【感染症対策特集】流行のピークを迎える前に 対策・対処法の確認を

インフルエンザ、ノロウイルスなど感染症が流行しやすい学校現場――。とりわけ今年は新型コロナウイルス感染症予防対策も重なり、感染症の流行時期を迎える前に予防対策は重要な課題である。そこで感染症の基礎知識と予防・対策に焦点を当て、特集を企画した。国の取り組みや対策方針を紹介するほか、専門家がウイルスや危機管理の基礎知識を解説。学校現場で取り組むべき対策について最前線で働く養護教諭の実践事例も紹介する。

学校現場における感染症対策 健康への知識を得て行動へつなげる

さいたま市立高砂小学校 養護教諭 辻野 智香

はじめに

昨年冬からコロナ対応が始まり、間もなく1年を迎えようとしています。私の勤務するさいたま市立学校は、3月下旬から休校、分散登校、6月から通常登校となり、現在に至っています。分散登校初日、学校長あいさつの後に「新しい生活様式」について、養護教諭から児童に向け校内テレビ放送で指導しました。

子供たちの健康行動に変化
1.感染症対策

コロナ禍の中、学校での子供たちの健康行動にはさまざまな変化が見られます。いくつか紹介します。

「家庭での体温測定の継続」です。家庭の協力により登校後は、まず体温チェックカードを担任に提出することから1日が始まります。2つ目は「登校時、昇降口でのアルコールによる手の消毒の定着」。3つ目は「せっけんによる手洗いの継続」です。せっけんによる手洗いは以前から指導しておりましたが、せっけんや消毒用アルコールの補充の速度が桁違いに速いことから、手の消毒、清潔の意識が高まっていることが容易に推測できます。

4つ目は「給食後の歯磨き習慣の変化への対応」です。日本学校歯科医会から提案されている歯磨きの仕方について情報提供し、担任が指導し実施しています(口を閉じて歯を磨く、少ない水の量10ミリリットルでうがいをする、うがいをして吐き出す際は、なるべく流しに顔を近づけて水しぶきが飛び散らないようにするなど)。校内一斉放送で音楽を聴きながら歯磨きしていましたが、密を避けるため学級単位で音楽を聴きながら歯磨きしています。

給食の配膳や食事中も静かに全員が同じ方向を向き食事をしています。大人こそ見習うべき日々を送っている子供たち、日々真摯(しんし)に指導している教職員、早退などの対応に理解と協力をしてくれている保護者に、心から感謝しています。

これからも、これらの健康行動のいくつかは「新しい生活様式」として継続していく一方で、インフルエンザや感染性胃腸炎などへの対応を考えておく季節に入ってきました。

2.「チームで対応」するインフルエンザ・感染性胃腸炎対策

(1)(2)以下の対応および「学級閉鎖実施の手順について誰が何をいつまでに行うか役割分担を明確にした一覧表」や「学級閉鎖中の保護者への電話対応例を作成し誰もが一定の対応ができるよう電話ガイド」を作成するなどして、教職員に提示

(2)登校時、昇降口で手のアルコール消毒

(3)家庭で検温した記録カードの毎朝の確認

(4)朝の健康観察実施・観察簿の提出、集計、報告

(5)特別教室に行く前の手洗いまたはアルコール消毒

(6)給食前の手洗いと消毒

(7)給食は、静かに配膳、一方向を向いて静かに食べる指導の継続

(8)掃除中は無言清掃(本校の伝統的な指導)。教室担当者によるドアやスイッチの消毒

(9)放課後のトイレ・階段・手すり、特別教室など共用部分の消毒

(10)嘔吐(おうと)物処理の手順について教職員へ再確認(年度当初に校内周知済)

(11)保健指導=手洗い・うがい・マスクの扱い方・換気・加湿、食事、運動、睡眠・休養など

※インフルエンザが流行するこの時期、学級の保健係や健康委員の活動、またボランティア活動として、教室の換気や加湿、手洗いや消毒の呼び掛けなどの感染症予防対策をすると、保健学習で学ぶ内容(3年生・健康な生活、6年生・病気の予防)を実践することとなり、呼び掛ける方も呼び掛けられる方も知識の活用、生活習慣の定着の機会につながるので、発達段階に応じた児童の係活動実施を担任に呼び掛けています。

おわりに

健康に良いとされる行動についての知識を得て、その行動をとることが自分の健康にとって重要だと意識が高まったときに行動は変わるといわれています。例えば「手洗い」について子供たちは、幼いころから、それぞれの家庭や保育所・幼稚園で保護者や保育者から声を掛け手を掛け目を掛けていただきながら実践(行動)してきています。

小学校では、発達段階に応じて保健学習で小学3年生の「健康な生活」で手の汚れや手洗いについて学び、小学6年生の「病気の予防」で感染症の感染源を断つための手洗いの重要性について学び知識を得ます。今回、コロナ禍で重要性が高まり、行動に変化が起こりました。改めて、日頃より保健学習にしっかり取り組むことの重要性を感じています。

(全国養護教諭連絡協議会常務理事)

学校現場における感染症とその予防に関する基礎知識 感染源・感染経路・感受性者への対策を

川崎市健康安全研究所 所長 岡部信彦

感染症とは

感染症とは病原微生物(病原体)が人にうつることによって起きる疾患です(動物や植物でも病原体が侵入して感染症にかかることはありますが、ここでは「人」の感染症に限定して話を進めます)。

病原体が人に侵入しても何も影響が出てくることはなく、その人はまったく普通の状態であることもあります。この場合は、病原体が付着した、あるいは定着したと言い、感染「症」という病気になったわけではありません。従って、たまたま検査などで病原体が検出されたとしても、「感染症(病気)にかかった」とはいえません。病原体が見つかったということと、感染症にかかったということをきちんと区別をしておかないと、病原体を保有しているだけの人に対して不用意な、あるいは行き過ぎた警戒をしてしまうことになります。

一方、感染症は誰かからうつってきた可能性、誰かにうつす可能性があるので、感染症の人だけではなく、周囲にいる人(健康な人だけではなく感染症にかかることによって危険度が高くなるハイリスクの人もいる)にも思いをはせないといけません。ここにも理解をしておかないと、気付かないまま感染症が広がってしまう、あるいは逆に行き過ぎた警戒をしてしまうことになります。そのためには、主な感染症について、いつ、どのタイミングで、どのようにして感染するのかなどを知っておくことが重要です。

感染経路を知る

病原体が人に侵入する感染経路には、(1)感染者との皮膚の接触、血液や体液との接触、性行為などによる接触などの直接的接触感染(2)感染者の排せつ物や吐物・感染者が触れた物などが、人の手を介して口・鼻・目などに感染する間接的接触感染(3)咳やくしゃみ・会話などで飛ぶ唾液やしぶきなどによる感染(飛沫(ひまつ)感染)――などがあります。

「空気感染」と「飛沫感染」は同じように使われてしまうことがありますが、飛沫感染は飛沫が人の口から飛び出て飛散するおおよそ1メートル前後が感染しやすい範囲となり、空気感染は病原体が飛沫よりもっと細かい粒子(エアロゾル)となって遠距離まで感染が及ぶもので、飛沫核感染とも呼ばれます。飛沫感染をする感染症は多くありますが、空気感染は、結核、水痘、はしかなど限られています。

新型コロナウイルス感染症の流行で、空気感染と飛沫感染の中間的な「マイクロエアロゾル感染」ということが言われるようになってきました。「マイクロエアロゾル感染」とは、飛沫よりも小さく、感染者より口の外に飛び出て空気中に一時的に漂う微細な粒子を介する感染のことを指しますが、十分な換気があればマイクロエアロゾルは吹き飛ばされて大気中(広い空間)に拡散し消滅すると考えられており、広い屋外、感染対策のとられている店での買い物や食事、十分に換気された電車での通勤・通学であれば、「マイクロエアロゾル感染」が起こる可能性は非常に低いと考えられています。

感染症予防の三原則

感染源対策、感染経路対策、感受性者対策が、感染症予防の三原則と言われます。感染源対策は患者の隔離・病原体の排除・滅菌・消毒など、感染経路対策はマスク・手洗い・手指衛生・手袋装着など、感受性者対策は予防接種などで感受性者(感染の可能性のある人)に免疫を付けること、になります。なお日常生活の中で、偏らない栄養、適切な運動・休養・睡眠などにより、体の抵抗力・体力を高めておくことも、感染症予防のために大切です。

標準予防策:standard precaution

感染症予防の基本に「標準予防策」という語があります。感染症の有無に関わらず、「全ての患者の体液(血液、吐物、分泌物、尿、便など)は感染性がある」と考えることで、感染性が不明の患者(人)に接触するときは、使い捨て手袋を着用し、体液が飛び散るような場合はエプロン・マスク・ゴーグルなどを着用し、手袋をした、しないに関わらず感染者(かもしれない人)に触れた場合あるいは患者が触れた物品に接触した場合には流水とせっけんによる手洗いをきちんと行い、消毒用アルコールなどで手指を消毒しておくこと、というもので、難しいことではありません。

さらに飛沫感染が考えられる場合は医療用サージカルマスク、空気感染(飛沫核感染)が考えられるような場合には、N95マスクを装着します。常にこれらを全て行う必要はありませんが、いつでも行えるように使い方に慣れておくこと、物品を備えておくことが必要です。これは医療の現場から始まったことですが、感染症の疑いのある人を見る場(例えば保健室など)でも重要な事柄となり、「学校における標準予防策」というような使われ方もするようになってきました。

感染症拡大防止のための留意点について 換気は可能な限り常時実施を

文科省初中局健康教育・食育課健康教育調査官 小出彰宏

適切な対応が感染のリスク下げる

昨年12月に中国湖北省武漢市で確認された新型コロナウイルス(COVID-19)は世界各国に拡大し、1年近くたった現在でも感染の収束の兆しは見えていません。日本でも新型コロナウイルス感染症の流行が収まらない中、インフルエンザやノロウイルスなど他の感染症の流行時期を迎えました。

学校では、新型コロナウイルス感染症の対策として、手洗いなどの手指衛生、咳エチケット、人との間隔が十分でない場合のマスクの着用、密集・密接・密閉の「3つの密」を避けることなど、基本的な感染症対策が実施されています。これまでの学校での感染事例を見る限り、適切な感染症対策を行っていた場合には、学校内で感染が大きく広がるリスクを下げることができていると考えられています。

教室内での感染拡大を防ぐためには、換気が重要です。換気は可能な限り常時行うことが望ましいのですが、冬は子供たちが窓を開けることを嫌がります。教室の換気について、スーパーコンピュータ「富岳」を用いたシミュレーション結果が報告されています。

エアコンによる冷房下において、外側の後方の窓を20センチメートル、廊下側の前扉を20センチメートル開けただけで、約8分で室内の空気が入れ替わることが示されました。常時換気を行うと教室内の温度の上昇が懸念されますが、実際にこの方法で教室の換気を行った学校では、教室内の温度は上昇せずに十分な換気ができているとのことです。

また、常時換気を行うことが困難な場合はこまめに行うことが大切です。ただし、換気の頻度は学年により異なります。換気の指標として二酸化炭素濃度を用いますが、体が大きいほど二酸化炭素の呼出量は多くなります。学校環境衛生基準で「1500ppm以下であることが望ましい」と規定されており、感染拡大防止の観点から、少なくともこの基準を満たすことが大切です。

環境衛生の維持管理や消毒、滅菌などの知識を

教師1人と児童生徒40人が容積180立方メートルの教室に在室している場合、計算上、換気が不十分であると小学校低学年では約26分、小学校高学年および中学生では約18分、高校生では約14分で1500ppmに達します。従って、二酸化炭素濃度1500ppm以下を保持するためには、1単位時間の授業において、小学校低学年では1回、小学校高学年では1~2回、中学生・高校生では2回、換気を行うことが望ましいと考えられます。

また、「富岳」によるシミュレーション結果では、外側の全ての窓を左右20センチメートル、廊下側の前後の扉を40センチメートル開けた場合、約2分で教室内の空気が入れ替わりました。従って、短時間で換気を行う場合は、数分間、扉や窓を広く開けるようにしてください。なお、気候、天候や教室の配置などにより換気の程度は異なることから、必要に応じて換気方法について学校薬剤師に相談するとよいでしょう。

学校における感染症の発生予防と感染拡大防止のためには、環境衛生の維持管理や消毒、滅菌、清掃方法を含む感染症への対応に関する知識が必要です。学校環境衛生活動については「学校環境衛生管理マニュアル(平成30年度改訂版)」が、感染症に関する基本的理解と対応については、「学校において予防すべき感染症の解説」(公益財団法人日本学校保健会、2018年3月発行)が参考になります。

また、文科省では、学校における新型コロナウイルス感染症対策の参考になるよう、「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』」(2020.9.3 Ver.4)を作成しています。これらは、文科省および日本学校保健会のホームページで閲覧およびダウンロードが可能ですので、ぜひ活用してください。