【感染症対策特集】流行のピークを迎える前に 対策・対処法の確認を

インフルエンザ、ノロウイルスなど感染症が流行しやすい学校現場――。今年はインフルエンザ様疾患の流行が例年よりも早く、学級閉鎖や学年閉鎖の報告も上っている。流行のピークを迎える前に感染症対策は大切である。そこで感染症の基礎知識と予防・対策に焦点を当て、特集を企画した。国の取り組みや対策方針を紹介するほか、専門家がウイルスや危機管理の基礎知識を解説。学校現場で取り組むべき対策について最前線で働く養護教諭の実践事例も紹介する。

養護教諭会自作の感染症対応資料を活用

千葉県長生村立長生中学校 養護教諭 深山 結花

千葉県には千葉県養護教諭会という研究団体があり、県内の養護教諭のほとんどがその会員となっています。学校の統合化が少しずつ進んでいるとはいえ、会員は1600名を超える大きな団体です。

その中の組織の一つに、調査研究委員会があります。3年という委嘱期間で県内各地から研究委員を集め、その3年間で県内の養護教諭が課題と感じているものを調査し、その対応のための資料やマニュアルを作成し検証しています。

その研究資料の中に、学校において予防すべき感染症の対応に関するマニュアルや指導資料があります。本校の感染症対策は、この資料を活用しているものが多くあります。

例えばインフルエンザ等が急激に感染拡大した際には、子供たちへの対応に追われ、家庭向け文書や報告文書などの事務手続きに慌ててしまうものです。そのようなときに、この対応マニュアルは私を助けてくれます。

教育委員会への報告手順や保護者向け文書例等のページを確認し、法的根拠は法令や施行規則のページで確認をし、悩むことなくサクサクと仕事を進めることができます。もちろんデータ化されていますので、本当に時間のない時は、マニュアルのデータに自分の勤務校を入れるだけで済みます。

また、予防内容が書かれた「ほけんだより(例)」や写真による症状例が感染症別に掲載されているので、流行時期の「ほけんだより」作成時や生徒・保護者への説明が必要な時などにとても役に立っています。

さらに、感染性胃腸炎対応に特化した資料においては、職員研修用プレゼンデータと嘔吐物処理方法プレゼンデータの2種があり、職員に理解してもらいたい内容が多くの写真と共に十分に入っているため、必要不可欠なものとなっています。

本校では、嘔吐物処理に関する資料データの中から12枚ピックアップしA4判両面カラー印刷にしたものをラミネートシートにし、校内数カ所に置いてある「嘔吐物処理セット」の中に一緒に入れてあります。嘔吐物に関しては、感染性胃腸炎を疑った上で、他の感染症以上に拡大防止を第一に考えなくてはいけません。そのため、養護教諭不在時にも正しい嘔吐物処理を職員全員が迷わず行えるようにしておくことが大切です。

実際に、私が出張した翌日に「深山先生、昨日嘔吐した生徒がいて、このように処理しておきましたが、それで大丈夫ですよね」と報告を受けることが何度かありましたが、毎回しっかり対応されていました。本当に校内の協力体制の良さには感謝することばかりです。

最後に、生徒保健委員会の活動として、年間を通じて手洗いの励行を呼び掛けていることを挙げたいと思います。

感染症予防だけではなく、食中毒予防においても、一番大切なのは「手洗い」です。各種情報によると、手洗いは30秒以上で効果あり、ということを目にします。そこで、インターネットで見つけた「きらきら星」の替え歌を使い、生徒集会のたびに、保健委員会の生徒達がステージの上で替え歌を大きな声で歌いながら、見本となる手洗いパフォーマンスを全校生徒に示す時間を、ここ数年毎回確保してもらっています。見本を見た後、全校生徒が保健委員の歌声と共に、一緒に手洗いパフォーマンスをしつつ、効果的な手洗い方法を身に付けるという形です。

これは、保育所で良く行われている方法なのですが、中学生くらいになると、さらっと手を濡らしている程度の雑な洗い方をしている生徒が少なくなく、さらにハンカチを持たなくなるケースも気になるため、あえて基本的なことを継続的に取り組むようにしています。時には給食委員会とのコラボで手洗いパフォーマンスを行うこともあり、効果的な手洗いの定着化に向けて、生徒達と頑張っているところです。

いよいよ感染症の流行時期に入りますが、頼りになる資料と職員と生徒達とともに、今年も感染拡大防止に努めていきたいと思います。

学校現場での冬に流行する感染症に関する基礎知識と予防対策

新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野 教授 齋藤 昭彦

はじめに

朝晩は、すっかり寒くなり、いよいよ冬の気配の感じられる頃となりました。冬といえば、学校でインフルエンザやノロウイルスに代表される幾つかの感染症が毎年流行します。流行が本格化する前に、できる準備をして、流行を最小限にとどめる努力が必要です。

流行をゼロにすることはできない

まず、大事なのは、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなどの感染症は、その感染力が極めて強く、その流行をゼロに抑えることはできないということです。ウイルスは、昔から、ヒトと一緒に生きていくために、さまざまな努力をして、今のウイルスに進化しています。ですので、ヒトが一生懸命、手洗いやマスクをしても、ほんの少しのウイルスで他のヒトにうつす方法を既に知っているのです。

インフルエンザを予防するにはワクチンが重要

手洗いや咳エチケット以外に、インフルエンザを予防する唯一の方法は、ワクチンを接種することです。インフルエンザワクチンには、A型二つ、B型二つの四つの型に対する予防が可能です。毎年、今年流行する型に合わせてワクチンを作っていますが、その予想が当たるとインフルエンザにかかることはほとんどありません。

残念ながら、予想が当たらない時もあります。そうすると、インフルエンザにかかる場合がありますが、その場合でも、重い病気になることを防いでくれます。

また、学校の現場では、多くの人がワクチン接種をしていると、学校の中にインフルエンザが入ってきても、かかりにくくなる、いわゆるワクチンの「集団免疫効果」が期待できます。

インフルエンザのワクチンを接種するのは、流行の本格化する前の11月末ぐらいまでが最も良い時期です。学校からインフルエンザワクチンの接種を薦めることで、学校内での流行を最小限にし、また、かかってしまった場合でも、重い病気に苦しむリスクを減らすことができます。

ノロウイルスの予防には、手洗いが一番

ノロウイルスの感染症は、口から入ったウイルスが、ヒトの腸の中で増えて、それが腸の粘膜を攻撃し、水分の吸収などができなくなり、下痢をきたします。また、下痢の前には、気持ちが悪くなり、嘔吐することもよくあります。

これらの便には、たくさんのウイルスが含まれています。これらを触ることで感染しますので、まずは、そのような便と接触の可能性の高いトイレでのしっかりとした手洗い、そして、ものを口の中に入れる給食前の手洗いが大切です。

手洗いの際には、流水で手を洗った後、石鹸をつけて泡立たせ、洗いにくい場所(指の先、手の甲、指の間、手首など)もしっかり洗えるように、日ごろからの手洗いを習慣付けておく必要があります。

また、感染した子供の嘔吐物には、多くのウイルスが含まれていて、それを吸い込むことで感染することも知られています。嘔吐があった時には、至急、子供たちがそれに可能な限り触れないように、そしてその処置に慣れた教職員が、接触感染対策(手袋とガウンを着用)と飛沫感染対策(マスク着用)をして、吐物を処理します。

うがいは効果的?

国内では、手洗いとうがいをしっかり行いましょうという注意をよく目に、耳にします。海外では、うがいは一般的な行為ではなく、あまり目にしません。そもそも、インフルエンザは、鼻の奥で感染するので、うがいをしても、それを取り除くことはできません。うがいは、口の中を一時的にきれいにできるかもしれませんが、その効果は長続きしません。

インフルエンザの治療

インフルエンザを疑ったら、すぐに病院にいって、検査をして、薬をもらうことが国内では、当たり前になっています。

しかしながら、検査は、熱が出てすぐに検査してもまだ十分にウイルスが鼻の中で増えていないので検査が陰性になることもあり、また、例え薬を飲んでも、発熱の期間を1~1・5日短くするだけで、重い病気を予防することはできません。

インフルエンザは、元気な子供では、数日で自然に治る病気であり、絶対に病院に行かなくてはいけない病気ではないことも知っていただきたい点の一つです。肺や心臓に持病のあるお子さんには、治療が必要です。

感染症の発生・まん延防止のために

文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課健康教育調査官 小出 彰宏

今年は地域によって例年よりも早くインフルエンザ様疾患が流行し、学級閉鎖や学年閉鎖が行われたとの報告が上がってきています。

インフルエンザなどの感染症の発生には、①その原因となる病原体の存在②病原体が宿主(ヒト)に伝播する感染経路③病原体の伝播を受けた宿主(ヒト)に感受性があること――が関係します。

特に、学校のような児童生徒らが集団生活を営む場で感染症を拡大させないためには、感染経路の遮断が重要になります。感染経路には空気感染、飛沫感染、接触感染、経口感染があり、これらの感染経路を遮断する方法として、教室の換気、手洗い、咳・くしゃみの対応、吐物・下痢などの対応及び清掃などがあります。

冬の教室は、換気が十分に行われず、空気も乾燥していることから、感染しやすい環境になっています。しかし、教室の窓を開け、新鮮な空気を取り込むことが大切であるのが分かっていても、教室の窓を開けるのを児童生徒は嫌がることからなかなかできていないのが現状だと思います。

児童生徒に空気環境の管理が健康の維持や学習能率の向上のために大切であることを気付かせるために、学校環境衛生基準に基づいて学校薬剤師が行う学校環境衛生検査の活用が考えられます。

学校環境衛生基準では、空気の汚れの指標として二酸化炭素濃度を年2回測定することになっています。窓を閉め切った教室では二酸化炭素濃度が上昇し、学校環境衛生基準の基準値を超えてしまいますが、換気の実施で改善されます。窓の開け方の工夫次第で、温度を大きく下げずに二酸化炭素濃度を下げられます。換気の方法については学校薬剤師に相談し、適切な換気を心掛けることが大切です。

なお、2018年の夏は記録的な高温となり、教室内の暑さが問題となり、公立小中学校の普通教室における空調(冷房)設備の設置が急速に進められています。今後、夏の空調(冷房)設備使用時の換気にも留意する必要があります。

また、児童生徒らが適切な手洗いの方法や咳・くしゃみの対応を身に付けることは、感染の拡大を防ぐために非常に重要です。養護教諭が学校医や学校薬剤師と協力し、児童生徒に対して適切に指導することが大切です。また、吐物・下痢などの対応および清掃については、教職員がそれらの方法を正しく理解していなければなりません。

学校における感染症の発生予防とまん延防止のために、環境衛生の維持管理や消毒、滅菌、清掃方法を含む感染症への対応に関する知識が必要となります。

学校環境衛生活動については「学校環境衛生管理マニュアル(2018年度改訂版)」が参考になり、感染症に関する基本的理解と対応については、「学校において予防すべき感染症の解説」(公益財団法人日本学校保健会、2018年3月発行)が参考になります。文科省および日本学校保健会のホームページで閲覧及びダウンロードも可能であることから、ぜひ活用してください。