「生徒のこれから」に焦点を当てた学校づくり 大阪市立新巽中学校

生徒を主語にし、これから何が必要かを見据え、全ての生徒を全教員で見守る――。(公財)パナソニック教育財団の特別研究指定校である大阪市立新巽中学校(北惠校長、生徒数210人)は、資質・能力と主体的な学びの育成を目標に「個の能力の見える化」と「PBL(課題解決型学習)」の実践に日々奮闘している。これまでの常識を打ち破り、ICT活用を日常化した改革の全貌について山本昌平教務主任を取材した。

課題克服のために立ち上がる

Googleフォームを使ったプレゼン評価の様子(PBLの様子)

2016年度に複数担任制を、18年度に1人の教員が複数学年の教科指導を担当する「タテ持ち型編成」を導入した新巽中学校。

「新巽中の教育は、全ての生徒に『学習機会』の保障と『心理的安全性が担保された居場所』をつくることである。日本の不登校(大阪市は22人に1人)や自殺者の問題、少子高齢化とテクノロジーの発展により学校での学びも質的変換を求められる社会が到来している。2つの目的を実現するためには仕組みを変容しICTを活用せざるを得ないと判断するようになった」と当時を振り返る。

17年度には一部の学年でPBLを開始したものの、生徒一人一人の支援や探究型授業の展開の仕方について教員間でノウハウを共有できないまま進んでいるという課題が見えてきた。そんな折、19年度から2年間、パナソニック教育財団から特別研究指定校として助成を受けることになった。

定期テストの廃止、PBLの全学年実施へ

全教員で議論を重ね、2つの改革の柱を立てた。1つ目が、定期テストを廃止し、単元テスト(単元ごと)と実力テスト(学期に1回)を行い「個の能力を見える化」すること。2つ目が、全学年でPBLを始めることだ。

全教員で最初に議論したのが、「学力とは何なのか」である。「『テスト』を生徒を育てるための仕組みとして充実したものに変容させ、習得した知識を生かして課題を解決し、新しいものを生み出す力を育成することが重要」と山本教務主任は語る。

学力を「学んだ力(知識)」「学びを生かす力(思考・判断・表現力)」「学ぼうとする力(自己肯定感)」の3層で定義した。「学んだ力」「学びを生かす力」は単元テストと実力テストで理解度・定着度を確認し、「学ぼうとする力」はPBLにより発展させていくことで総合的に評価することを全教員で確認した。

この先必要なことを軸に 「逆向き設計」の考え

オンライン学習をMeetで支援

「パナソニック教育財団の委託を受けてアドバイザーを務める寺嶋浩介大阪教育大学准教授から適切な助言を得ながら改革を進めた。PBLの実践においても、単元テストと実力テストを実施するにおいても3つの学力の育成を意識し『この先何が必要か』を念頭に置いた。ゴール(身に付けさせたい学力)を想定し、そこにたどり着くためのプロセスを踏まえながら、単元テストや実力テストを作成し、授業づくりをする『逆向き設計』の考えを取り入れた。これらを実施していくためにはICT活用の日常化が不可欠」と山本教務主任は述べた上で、「ICTの活用は、主語を生徒にし『これから』という軸を念頭に、『目的達成のための活用』を考えた」と話す。

北校長のリーダーシップも後押しした。20年4月にはChromebookの貸し出しサポートを受け1人1台のPC環境が整い、生徒に端末を配布してすぐ、学習以外に利用する生徒が見受けられた。その際、北校長は「端末利用を制限しても意味がない。管理するのではなく、正しい利用法を身に付けさせるための方法を考えよう」と投げ掛けた。実地で情報モラル・リテラシーを学べることにつながった。さらに、ミドルリーダーの教員らが求心力となり、徐々に新しい考えが醸成されていったという。

ICT活用の日常化

単元テストや実力テストにより個の能力の「できる」「できない」が見える化されることで、「できること」にはより学力を発展させるものが、「できないこと」に対してはフォローするものが、生徒の支援の手立てとして必要となった。そこで、19年7月にPC教室にタブレットドリルを導入。続けて、副教材購入を廃止したことを機に、学習教材を補う意味でⅰプリを、コロナ禍の休校期間中の20年4月には、AI型学習教材『Qubena』の無料トライアルを即決した。

Chromebookの貸し出しサポートを受けたことで、生徒は自分に合った教材で自学自習を進め、教員はオンラインHRの実施や英語科、数学科において動画で課題を配信するなど、オンライン授業もスムーズに実施できた。協働的な学びでのICT活用事例も増え、今では生徒の方からムービー作成やプレゼンテーションソフトを活用して発表したいと申し出があるなど、目的達成のためのICT活用が浸透しつつある。

改革による変化と今後

しんたつの理想の生徒像

ICTを日常的に活用し、個別最適化された学習やPBLが浸透してきたことで生徒の学びへの姿勢には確実に変化が見える。自由に学習する機会が増え、自ら動くようになった。教員も「全ての生徒を全教員で見守る」体制の下で、ICT活用の研修実施、教科、学年を超えて議論する機会が増え、新しい考え方、行動基盤が醸成されつつある。保護者からは改革に対し、説明会の場で不安の声が上がったのも事実だ。その点は、個々の達成度や「できること」「できないこと」を細かくフィードバックするよう努めると同時に、学力調査の結果や非認知的スキルが共に上昇していることから、安心材料がそろってきた。

「新しいことには不安や心配が隣り合わせだ。未知なるものと向き合う以上これらの全てを取り除くことはできない。少しの不安を抱えながらも全教員で支え合い、地域・企業とパートナーシップをとって、全ての人にとってワクワクとドキドキの学びの場をつくりたい」と山本教務主任は今後を見据えていた。

関連記事