主体的・対話的で深い学びへ 指導要領を体現する教科書

 新年度を迎え、新しい教科書が子供たちに届く時期にちなんで設定されている4月10日の「教科書の日」。主体的・対話的で深い学びや社会に開かれた教育課程をうたった学習指導要領の理念を、具体的な教材として体現した教科書が果たしている役割について、文科省初等中等教育局教科書課の安井順一郎課長に聞いた。安井課長は、新学習指導要領に基づく教科書の充実が進むとともに、GIGAスクール構想が進展する中で、学習を組み立てる際の道標としての教科書の役割も大きくなると話す。

教科書が果たしてきたさまざまな役割について語る安井課長

学びが目指すべき方向を示す羅針盤

――今年は学制の公布から150年を迎えますが、教科書が、日本の近代学校教育を支えてきた役割とはどのようなものでしょうか。

 教科書は主たる教材として学校教育を構成する不可欠な要素であり、教科書なくして学校教育は成り立ちません。教科書には、これまでの教育理念、学校現場の教育実践や指導の積み重ねが反映されています。質の高い教科書が無償給与されることによって、日本の学校教育の水準を支えてきただけでなく、教育の機会均等にも大きな役割を果たしてきました。

 民間の発行者が著作し、検定を行う日本の教科書制度は、発行者の創意工夫と検定制度があいまって、内容が正確で質の高い図書を提供する仕組みになっています。社会の変化に対応しながら、さまざまな教育改革の議論が学習指導要領として結実しますが、その理念を子供たちにどう届けるかが重要となります。さまざまな創意工夫により、学習指導要領を具体的な学びに具現化した教科書は非常に重要で、教育改革を実現する役割をも果たしていると言えます。

 また、GIGAスクール構想による1人1台の学習者用端末の活用が進むなどして、教科書以外にもさまざまな教材やリソースにアクセスしやすくなりました。豊富な情報にアクセスできるようになった半面、それらの情報を、教育的観点から取捨選択しなければいけない場面も増えました。授業で学ぶべき内容が正確に体系的に編集された教科書は、その内容を学ぶことはもちろん、子供たちが学びを進める過程で自らの学びを振り返ったり、教師が何を目指して授業を組み立てるのかを考えたりする上で道標になるのではないでしょうか。学習指導要領の改訂時には、学習指導要領が「学びの地図」であるという議論もありましたが、教科書自体がまさに、具体的な学習活動の中で学びが目指すべき方向を指し示しているものです。

――教科書の完全供給体制も、日本の教科書制度の特筆すべき点であると思います。

 1千万人を超える児童生徒に必要な教科書を、全国の学校に遅れることなく供給できるのは、発行者、供給会社、取次書店の方々のたゆまぬご尽力のおかげです。日本では、新年度が始まる4月に教科書が手元に届くことが当たり前のように思われますが、これは決して容易なことではありません。特に、大規模な災害が起きて教科書が使えなくなったときに、すぐに供給されるようなサポート体制が確立されていることは重要な社会システムであると思います。また、日本では子供たちが自分の教科書に書き込みをしたり、家庭に持ち帰って勉強したりできるというのは当然のことですが、教科書が貸与制の国では持ち帰りなどに制限があるところもあり、無償給与制度の重要性を改めて感じます。

デジタル教科書の本格的な普及に向け紙とデジタルの位置付けを検討

――GIGAスクール構想の進展で、いよいよデジタル教科書の普及も視野に入ってきます。

 2019年4月に施行された改正学校教育法でデジタル教科書が制度化されました。文科省では22年度予算で、24年度からのデジタル教科書の本格的な導入に向けた「学習者用デジタル教科書普及促進事業」を盛り込んでいます。希望する全ての小学校、中学校、特別支援学校に対し、英語などの一部の教科でデジタル教科書を活用していただき、実証研究を進めていきます。

 デジタル教科書の活用は少しずつ増えているものの、これを機に学校現場でさらに活用を進めていただき、デジタル教科書の可能性を研究していく必要があります。例えば、デジタル教科書により、文字と写真・図表だけだった紙の教科書では実現できなかった音声や動画なども活用でき、子供たちの理解を促すための選択肢が格段に広がります。それと同時に、豊かなデジタル教材をどのように授業で提示していくのがより効果的かなど、学校現場では、教室の中でデジタル教科書を使った指導方法を深めていかなければいけません。

 もちろん、従来の紙の教科書は一覧性に優れているといった声もありますし、デジタルにはデジタルの課題もあると思います。中教審でも先日、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」が設置され、紙とデジタルの役割分担などが検討されます。この特別部会での議論も踏まえながら、文科省としても教育効果の観点からしっかりと位置付けを考えていきたいと思います。

教科書を通じて保護者や地域が教育に関心を寄せる日に

――新しい教科書を教師や子供たちが手に取る時期ということで、4月10日が「教科書の日」になっています。改めて、どんな思いで教科書を見てほしいですか。

 学校関係者は日々教科書をご覧になっていると思いますが、保護者の方はどうでしょうか。子供が使っている教科書をじっくり眺める機会は意外とないのではないでしょうか。

 これまでの教育改革の議論を受けて、教科書は常に進化し続けています。保護者の方が子供の頃に使っていた教科書と今の教科書は、大きく変わっていて驚くことも多いと思います。

 特に新学習指導要領に準拠した新しい教科書は、生活の中から生まれてくる疑問に即した学びや、学んだ知識を生活に生かす視点が盛り込まれ、地域を題材にしたものや現代社会の課題を取り上げたものなど、学習指導要領が目指す主体的・対話的で深い学びや社会に開かれた教育課程を体現したものとなっています。

 ぜひ「教科書の日」には、保護者や地域の方にも教科書について関心を寄せていただき、子供たちの教育の在り方について、学校と一緒に考えるきっかけとしていただければと思います。

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