学習意欲向上の鍵を握る非認知能力のスコア化(後編)

 非認知能力の重要性が指摘される中、学術的エビデンスに基づきそのスコア化を図る実践は、すでに実用段階に入ってきている。実際にどのような形で「対人スキル」「自発性」などの非認知能力がスコア化され、日々の指導に生かされているのか。そうした取り組みが、本当に生徒たちの未来を切り開くことにつながるのか――。他校に先駆けて導入に踏み切った公立高校と私立中高一貫校の取り組みを取材した(全2回の2回目)。

【協賛企画】Edv Future株式会社


学力とは異なる指標で生徒たちを見る――福岡県立太宰府高等学校
太宰府市の観光振興について、自分たちの提案を太宰府市長に説明する生徒たち

 福岡県にある太宰府高等学校(瀨尾博栄校長)では長年、「世の役に立つ人間(ひと)たれ」を校是に掲げ、地域社会で活躍できる人材の育成に力を注いできた。今年度も生徒たちが観光振興の企画提案をしたり、市のプロモーション動画を制作したりするなど、地域と協働した活動を積極的に展開している。今年2月には太宰府市と包括連携協定を結ぶなど、来年度はこうした取り組みをさらに加速させていく構えだ。

 そんな同校が、課題の一つとして捉えているのが生徒の非認知能力を高めていくことだという。同校の林節子副校長は「本校には地域に育ててもらい、地域に貢献できる人材を育てていきたいとの思いがある。そのためには、自信を持って主体的に社会と関わっていく力の育成が不可欠。こうした力をどう育んでいくかを長年の課題として捉えている」と話す。

 そうした課題を踏まえ、昨年9月に導入したのが、生徒一人一人の非認知能力を項目別にスコア化できる「Edv Path」だ。

 教務主任の菱谷涼太良教諭は「本校の生徒の進路は多様で、大学に進学しない者も多い。そうした中で、学力とは異なる指標で生徒たちを見ていく必要があり、それを数値化・定量化して推移を測れば、より実効性の高い指導ができると考えた」と導入の経緯を説明する。

福岡県立太宰府高等学校の林節子副校長(右)と教務主任の菱谷涼太良主幹教諭(左)

 「Edv Path」では、生徒が50の質問に端末から回答することで、「自己理解」「セルフマネジメント」「自発性」など全部で9項目の非認知能力がスコア化される。同校では10月と1月の2回にわたってこのアセスメントを行い、生徒一人一人にその結果をフィードバックした。

 その結果について菱谷教諭は、「生徒一人一人のスコアだけでなく、学級別のスコアも出たことで、各クラスが抱える課題、クラス経営の状況なども見えてきた。生徒たちの学びを変えていくために、まずは私たち教員が変わらなければならない。今後は『Edv Path』のスコアも踏まえながら、指導の改善を図っていきたい」と話す。林節子副校長も、「教員の授業や指導を変えていく上で、これらのスコアはエビデンスとして活用できる。また、『Edv Path』を通じて、生徒たちにどんな力を育んでいくかについて、教員の目線を合わせることもできる」とそのメリットを指摘する。

 「Edv Path」には上記アセスメントの他に、非認知能力の向上を図る35の学習プログラムと、その年間シラバス・指導案も収録されている。同校では来年度、1~2年生が「総合的な探究の時間」でこれらのプログラムに取り組んでいく予定だ。

 地域との連携・協働については、地元にある竈門神社のライトアップイベントの企画・運営に生徒が携わったりする計画も持ち上がっている。菱谷教諭は「『Edv Path』を使って、生徒たちには「何のためにするのか」「自分たちのゴールはどこにあるのか」を意識させ、自分の成長も振り返りながら、こうしたプロジェクトに参加させていきたい。そうして主体性を引き出しながら、今後は生徒主体の学校づくりも進めていきたい」と今後の展望を話す。

ディプロマポリシーを実現するためのツールとして導入――田園調布学園中等部・高等部

 「Edv Path」は、「非認知能力」の向上に本気で取り組む学校を中心に、活用が広がり始めている。中でも建学の精神に「人間教育」の重要性を謳う私立学校では、導入に積極的な所が多い。

 東京都世田谷区にある田園調布学園中等部・高等部(清水豊校長)も、来年度から「Edv Path」の導入を決めた学校の一つだ。同校はディプロマポリシーに「自己を深くみつめてより高い目標を定め、学び続けることができる人」などの言葉を掲げるなど、自ら主体的に学ぶ生徒の育成に取り組んできた。具体的に、各教科での「協同探求型授業」や「土曜プログラム」、「教科横断授業」などを通じてそうした資質を育んできたが、2023年度はこうした実践をさらに進化させるべく、週1コマ「探究」の時間を展開していくこととなった。

田園調布学園中等部・高等部の入英樹副教頭(右)と平福かおり教諭(左)

 そうした実践を進めていくに当たり、導入を決めたのが「Edv Path」だった。その経緯について同校の入英樹副教頭は「『探究』をスタートするに当たって『育てたい資質・能力』を明確にするため、教員チームが約1年掛かりで学年別の学校ルーブリックを作成した。これが完成した頃に『Edv Path』を知り、私たちが目指していることと方向性が一致しており、『非認知能力』がスコア化されるという点で指導に生かせると思った」と話す。

 同校では来年度、まずは中等部1年生が「Edv Path」を活用しながら探究学習に取り組む予定でいる。具体的に、「リフレーミングで自分の強みを知る」「自分の未来年表を作る」などのプログラムが予定されており、事前のアセスメントでスコア化された非認知能力データも活用しながら進めていく。シラバスは「自分」を中心としたものが中心だが、この点について入副教頭は「中学受験を経て入学してきた中1生の中には、テストの点数=自分の価値と思っている生徒も多い。そうした考え方を変える意味でも、中1の生徒たちには自分を振り返り、自分を見つめる習慣を付けさせたいと考えている」と説明する。

 また、入副教頭と共に探究の推進役を務める平福かおり教諭も「中高生は、自分を振り返る時間というのが少ない。教科学習はもちろん、ホームルームも基本的には『外』を向いている。『Edv Path』を使って自分という『内』に向く体験を中1段階から経験させることで、生徒たちがどう成長していくかが楽しみ」と話す。

 一方、中学校や高校の多くは、そうした「人間教育」と「大学進学実績」の両立をいかに図るかが課題となっている。この点について入副教頭は「最近は、大学入試も変わり始め、テストの点数や偏差値だけでなく、中高時代に自分がやってきたことが評価される時代になってきた。本校でも、定期考査の順位を成績表に記載していない。生徒たちには、他人と比べるのではなく過去の自分と比べてほしい。そもそも、自分を振り返る、自分を見つめるなど、探究学習で身に付けた力や姿勢は、総合的な学力の向上に繋がるはずであると考える。その意味でも『Edv Path』を活用した『探究』の授業が果たす役割は大きいと考えている」と話す。

 同校ではすでに、生徒の約3分の1が総合型選抜・学校推薦型選抜で大学に進学し、その割合は年々増えているという。来年度の入学生が「探究」を通じて自分と向き合い、自己理解やセルフマネジメント力を高めていけば、進路選択においても大きな武器となるのかもしれない。

経験や勘に基づく指導から、科学的エビデンスに基づく指導へ

 このように、「非認知能力」の育成を図る実践は、多くの学校で本格化し始めている。高校では、「多様化する大学入試への対応」という点でも、「実社会での活躍できる資質の育成」という点でも、今後は『Edv Path』のようなツールやシステムの活用が広がっていく可能性はありそうだ。

 『Edv Path』の開発元であるEdv Future株式会社の山崎泰正社長は、「いずれは『Edv Path』を使ってスコア化された非認知能力と、学力などの認知能力との紐付けも図っていきたい。そうして、より精度の高いコーチングができるようになれば、自己決定できる人が世の中に増え、社会の生産性も高まると考える」と話す。

 高校では来年度の入学生から新しい教育課程に突入し、「探究」と名の付く教科・科目が数多くスタートする。こうした学びを実りあるものとする上でも、非認知能力を現場の経験や勘ではなく、学術的エビデンスに基づいてアセスメントしていくことが必要なのかもしれない。

「Edv Path」公式サイト

(教育新聞ブランドスタジオ制作)

あなたへのお薦め

 
特集