合わせてその危機を乗り越えて、確実に供給してきている。日本の教科書供給制度は、何かあっても教科書をそこにいる子供たちにきちんと届けられるようになっており、世界に向けて誇れるものである。それは、教育の機会均等を維持する上でも重要な役割を果たしており、とても感謝している。

今まで述べたように教科書は、発行者の今までの蓄積や、最新の知見を生かした工夫により、非常に使いやすく、基礎的な学力を付けるのにも極めて有効だ。最近、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子著、東洋経済新報社刊)という本が話題だが、そういう意味でも、先生方には義務教育段階において教科書の内容が分かる子供というのを育ててほしい。教科書を使って教育の質の向上を目指すのは先生方の手にかかっており、先生方にお願いするしかない。文科省としても、より使いやすい教科書、間違いのない教科書を目指して取り組んでいきたい。

これまでの連続性に加え、新しい取り組みが始まった本年における「教科書の日」は、特に意義深い。教科書については、教科書発行者や供給業者だけでなく、保護者の方の理解も必要だ。教科書が義務教育では無償なのはなぜなのかを、今一度考えてもらい、これからも教科書の無償給与が続くよう、ご支援・ご協力くださるとありがたい。

新学習指導要領実施を前に 教科書の大切さを再確認

一般社団法人教科書協会会長 千石 雅仁

千石(1)教科書完全供給制度の仕組み、概要、その意義

教科書は、学校教育法で使用義務が定められた、学校教育における「主たる教材」であり、授業の中で先生方と子供たちとをつなぐ大きな役割を果たしています。こうした教科書を発行者から先生方や子供たちに届ける仕組みが、教科書完全供給制度です。この制度の最大の意義は、「完全」という言葉に集約されています。

新学期が始まる4月や9月に日本の全国津々浦々の児童生徒はもちろん、海外の日本人学校に通う子供たちにも確実に教科書を届けることで学びの機会を保障するという点に、この制度の大きな意義があります。

この「完全供給」の義務を履行するために教科書発行者と全国の都道府県ごとに53カ所ある教科書特約供給所、そして約3000カ所におよぶ教科書取次供給所を結んだ、緻密な供給ネットワークが張り巡らされています。児童や生徒に供給される教科書の組み合わせは多岐にわたるため、複雑な供給を、迅速かつ確実に行うためには、こうしたネットワークが不可欠です。

(2)新学習指導要領の趣旨を実現するための教科書の役割

2020年度の小学校から完全実施される新しい学習指導要領は、検討の過程から「育成すべき資質・能力」や「主体的・対話的で深い学び」といったキーワードがクローズアップされてきました。こうしたキーワードを具体化した学習指導要領にのっとって、授業の中で「主体的・対話的で深い学び」を実現させ、児童生徒に「育成すべき資質・能力」を育むための教材を提供することが、先生方と子どもたちとをつなぐ教科書の、大きな役割であることは論をまちません。

しかし、今回の新学習指導要領の下では、教科書にはもう一つ大きな役割が期待されていると考えています。その役割を表しているのが、小・中学校の新学習指導要領の前文に示されている、「社会に開かれた教育課程の実現」というキーワードです。

前文では、「よりよい学校教育を通してよりよい社会を創る」という理念を、学校と社会とが共有する必要性が述べられており、学校や教室という枠組みを超えて、地域社会や国際社会にまで視野を広げることが求められています。新学習指導要領では、国内外に山積している現代的な諸課題を解決し、より良い社会を創るために必要な視野の広さを児童・生徒に身につけさせること、換言すれば「社会と児童・生徒とをつなぐ」という点が、教科書の役割として期待されていると考えています。

(東京書籍株式会社代表取締役社長)