学習意欲向上の鍵を握る 非認知能力のスコア化(前編)

 ここ数年、教育界では「非認知能力」という言葉が注目を集めている。背景には新学習指導要領の実施やSociety5.0の到来などがあると言われるが、明確な定義がないまま言葉だけが独り歩きしている感も否めない。そうした中、学術的な見地から非認知能力を定義・分類し、スコア化を通じて学習意欲向上を図る新たな試みも始まっている。非認知能力を巡る教育界の最新動向を追った。(全2回の1回目)

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「非認知能力」の育成が叫ばれる背景とは

 最近はごく当たり前に使われている「非認知能力」という言葉だが、法令や答申などで公的に示されたものではない。そんな用語が、なぜこれほどまで注目を集めるようになったのか――その理由について、元全日本中学校長会会長で東京家政学院中学校・高等学校の佐野金吾校長は、新学習指導要領との関連性に触れながら次のように説明する。

東京家政学院中学校・高等学校 佐野金吾校長

 「これまでも、平成元年版学習指導要領で『個性教育』が提唱されるなどはしていたが、『集団』を見るという指導の在り方は変わらなかった。だが、今回の学習指導要領ではSosciety5.0の到来を踏まえ、『一人一人』に目を向け、その資質・能力を伸ばすことが目指されている。『一人一人』を見るなら、学校は児童生徒の学力だけでなく、『非認知能力』と呼ばれるさまざまな特性を把握しながら指導していかねばならない」。

 現在、教育界では「GIGAスクール構想」や「小学校の35人学級」などが進められているが、こうした流れも「一人一人を見る指導」への転換を意味するものだと佐野校長は話す。

 非認知能力の育成が叫ばれる理由として、佐野校長はもう一つ、長年にわたり「学歴主義」と呼ばれてきた日本社会に変化が生じてきている点を挙げる。

 「企業の採用選考で、いわゆる『ガクチカ』(大学時代に何に力を入れたか等)が重視されるなど、最近は学力・学歴重視の傾向に変化が見られる。大学も、論文や面接で選考する所が増えてきた。世の中には、いまだ学力や偏差値に意識を向ける人も多いが、状況は着実に変わってきている」。

 大学入試や就職活動がそうした方向へシフトすれば、学校は非認知能力の育成に本腰を入れていく必要がある。だが、それは決して容易なことではない、と佐野校長は指摘する。

 「一番の課題は、生徒一人一人の非認知能力をどのように把握するか。学校によっては校務支援システムを使って、児童生徒の良い所や課題などを入力している所もあるが、それは断片的な情報にすぎず、指導に生かすのは難しい」。

 昨今の学校教員は多忙化が著しく、子供たちと会話する時間もろくに取れないと言われる。そのような実態がある中で、担任が児童生徒一人一人の非認知能力を把握して日々の指導に生かすことの難しさを佐野校長は指摘する。

9項目の非認知能力をスコア化
Edv Future株式会社 山崎泰正社長

 こうした状況の中、非認知能力をアカデミックな観点からスコア化し、指導に生かそうとする試みも始まっている。いち早くその実用化にこぎ着けたのが、中学・高校生向けのデジタルコンテンツなどを手掛けるEdv Future株式会社だ。

 同社が2020年9月にリリースした「Edv Path」は、生徒一人一人の非認知能力を項目別にスコア化し、AIがコーチングプランを提供する新たなサービスとして注目を集めている。

 なぜ、このようなサービスを開発しようと考えたのか、同社の山崎泰正社長はその経緯を次のように語る。

 「人口減が進む中、今後の日本社会は一人当たりの労働生産性を高めていかねばならない。その上で、一番変わらなければならないのが教育。多くの若者が、自分の特性ややりたいことを見いだせないまま、ただ何となく大学へ進学し、就職しているような状況がある。これでは労働生産性は高まらない。自らの特性ややりたいことを理解し、主体的に意思決定できる人を増やすためにも、非認知能力を可視化していく必要があると考えた」。

 「Edv Path」を通じてスコア化されるのは、「自己理解」「セルフマネジメント」「対人関係スキル」「自発性」など全部で9項目。生徒が端末から50の質問に回答することで、自動的にスコア化される。質問内容やスコア化のアルゴリズムは、国内外の学術論文に基づいて制作し、実証テストを繰り返した上で、大学の心理学系研究室に監修を受けたという。

 こうして非認知能力がスコア化されれば、教員はエビデンスに基づいて指導をすることが可能となる。「非認知能力のスコアは、3者面談でフィードバックしたり、職員会議で生徒情報をやり取りする際に活用したりできる。『学校全体』『学年』『学級』などの単位でもデータが見られるので、集団全体の状況をモニタリングすることも可能。修学旅行や学園祭など大きな行事の前後でデータを取れば、行事の効果を検証し、改善・充実を図ることもできる」と山崎社長は語る。

 「Edv Path」は、学校の教育方針や目指す生徒像等に応じてカスタマイズすることも可能だ。例えば、生徒が最初に回答する質問数を50から80に増やし、学校独自のデータを取得することもできる。そのため、ユニークな教育方針を掲げる私学は、独自のディプロマ・ポリシーに対応した活用もできる。

非認知能力を高めるプログラム

 「Edv Path」は、非認知能力が可視化されるだけのサービスではない。非認知能力の向上を図る35の学習プログラムと、その年間シラバスや指導案も収録されている。その最大の特徴は、50分のプログラムを「実施して終わり」ではなく、生徒一人一人に中長期的なコーチングプランが提示され、その後も継続的に非認知能力を高めていける点だ。

 具体的なプログラム例として、「自己理解①:自分の好き・きらい」「SEL/EQを知る」などがあり、生徒たちは活動中、端末からいくつかの質問に回答していく。すると、その回答データと9項目の非認知能力スコアを基に、AIが具体的なアドバイス(読み物コラム)を提示する。さらには、非認知能力の向上を図るためのロードマップも提示され、生徒たちは自身が取り組むべき課題が明らかになる。

 「担任の先生は管理画面上から、各生徒の取り組み状況を把握できる。そうしてクラス全体への指導を調整すると同時に、注力すべき生徒には個別対応することもできる。もし、学習意欲が低い生徒がいた場合、具体的に何が阻害要因になっているかが可視化されるため、適切なサポートを講じることができる」と山崎社長はサービスの特徴を述べる。

 学習意欲の向上は学校教育の普遍的な課題で、多くの学校がさまざまな工夫を凝らしている。しかし、思うような成果を上げられていないケースも多い。そんな中、非認知能力という視点から科学的・体系的にその向上を図ろうとする「Edv Path」のサービスは注目に値する。

「個別最適な学び」の鍵を握る非認知能力の可視化

 このように「非認知能力の可視化」という試みは、実用段階にまで来ている。こうした動向を学校関係者はどのように見ているのか。

 佐野校長は「測定された非認知能力のスコアが、そのまま生徒の評価となるわけではない。だが、指導上の一指標としては有効。教員が自身の経験と照らし合わせながら上手に活用すれば、指導の充実につなげることができる」と話す。「集団」を見る指導から「一人一人」を見る指導への転換、すなわち「個別最適な学び」を実現していくに際しては、非認知能力の可視化が鍵を握ることになるのかもしれない。

 非認知能力の重要性が叫ばれる中、「Edv Path」の導入校は増え続けている。山崎社長は「今後は、より多くのデータを取得することで、システムの信頼性をさらに高めていきたい。また、各教科の学力との紐づけも図っていきたい。そうして実用性が高まり、より多くの人に使ってもらえるようになれば、主体的に意思決定できる人が増えると考えている」と今後の展望を語る。

 「目に見えない力」と言われ続けてきた非認知能力の可視化が、学校教育にどのような効果をもたらすのか、今後の動向が注目される。

「Edv Path」公式サイト

[教育新聞ブランドスタジオ制作]

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