4月10日は「教科書の日」 世界的に優れた日本の教科書

知っておきたい役割や制度

小学校で新学習指導要領の全面実施が始まった。「主体的・対話的で深い学び」の実現と「カリキュラム・マネジメント」を確立し教育活動の質を向上させ、学習効果の最大化を図る上で重要な役割を果たすのは教科書である。4月10日の「教科書の日」に合わせて、文科省初中局教科書課の中野理美課長にこれからの教科書に求められる役割について聞いた。併せて、ぜひ知っておきたい日本の教科書制度の特徴について(公財)教科書研究センターの細野二郎参与・特別研究員に解説してもらった。

文科省初中局教科書課 中野理美課長に聞く

新学習指導要領を具現化するツール
デジタル教科書をどう使うか、試される年に

子供たちがスマートフォンやパソコンから情報を得ることが当たり前になり、グローバル化が飛躍的に進む時代となった。2020年度には小学校で新しい学習指導要領が全面実施され、子供たちの学習意欲を高めるアクティブ・ラーニングの導入や、プログラミング教育の充実が図られる。学び方の変化に応じ、これからの教科書に求められる役割は――。4月10日の「教科書の日」を前に、文科省初中局教科書課の中野理美課長に聞いた。


――まず、教科書がこれまで果たしてきた役割についてお聞かせください。

学校教育の主たる教材として文字通り大きな役割を果たしてきました。それを支えてきたのは日本の教科書制度です。学習指導要領に基づいて、民間の発行者の方たちが創意工夫して教科書を作り、検定で内容の適正性を担保しています。全国どこにいても質が担保された教科書が確実に届けられ、しかも義務教育段階では無償給与されていることが、子供たちの学びを支えてきました。

教科書の供給体制についても目を見張るものがあります。例えば、災害に遭った地域で多くの教科書が使えなくなった場合には、全国の供給業者のネットワークを使って教科書を集め、一日も早く子供たちに供給するという体制が出来上がっています。

いろいろな事情で学校に行けない子供や海外で学ぶ日本人の子供にも教科書が届けられているということも、すごい仕組みだと思います。

――20年度から小学校で、21年度から中学校で、順次、新学習指導要領に移行します。新しい学習指導要領に対応した教科書は何が大きく変わってくるのですか。
アクティブ・ラーニングに沿った活用など教科書の役割について語る中野課長

学習指導要領を具現化するのが教科書だと思っています。新学習指導要領の一つの柱としてアクティブ・ラーニングがありますが、各発行者が各教科の教科書において、主体的・対話的で深い学びの実現に資するための工夫を凝らしていただいています。

身近な課題を設定し、資料に基づいて多様な解決方法を考えたり、学習内容を掘り下げて議論したりと、いろいろなアプローチにより、子供たちが話し合って内容を深めていくような工夫がなされていると思います。

――政府が進めるGIGAスクール構想などを踏まえると、今後はデジタル教科書の活用がポイントになってくるのではないでしょうか。デジタル教科書を広めていくための施策についてどう考えているか、お聞かせください。

学習者用デジタル教科書は、19年度から制度化されました。小学校で新学習指導要領に基づく教科書が使用される20年度から、対応する学習者用デジタル教科書の発行が本格化します。ただ、デジタル教科書は子供たちの手元にタブレット端末などがないと使えませんので、その整備が進まなければ、導入の検討もできないという状況でした。

その状況が、GIGAスクール構想で変わろうとしています。1人1台端末を整備し、そこに学習者用デジタル教科書を入れて活用していこうじゃないかという方向へと、大きく変わっていくと思います。

もちろん、デジタル教科書の使用は手段であって目的ではありません。教育現場で実際に使ってみながら、紙の教科書にはない、デジタルならではのさまざまな機能を活用することで、いかに子供たちの学びの充実を図ることができるか、議論を深めていくべきではないでしょうか。

文部科学省も、実証研究事業を実施しているところです。1人1台ですと、例えば、ふだん教室であまり発言しない子供が端末にユニークな書き込みをしているのを教師が一覧画面で見取り、それを大画面に映して発表してもらうといったこともできるでしょう。デジタル教科書の優れたところをいかに子供たちの学びに還元していくかが大事なことだと思っています。

――特別支援教育の現場や外国人児童生徒にとってはとりわけ、デジタル教科書が学びの助けになるのではないでしょうか。

本当にそう思います。日本語に通じない子供も含めて特別な支援が必要な子供たちに、教科書会社の協力を得て、デジタル教科書を試行的に使ってもらうということを昨年度やりました。

横浜市の小学校で外国籍の子供たちに使ってもらうのを私も拝見しましたが、「これからデジタル教科書を使うよ」と先生が言った時に、子供たちは「やったー。未来の教科書だー」と声を上げたのです。私もうれしくなって、心がほっこりしました。

先生方もデジタル教科書を使うと「子供たちの意欲が違う」と話されていました。もちろん、使い方によりますので、先生がうまく導いてくださっているのだと思います。

教育現場でどう活用すればより大きな効果が表れるのか、これまでもガイドラインや実践事例集をお示ししていますが、GIGAスクール構想を踏まえ、今後の学習者用デジタル教科書の在り方について、改めて有識者会議を立ち上げて検討していただきたいと思っています。

――デジタル教科書が普及すれば、教育現場も大きく変わりそうですね。最後に、教員たちに向けてメッセージをお願いします。

学校教育に果たす教科書の役割の重要性について申し上げてきましたが、その教科書を生かし、息を吹き込んでいただくのは教師の皆様です。新しい学習指導要領を踏まえ、子供たちの学びが生き生きしたものになるよう、デジタルも含めて教科書を有効に活用していただきたいと願っています。

日本の教科書制度 国民性に合ったものに

(公財)教科書研究センター参与・特別研究員 細野 二郎

効果的な学習に資する無償給与

世界各国の教科書制度は、一体、どうなっているのか。残念ながら、今まで一覧で見られる資料はなかった。教科書研究センターでは、世界約42カ国の教科書制度を調べ、このほど、報告書を発行する。そこで、ここでは、各国の制度を見ながら、日本の教科書制度の特徴を見てみたい。

そもそも各国の教科書制度は、その国の政治・経済や歴史的背景などを反映して形作られている。国定制・検定制・認定制といった教科書の法的位置付けもそうで、社会主義の国などでは国が教科書を作る国定制をとる国が多く、ヨーロッパでは、民間の出版社が作成した教科書を学校や教師が選ぶことが多い。また、ドイツのように州による検定が行われている国もある。日本の検定制度は、戦前の国定制度を経て定められたもので、民間の創意工夫を引き出し、より良い教科書を目指すという点で有意義なものといえよう。

また、有償、無償制はその国の経済的な豊かさに左右される。例えば、中東の産油国など、国家の財政が豊かな国ではほとんど教科書は無償である。開発途上国でも、教科書の無償制を導入している国は多いが、予算の問題で、一人1冊が実現できていない国もある。豊かな国と貧しい国の悲しい現実である。

無償でも、貸与制と給与制で大きく異なる。貸与制は、1冊の同じ教科書を3年とか5年とかにわたり順繰りに貸す制度である。前の学年の児童生徒が使った教科書を次の学年の児童生徒が使うことになり、年数が経つにしたがって、教科書はボロボロになり、内容も時代遅れのものになる。

日本の場合、無償であり、給与制なので、前の児童生徒が使った使い古しの教科書を使わなくてすむ。また、給与制だからこそ、児童生徒が自由に書き込みをしたり、折り目を付けたり、線を引いたり効果的に教科書を使える。日本の子供たちは恵まれているといえよう。

日本に来た外国人は、電車が一分のくるいもなく運行されているということに驚くという。日本の教科書も新学期になるときちんと子供たちのもとに届けられる。これは、日本の教科書供給制度が優れていることによる。

きちんと供給するためには、制度の整備と予算の確保が必要である。調査では、新学期が始まっても教科書を受け取れない学校や、生徒数に対して数が不足しているなどの問題を抱えている国もあった。

日本の教科書制度は、戦後の70数年にわたり育まれたもので、社会に根付いている。日本人の国民性に合った制度になっているといえよう。時代の変化とともに教科書制度も徐々に変えていく必要があろうが、その場合、日本の優れた制度を壊すことがないように、丁寧に慎重に進めていくことが期待される。