あらゆる力をフル活用 多様な考えを深め合意形成を目指す 公文国際学園の模擬国連

 新学習指導要領の実施、GIGAスクール構想による1人1台端末環境での学習など、教育の転換期を迎えている現在、学校現場では主体的・対話的で深い学びの実現に向け、さまざまな実践を行い課題と向き合っている。そのような中、模擬国連は、国際政治の仕組みを理解し、国際問題の解決策を考えるプロセスを体験できるだけでなく、思考力、判断力、表現力、対人交渉力などの育成につながることから、教育プログラムとしても高い評価を得ている。そこで、17年間にわたって実践されている公文国際学園(神奈川県横浜市)の校内模擬国連【“Model United Nations of Kumon”(MUNK=ムンク)】に注目してみた。

【協賛企画/公文教育研究会】

白熱した議論が展開された今年のMUNK

 同校は国際社会で活躍できる人材の育成を掲げ1993年に開校した中高一貫校。2006年から始まったMUNKは毎年2月に実施され、希望制で中学1年生から高校3年生まで誰でも参加できる。3月には英語版の校内模擬国連(MUNK International)も実施している。MUNKでは企画・運営、資料作成や当日の進行まで、生徒たちが主体的に行い、実行委員を中心に半年前から準備を進める。

 17回目を迎える今回のMUNKはオンラインで開催され、156人(招待校6校からの参加者を含む)が参加した。今回のテーマは「LGBTQ+」。生徒は世界各国の大使の立場に立ち、白熱の議論を戦わせた。MUNKでは生徒1人もしくは2人が各国大使の立場に立つ。事前にテーマに関して下調べを重ね、自分に割り当てられた国の現状や立場を研究し参加している。

 開会式後、各国の立場表明に続きロビー活動が行われ、意見や考えの近い国同士がグループを作り、各グループで決議草案(DR=Draft Resolution)を作成し、グループの代表国がDR採択のセッションに臨む。各国大使は自国の国益を考えながら、他国の意見にも耳を傾け、国際社会全体にとって有益なDRを作成すべく交渉を重ねていく。

 DRの採択の可否を議論するセッションでは、提出された三つのDRについて質疑応答や修正案提出などが行われ、多数決により提出されたDR全てが可決された。「LGBTQ+」に理解を示す多様な内容が盛り込まれたDRを取りまとめたグループは意見を調整するのに困難を極めた。それ以上に宗教上の理由で「LGBTQ+」を認めない国々のグループは、多数派を占める「LGBTQ+」を容認する国々との妥協点を探り、可決に導くためにはセッションにおいて高い対人交渉力が必要とされた。

 初めてMUNKに参加した生徒からは、次のような感想が聞けた。

 「LGBTQ+や自分が担当した国について調べ、各国の大使との議論から、さまざまな国の現状を知ることができた。また、先輩たち大使の議論の中でも発言ができ、その発言が認められたことが自信につながった(鯨岡愛さん/中1)」

 「多くの人と関わりをもつことでコミュニケーション能力がついたと感じる。世界各国が抱えている問題を他国の視点から見て考えることができ、今後自分がどのような行動を起こせばよいか、より深く考えるきっかけとなった(才田愛実さん/中1)」

 この感想のように自己肯定感につながる取り組みとなったことが分かった。

 実行委員長を務めた宮部遥さん(高1)は「各国大使が、平等に自由闊達に議論してもらうという思い描いた環境を、限られた時間の中で作り上げるには、周到な事前準備が大切だと学んだ。今回のテーマを『LGBTQ+』にしたのは、多様性が進む激変の世の中で『自分のアイデンティティー』を認めてもらえない人がいることは大きな問題だと考えたから。現状を正しく理解し、誰一人取り残されない解決策を考えて欲しい」と思いを語った。

日頃の教育活動とMUNKの相互関係

 MUNKで見せた生徒のさまざまな力は、日頃の教育活動の中において着実に育まれている。高等部で世界史、中等部で社会科を教えている大山紘平教諭は「授業なども含め日頃の教育活動とMUNKの取り組みは、互いに同じ方向性にあると感じる。それは、学習指導要領でうたわれている『生きる力』の育成と学園が掲げている『異質の他者を認める。国際社会で活躍できる人材の育成のため、自分たちの立場を超えて学ぶ』というところだ。当たり前のことが、違う立場に身を置くことで当たり前でなくなり、見方や考え方が変わる。教師の役割は、生徒に多様性について気付かせる『動機付け』を示し、物事への興味・関心を高めてあげることだと思う。そのためには、教師自身が、常に物事に興味・関心を持ち、問題意識を持つことが大切である」と述べた上で、「動機付けの場が日頃の教育活動とすれば、MUNKは理解を深める場の提供といえる」と相互の関係性を語る。

 加えて、大山教諭は「以前、ムスリムの留学生が在籍している時に、日本にやってきたムスリムの人が使う『日本に来た際の参考ガイドブック』を生徒に作成させる課題を出したことがある。その時に『インターネットなどで調べた情報ではなく、留学生の話をよく聞くように』と指導した。その結果、生徒は3カ国語のガイドブックを作成し、世界の中におけるイスラームの人たちの状況を踏まえた内容に仕上がった。『動機付け』には『体感』の要素が重要であり、先ほどの例では『留学生の生の声や考え』だ」と実例を挙げ、日常の教育活動もMUNKに対する取り組みも「体感すること」の重要性を指摘する。

 「生徒には、日頃の教育活動の場やMUNKなどに取り組むことで、生きていく上での価値観を確立し、本当に興味を持てることを見つけてほしい。また、MUNKを通して喫緊の課題に本気で取り組んでみることは、社会の課題に取り組む面白さ、難しさを知り、生き方に刺激を与えることにつながる」とエールを送った。

制作:教育新聞ブランドスタジオ

あなたへのお薦め

 
特集