エストニアとフィンランドのICT事情

JAPET&CEC海外調査部会が報告会

(一社)日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)海外調査部会では5月11日から19日にかけエストニアとフィンランドに赴き、ICT活用を中心に教育関係機関や学校などを視察した。その成果を、このほど開かれた報告会で発表。日本のICT事情、プログラミング教育の方向性や課題も念頭に置きながら、教育制度やICT活用、プログラミングへの取り組みなどが報告された。

【エストニアの教育制度】

国家の運営に世界で最もICTを活用している国といわれ、国民IDカードでほとんどの住民サービスをICTで提供している。

義務教育(7歳から15歳)は小中一貫のベーシックスクールで学び、高等学校(16歳から18歳)は一般の学校と職業訓練系の学校に分かれる。大学は学士3年で修士は2年である。教師になるためには、修士まで学び、1年間の教育実習期間が必要である。

▽ICT教育を支えるHITSA

全ての学校がインターネットにつながり、PCが整備されたのが2001年。12年にはプログラミング教育の礎となるProge Tiger Programmeが始まり、13年にHITSAが設立された。

HITSAは、国、タルトゥ大学、タリン工科大学、Eesti Telekom、IT及び電気通信会社協会によって設立され、教師や子供たちに対してICT関連の技術的支援行っている。

具体的には、教育におけるICTのスマートな利用促進、教育機関が必要とする学習・指導及び職場のためのITサービスの提供、光通信を基盤としたネットワークサービスの開発・提供などである。

また、教員研修も実施しており国内の教員2万5千人のうち年間3~4千人が受講する。学校現場では、ほとんどの学校で子供用のフリーWi-fiが提供され、BYODも認められており、そのことが教育予算を補うことにつながっているという。PC一人一台があたりまえの環境となっている。

▽Proge Tiger Programmeで充実のリソース

プログラミング教育は、年齢・学年に応じ、適切な学びが段階的に行われている。ナショナルカリキュラムは目標だけを示しており、目標にどう到達するかのプロセスは学校が決め、当該カリキュラムは各学校で「科目横断」に開発し「学習成果」を可視化できるようにしている。ロボット教材、ドローン、3Dプリンター、VR・ARなど、使われている教材は学校によってさまざまである。

オンラインリソースに関しては、Proge Tiger Programmeが教師、子供、保護者にとって大きな支えになっており、広く活用されている(18年には全学校の87%、幼稚園の60%、768の教育機関で活用)。

デジタルリソースは、現在、教材として60の学習シナリオ、100の授業案・指導案が用意され、プログラミング、アプリプログラミング、ロボティクス、3Dデザイン・モデリング、マルチメディアの5つのカテゴリーから検索ができ、ツールを探したり、活用方法などを参考にしたりできる。

【フィンランドの教育制度】

PISAで常に好成績を残している国で、公平な教育機会が保証され、就学前、義務教育、高校、大学まで教育費が無料である。義務教育(7歳から15歳)は9年一貫性の総合中等学校で学び約90%がその後の高等教育(16歳から18歳)に進学。高等学校もしくは職業学校で3年間学ぶ。高等学校は高校卒業資格試験となる全国統一テストがある。大学は学士3年で修士は2年である。

現在の教育制度の土台が作られたのは1990年代の教育改革で、具体的には、①教育現場への大幅な裁量権(学習指導要領の内容を大幅に削減し、方向性やガイドライン、最終学年時点のおおまかな到達目標の提示にとどめ、残りを地方自治体、学校、教師の裁量権に委ねた)②教育養成の強化(修士課程修了を必須化。半年間の教育実習)③教育への予算投資の増加④教科書検定制度の廃止――など大胆なものであった。

16年施行(14年に改定)されたNational Core Curriculum(学習指導要領)では、「義務教育1年生からプログラミング教育を必修化」「教科横断型のテーマ設定(教科学習に7つのコンピテンシー(①思考力、学ぶことを学ぶ②文化的コンピテンス、相互作用、自己表現③自己管理④情報活用能力⑤ICTコンピテンス⑥職に必要なスキルと起業家精神⑦参加、巻き込み力そして持続可能な未来)を埋め込んでいる)」「テーマ学習の設定、評価に生徒も参加」「グループ学習」「評価基準の充実」が掲げられた。

ICT分野では、習得すべきICTコンピテンスは学年ごとに段階的に設定され、各学年・各教科の、どの指導内容・どの指導目的に対して教える時に獲得できるかが、National Core Curriculumの中に示されている。

▽校務支援システムの有効的な活用

校務支援システムは、校務系ネットワークと学習系ネットワークが連携しており、教員は教室の中で常に利用できる。また、保護者とも直結しており、IDとパスワードだけで外部から学習履歴などを確認できる。具体的には「Wilma」という校務支援システムが管理ツールとして学校と家庭を結び付けている。学習状況のオープン化は、保護者の安心・信頼につながり家庭での親子関係が充実し子供の個別の学習カリキュラムの向上にもつながった。学校に協力的な保護者が増え教師の負担は軽減し、十分に授業準備の時間を確保することができるようになった。

エストニアとフィンランドの視察報告に関し、山西潤一富山大学名誉教授は「一番重要なことは、学習する目的を子供たちに理解させること。プログラミング教育に関しては、考え方を見つめ直す必要があると思う。プログラミングはIoT・AI時代の問題解決能力を育てるツールであり、論理的思考とコンピュータ的思考の2つを使い分けてプログラミング教育をすることが大切である。そのためには、小・中・高のプログラミング学習内容が系統的につながるようにすることも重要だし、学校だけではなく地域の協力も得た形での教育の広がりも必要になると思う」と日本のプログラミング教育必修化に対しての方向性と課題を指摘した。