できる対策から着実に 「熱中症対策特集」

夏本番を前に学校管理下で熱中症による事故を発生させないため、注意喚起のポイントや具体的な取り組み事例を紹介する。

熱中症事故の防止について 教育関係者の皆さまへのお願い
文部科学省 総合教育政策局 男女共同参画共生社会学習・安全課
安全教育推進室 安全教育調査官 森本 晋也

緊急事態宣言が解除となり、各地域の実情に応じて段階的に学校教育活動が再開されてきております。各学校をはじめ教育関係の皆さまにおかれましては、児童生徒等の健康と安全を第一に、新型コロナウイルス感染症予防の対策を講じながら学びの保障に向けてご尽力いただいておりますことに心より感謝申し上げます。

さて、新型コロナウイルス感染症予防のため、学校教育活動においては、児童生徒等および教職員は、基本的にマスクを着用することとされています。しかし気候の状況等により、熱中症となる可能性があると判断した場合は、換気や児童生徒等の間に十分な距離を保つなどの配慮をした上で、マスクを外す対応を行ってください。熱中症になるリスクなどを考慮して、体育の授業および運動部活動におけるマスク着用の必要はありませんが、感染症予防の配慮をお願いします。さらに、外出自粛が長く続いたことにより、体がまだ暑さに慣れていない状況も考えられますので、運動を軽めにして暑さに徐々に慣れさせていくのも大切です。

次に、学習の遅れを補うため、夏季休業期間を短縮したり、夏季休業期間中に登校日を設けたりする自治体や学校も考えられます。暑い時期に学校教育活動を行うことになるため、活動前、活動中、活動終了後に適切に水分・塩分を補給することや、熱中症の疑いがある症状が見られた場合には早期の水分・塩分補給、体温の冷却、病院への搬送など適切な処置を行うことが必要です。

熱中症事故は体育、スポーツ活動だけでなく、部活動、屋内での授業中、登下校中においても発生しており、教育課程内外を問わず適切な熱中症の防止措置をとることが必要です。気象状況や空調設備などの整備状況などを踏まえて活動内容を設定する点も重要です。

学校管理下での熱中症の発生状況について、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が行った災害給付の支給状況をみると、熱中症に伴う医療費の支給が、2019年度は5071件、18年度は7082件、17年度は4940件、16年度は4694件発生しており、近年増加傾向にあります。これまでの熱中症による死亡や重症の発生事故の要因として、事前に教職員の熱中症の研修を行っていないこと、運動中の水分補給や児童生徒等の健康観察体制が不十分であること、気象状況や熱中症リスクを測定する機器が無かったこと、教員が過度な運動を強いたこと、事故発生後の対応が不十分であったことなどが指摘されています。

文科省の調査によると、全国の学校において、18年の気象状況を踏まえ既存の対策に加え新たに実施した熱中症対策として、「こまめな水分補給や休憩、健康管理の徹底」(66.1%)、「夏休み前等に児童生徒等への指導」(50.8%)、「WBGT値や気象情報を参考にした活動の判断」(44.7%)、「エアコンの設置(普通教室)や設置の検討」(38.8%)などの取り組みが行われています。多くの学校で、熱中症の事故防止のため、エアコン等の設備面の取組とともに、WBGT等により気象条件を把握し、こまめな水分補給や休憩、児童生徒への指導等の対策の充実が図られてきています。

常日頃から各学校の実情に応じて、事前・発生時・事後の3段階の危機管理を想定して、安全管理と安全教育の両面から、熱中症予防にしっかりと取り組んでいくことが重要です。各学校におかれましては、熱中症事故が多くなる時期の前に、別掲の資料などを参考に対応策の内容について再度確認をお願いします。


【参考資料】
○文部科学省
  • 「「生きる力」を育む学校での安全教育」(2019年3月)
  • 「学校の危機管理マニュアル作成の手引」(2018年2月)
  • 「学校における体育活動中の事故防止のための映像資料」(2014年3月)
  •  ウェブサイト「文部科学省×学校安全」
○(独)日本スポーツ振興センター
  • 「熱中症を予防しよう―知って防ごう熱中症―」(2019年3月)および教材カード
  • 「学校屋外プールにおける熱中症対策」(2019年3月)
  •  ウェブサイト「学校安全Web」
○環境省
  • 「熱中症環境保健マニュアル2019」(2019年3月改訂)
  •  ウェブサイト「熱中症予防情報サイト」

※学校安全の推進に関する計画に係る取組状況調査[2018年度実績]ウェブサイト「文部科学省×学校安全」にて公表

熱中症予防 関係者と協議を深めて 子供・保護者とともに取り組む
山梨県市川三郷町立六郷小学校養護教諭
全国養護教諭連絡協議会常務理事 有野 久美

山梨は、霊峰富士、八ヶ岳や南アルプスなど、緑豊かな山々に四方を囲まれた自然豊かな地域です。県の中央にある甲府盆地周辺は年間の日照時間が長い上、気温の日較差・年較差が大きく、この地形と気候がうま味濃厚な果物作りの好条件になり、フルーツ王国山梨の由縁になっています。

本校は、その甲府盆地の南側、市川三郷町にあります。甲府盆地に比べ、冬の乾燥した北風は少ないものの冷え込みは同様に厳しく、夏は猛暑が連日続きます。そのため、本校の熱中症対策は、夏日になる5月から始まります。職員会議で、「熱中症予防運動指針」を参考に、予防の取り組みと緊急時対応マニュアルの確認を行います。この時期は、子供たちの体がまだ暑さに慣れてないため、最高気温の予報とともに湿度に留意し、危険度が高くなる日は、朝の教職員の打ち合わせで対応を再度確認します。

■暑さ指数(WBGT)の活用
児童玄関や職員室・保健室の入り口周辺3カ所に、その日の暑さ指数の最高値予報の時刻と値を掲示

6月になるとプールも開設され、真夏日になる日もあります。環境省熱中症予防情報サイトの暑さ指数(WBGT)予報を確認し、児童玄関や職員室・保健室の入り口周辺3カ所に、その日の暑さ指数の最高値予報の時刻と値を掲示します。低学年の子供にも理解できるように、色別の顔マークも併せ掲示します。登校時に確認できるので、子供たちの意識も高まります。

予報が「警戒」の場合は、教職員がWBGT測定器を持参し、活動を行う場(校庭、体育館やプールサイドなど)で、活動前と活動中に測定を行います。測定結果により運動量の制限や活動時間の短縮・中止の判断の根拠にしています。教職員はさまざまな場面で子供たちの健康観察を丁寧に行い、その様子に合わせて水分補給の声掛けを行います。体育の授業に限らず、屋内外の活動で発汗が多い場面では「水分補給をしてよい」ではなく、活動の前と活動中に「必ずひと口、水分補給をしてください」と具体的に指示します。

子供たちにもわかりやすいように熱中症予防掲示の顔マーク

町教育委員会の配慮により、教室だけでなく特別教室にもエアコンを整備してもらい、気温上昇に合わせてエアコンも活用しています。体育館では朝から窓を開け、大型扇風機で積極的な換気を行い、体育館内の気温上昇を防いでいます。

■保護者とともに取り組む

9月末の運動会に向けて特別日課が始まると、保護者に協力を依頼しながら、より一層の対策を進めます。家庭での十分な睡眠の確保と朝食の摂取の重要性を伝え、体調管理の協力とともに、練習中のこまめな水分補給を可能にする水やお茶を入れた水筒持参をお願いしています。保健室では配慮が必要な子供の疾病や体調に関わる情報の提供とともに、緊急時対応用に保冷材、アイソトニック飲料やうちわなどを整備し、体調不良時早期に手当てができるようにしています。

この特別日課前には校庭にテントを児童席分設置し、練習中の休憩はこの日陰を活用します。

■子供たちの学びから活動への広がり
暑さ指数(WBGT)の一覧もわかりやすく表示

暑さ指数への意識が校内に定着した昨年夏、保健委員会の子供たちから休み時間や昼休みに暑さ指数の測定を行いたいという希望が出されました。そこで、指導担当の教職員が、測定の留意点の説明を行い、繰り返し測定練習を行いながら、活動を始めることにしました。

暑さ指数予報が「厳重警戒」になると、当番の2人が休み時間に測定器を校庭に持参し、暑さ指数を測定、その結果に合わせて全校放送で外遊び中止や水分補給の呼び掛けをしました。測定器は暑さ指数値の表示だけでなく「注意」「警戒」「厳重警戒」「危険」の指標にライトが点滅するので、小学生にも測定評価がしやすく、教職員からの指示だけでなく自ら判断できることが子供たちの意欲と活動の自負を大きく育んでいきました。

高学年のこのような活動は、低学年の子供たちにも響いていきました。高学年よりも早い時刻に放課後の外遊びを始める低学年の子供たちが、暑さ指数が高い日になると職員室や保健室に来て「暑さ指数を測ってください。外で遊べますか」と尋ねるようになりました。家庭と子供たちとともに、学校保健の活動が高まってきました。

■感染症予防とともに

今年度は、新型コロナウイルス感染症の感染予防により、学校での全ての活動を「新しい生活様式」の視点で見直し、対応の変更や延期・中止が必須になっています。熱中症予防でもマスクの常時着用と水分摂取の奨励をどのように働き掛け進めるのか、また、夏休みの短縮によりエアコンを使用しながら十分な換気をどう行うのか課題が山積です。これからも学校医や学校薬剤師の助言を得ながら、一つ一つ関係者と協議を進め取り組んでいく予定です。