不登校支援にICTを活用 思考力・判断力・表現力を育てる

教員1人1台のタブレットで授業改善

不登校特例校が示す新たな学び

登校したくてもできずにいた子供たちを、ICTで支援する――。東京都八王子市立高尾山学園(黒沢正明校長、児童・生徒60人)は、(公財)パナソニック教育財団の特別研究指定校に選ばれ、全国でも数少ない不登校特例校として、ICTを活用した思考力・判断力・表現力の育成に取り組んでいる。

同校は2004年、心理的、身体的、社会的な要因や背景で登校したくてもできない児童生徒のために設立された。このような児童生徒にどのような学びを今後提供すべきか。東京都多摩地区では初の民間人校長である黒沢正明校長に力強く牽引され、教職員が一丸となって新たなモデルの提示に挑んでいる。

生き生きと英会話する生徒

中学1年生の英語の授業。14人の生徒全員の元気な声が響く。不登校特例校での一場面だとは信じられないような光景だ。生徒が手にしているのはタブレット。専用のヘッドホンを身に付け、タブレットに内蔵されたAIと英語で会話する。

タブレットを活用し、英会話の学習に生き生きと取り組む

この日のテーマは「私は誰?」。「Who am I ?」「Where am I ?」といった質問を次々と繰り出し、AIとの会話を重ねる。授業では3人の教員と2人の補助員が指導に当たっており、思うように活動できない生徒をフォローする体制も万全だ。

パナソニック教育財団の委託を受けアドバイザーを務める国立教育政策研究所の福本徹総括研究官は「不登校を経験した児童生徒は、多くの場合、学習空白が生じている」とした上で、「この空白を埋めるため、高尾山学園ではICTの活用とともに、学習過程の工夫が行われている」と話す。「多様な児童生徒に対して、さまざまな手段や方法・技術を駆使して学ぶ場を整えてきている」と高く評価し、「高尾山学園での実践を通じて、ICTは大変有益なツールだと改めて感じた」と語る。

「ICTもネット環境もない」

同校は今年で創立16年目という新しい学校だ。不登校の児童生徒が安心して通える学校を目指して設立された。位置付けは教育課程を特別に組める不登校特例校だ。学習指導要領を基本としながらも柔軟な教育課程を編成し、適切な学習支援と社会性の指導を通じて生きることへの自信を獲得させる。

黒沢校長は元々、工学部電気工学科を卒業した後、大手一流企業で画像処理用コンピュータ開発などIT系エンジニアとして活躍していた人物だ。その後、別の大手一流企業に転職後は新規事業開発や企業戦略の業務に従事。2012年度八王子市民間人校長公募を経て、翌年度から現職に就いた。

黒沢正明校長(右)と清水勇気教諭

そうした自身の経験を踏まえ、学校に通えなかった子供の支援にはICTが不可欠だと確信。しかし、市の規則により普通教室で外部に接続できるPCは3台のみで、タブレットなどを購入しても外部への接続が禁止されているなどさまざまな制限がある中では、思うように授業での活用ができない状況だった。

そこで17年度、パナソニック教育財団「実践研究助成(一般)」を受けて授業用タブレットを購入。校務用PCにつないでダウンロードやアップロードをすることで、オフラインで使えるよう整備して授業改善に取り組んだ。

翌年度には同財団の実践研究特別研究指定校に指定され、助成金で無線LANアクセスポイントを獲得してモバイルWi-Fiを整備。50インチモニターも購入した。さらに、教員全員に1人1台ずつタブレットを配布し、それぞれが授業研究できるよう環境を整えた。

今年度は特別研究指定校としては2年目。黒沢校長の導入の特徴は、活用を急がず、教員らに対しすぐに成果を示させようとはしていないことである。「指定校としての1年目は、言わば助走期間。その間に教員は試行錯誤したり、互いに取り入れ方を教え合ったりして、徐々に活用の幅を広げ、質を高めていった」と振り返る。

多彩な活用に挑む

高尾山学園での活用は実に多彩だ。例えば中学部の家庭科では、「幼児の生活と家族」の単元でオリジナルの「幼児用おやつ作り」に活用した。生徒は各自でクッキー型をデザインし、タブレットを使って3Dモデリングデータを作成。これを3Dプリンターでプリントし、オリジナルのクッキー型を完成させ、調理実習で実際にクッキーを作った。

タブレットで「Sphero SPRK+」の動きをプログラミング

その他、理科の「観月会」では天体の動きをタブレットで確認させているほか、体育で柔軟体操などのポイントを動画で分かりやすく示したり、小学部の算数でプログラミングに活用して「Sphero SPRK+」を操作させたりと、各教科の特性と発達段階に応じ、教員1人1人が工夫をこらして授業改善を試みている。

ICT活用を担当する清水勇気教諭は「今の小中学生はデジタル・ネイティブ世代だ」と語る。「デジタルコンテンツなどについては自信があり、『負けたくない』という気持ちも強い。そういった意識をうまく活動に取り入れられれば、成果が大きく伸びると考えている」と話す。

黒沢校長は「タブレットはこれからの主体的・対話的で深い学びを促進する。今後も授業改善の精度を高め、不登校特例校としてICT活用のモデルを示していきたい」と展望を力強く語った。