4月10日は「教科書の日」 転換期迎える日本の教科書 主たる教材の役割果たし続ける

日本の教育を支えてきた教科書が大きな転換期を迎えようとしている。GIGAスクール構想で児童生徒の1人1台端末環境が整備され、2021年度には小学5年生から中学3年生まで、全国の約半数の学校で1教科ずつ学習者用デジタル教科書が配信されることになる。4月10日は「教科書の日」。文科省初等中等教育局教科書課の神山弘課長に、日本の教科書が果たしてきた役割と今後の課題について聞いた。

【どんなときも確実に子供たちの手に 教科書を届ける「完全供給」】

――改めて日本の教科書が果たしている役割について。

教科書は新学習指導要領に基づいて必ず学習することとされている内容を網羅しているだけでなく、新学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」を実現するための学習活動が行えるよう、教科書会社によってさまざまな工夫が凝らされている。例えば、子供たちが興味関心を高められる題材や教材の掲載をはじめ、友達との話し合いなどを通して自分の考えをまとめて発表する活動を促すなど、より深い学びへとつながるように配慮されており、教員の指導や子供たちの学びにおける「主たる教材」としての役割を果たしてきた。

――日本の場合、無償で「完全供給」を果たしてきたことが高く評価されている。

わが国では、義務教育は無償とするとの憲法26条の趣旨を実現するために、義務教育諸学校の教科用図書は法律に基づいて無償給与されている。しかも、完全供給という用語で表現されるように、どんなときでも教科書が子供たちに確実に届くような仕組みとなっている。この完全供給は、教科書の発行会社はもとより、各都道府県内の需給調整を行う教科書・一般書籍供給会社や実際の供給に当たる教科書取扱店といった多くの方々の協力があって成り立っており、子供たちが教科書に基づく指導を安定的に受けることができている。

例えば大規模な災害で教科書が水浸しになってしまっても、新しい教科書が授業に間に合うように届けられている。東日本大震災の際も、さまざまな方の尽力で子供たちに教科書が届けられた。昨年は、コロナ禍による一斉休校で子供たちが登校できない状況下でも、教科書が子供たちに届けられてオンライン授業や家庭学習ができる体制を整えられた。教科書の供給体制が、文字通り学校教育や子供たちの学びを支えたと言えるのではないかと思う。

――教科書の供給と同様、教科書が完成するまでには相当のプロセスを経ている。

教科書が実際に学校で使用されるようになるまでのプロセスは、4年で1サイクルになっている。まず教科書会社がおよそ1年かけて編集し、翌年度に文科省の検定を受ける。この検定も1年がかりで、合格すると次の年には、採択のプロセスに進む。採択とは、さまざまな教科書会社が製作した教科書の中からどれを使用するのかを決定することで、例えば、公立学校であれば教育委員会が行う。この過程において、都道府県が全国約1300カ所で採択の対象となる教科書の展示会を開くこととされており、地域の方々にもご覧いただきながら採択する仕組みとなっている。こうした過程を経て採択の翌年度から、ようやく学校現場で使用されることになる。

【「1人1台端末」にデジタル教科書 大きな変化の中で課題は】

――最近は児童生徒数の減少が進む中、「1人1台端末」の実現に学習者用デジタル教科書の導入と、教科書を取り巻く環境がかつてなく大きく変わっている。改めて教科書を巡る課題は。

少子化は教育の現場にさまざまな影響をもたらし、教科書に関していえば、児童生徒数の減少によって教科書会社は教科書の売り上げ数が減っていくという現実に直面している。一方で、教科書会社は、学習指導要領の改訂に合わせて内容の充実を図るためにページ数を増加させるといった努力もしている。少子化だから教育予算が減っていくということではなく、このような教育の質的向上を図る取り組みが進められることが少子化の時代だからこそ重要だと考えている。

学習者用デジタル教科書の今後の在り方は大きな検討課題だ。法改正によって19年4月から紙の教科書に代えて使用することもできるようになったが、現時点での普及率は8%程度にすぎない。背景には、義務教育段階での紙の教科書は無償であるのと異なり、デジタル教科書は有償なので設置者が費用を負担しなければならないことなどが考えられるが、21年度にはデジタル教科書の普及促進と検証を行うための経費を計上している。

デジタル教科書には、タブレットなどにタッチペンで書き込んだり、すぐに消せたりという特性を生かし、試行錯誤をしながら、その結果を友達と見せ合いながら意見交換をするなどの活動ができるといったメリットがある。また、文字の拡大や読み上げ機能は、障害のある子供たちが学ぶ上で役に立つことが期待される。こうした点を踏まえて、今年3月にまとめられた「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」の中間まとめでは、次に小学校用教科書が改訂される24年度を本格的に導入する最初の契機として捉えるとしている。ただし、既に教科書の編集・検定・採択のプロセスが進んでいることを踏まえ、24年度時点では、紙の教科書と同一の内容とする現行のデジタル教科書の仕組みは維持することとされている。とはいえ、実際には、デジタル教科書は動画や音声などのデジタル教材とセットで販売されるものも多く、そうした教材との連携によりデジタルの良さを十分に感じられると思う。

また、中間まとめでは、紙の教科書は学校教育の基盤を長年支えてきており、例えば一覧性に優れているなどの特性や書籍に慣れ親しませる役割があることなども踏まえ、デジタル教科書と紙の教科書の関係については、全国的な実証研究や関連分野における研究の成果などを踏まえつつ、財政負担も考慮しながら、今後詳細に検討する必要があるとされている。いずれにせよ、デジタル教科書を学校現場で実際に使ってみて実証を積み重ねながら、スモールステップで検討を進める必要があると考えている。

――最後に、こうしたプロセスを経て完成した教科書をもとに指導にあたる現場の教員にエールを。

わが国の教科書は、民間の発行者によって子供たちの学びに資するさまざまな創意工夫が凝らされているが、それを使って「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには、現場の教員の方々の指導力が欠かせない。この点は、教科書が紙でもデジタルでも変わることはない。デジタル教科書によってできることの幅は広がるので、先生方にはそれをうまく活用し、子供の学びの充実を図っていただきたい。デジタル教科書を使うこと自体を目的化することなく、教育的な効果や配慮の観点から、紙の教科書とデジタル教科書をどう使い分けていくのが良いのかということについても適切に判断していただきたいと思う。