多様性の時代 教師がJICA海外協力隊で得た「気付き」とは

 答えが一つではない課題にぶつかったとき、どう向き合い、周りを巻き込んで解を導いていくか。それは子どもたちだけでなく、教師にも求められる予測不可能な時代の資質・能力だ。愛知県長久手市立南中学校の西田香奈子教諭は、2017年7月から約2年間、JICA海外協力隊員としてエチオピアで教育支援活動に携わる中で、それを実感した。「多くの子どもに接する教員だからこそ、視野を広げるべき」と話す西田教諭に、参加のきっかけから現地での活動、帰国後の社会貢献活動について聞いた。

【協賛企画:独立行政法人国際協力機構(JICA)】


原点は学生時代のボランティア体験

 西田教諭がJICA海外協力隊員への参加を考えたきっかけは、大学3年次の経験にさかのぼる。旅行会社が主催するボランティアツアーでカンボジアを訪れたときのことだ。現地の小学校で、日本から持参したクレヨンで子どもたちと絵を描いて交流した。子どもたちのキラキラした目の輝きが忘れられず、教員採用試験合格後も「途上国の子どもたちのためにいつか働きたい。教育を通じて、一人でも多くの子どもたちを笑顔にしたい。」という想いを温めていた。

「現職教員特別参加制度」を利用してエチオピアへ

 愛知県の公立学校教員として小学校に5年勤務した後、JICA海外協力隊に「現職教員特別参加制度」を利用して応募。2017年4月からの派遣前訓練を経て、同年7月から2019年3月までの1年9カ月、エチオピアに派遣された。「現職教員特別参加制度」とは、文部科学省とJICAが共同で実施する、教員がその身分を保持したまま海外協力隊に参加する制度だ。開発途上国の学校などで教育技術を移転する、教職をダイレクトに生かせる活動を行い、帰国後には自身の経験を教育現場に還元し、わが国の教育の質向上にも貢献できる。

手づくり絵の具は、小麦粉とスパイスで

 配属先は首都アディスアベバ市にあるアビヨットファナ小学校で、活動内容は図工、体育、音楽などの情操教育の発展に寄与すること。1学年200人近い大規模校のためか、配属当初、現地の教員には、新しい教員が配置されたかのように受け止められてしまった。その誤解を解くのに時間がかかったという。

 指導法や教材の提案を通して、現地の教員をサポートするために来ていることを分かってほしいと考えた西田教諭は、情操教育の教科書を現地の教員に見せてもらい、内容に合う授業アイデアを積極的に提案していった。「自分が何をしにきたのかを理解してもらうために、いろいろな先生にアプローチをかけました」と、振り返る。

 図工では、高価な絵の具の代わりに、ターメリックなどのカラフルな香辛料と、小麦粉のりを混ぜた絵の具を作り、段ボール紙で作ったスタンプで「模様づくり」を提案した。子どもたちは大喜びで、2年目には「またやってほしい」と現地の教員からリクエストされるほどだった。

 体育ではビニール袋をズボンの後ろのポケットに入れて「しっぽ取りゲーム」、音楽では「ドレミのうた」に合わせた体操の、クラス対抗発表会などを提案した。アイデア満載の授業づくりで西田教諭の役割は次第に理解されるようになっていった。

 「現地の先生は、教材や道具がないからできないと、諦めがちでした。身の周りで入手できるものを使い、できることを考え一緒に授業を行うことでアイデアを共有していきました」。

共に授業を作り、共に生活する

 西田教諭は、授業だけでなく生活面でも自ら溶け込もうとする姿勢を大切にした。エチオピアで多く話されるのはアムハラ語で、英語を話せる人は教員でも多くない。西田教諭が派遣前および現地の語学訓練で習得したアムハラ語も簡単な日常会話程度だった。

 それでも、西田教諭は現地の同僚と昼食を共にし、親しくなった教員の自宅に夕食に招かれるなど、楽しみながら現地の生活や文化に親しんでいった。「クレープのようなエチオピアの伝統食『インジェラ』が大好きになりました。ランチタイムに他の先生がお弁当で持ってきているのを分けてもらったりして。そこから仲良くなれたように思います」。

 アディスアベバでの生活は、基本的なインフラは整っており不便はなかったが、2週間の断水で「水のありがたみが分かった」という経験もした。また、休暇を利用してエチオピア国内、エジプト、タンザニアなどへも旅行し見聞を広めることができた。それらを含めた活動の様子は「エチオピア通信」にまとめ、日本の在籍校に発信。日本の子どもたちにアフリカ諸国の様子を伝えていった。

これまでと違う子ども観、教育観が生まれた

 帰国後、派遣前の勤務校に小学6年生の担任として復帰すると「国際交流クラブ」を立ち上げ、エチオピアと日本をつなぐ活動を始めた。後任の隊員と連携を取って子どもの似顔絵を交換したり、現地とのオンライン交流会を開いたりと国際理解教育に積極的に取り組んだ。

 その後、中学校に異動となり、現任校では派遣経験を英語の授業で生かしている。授業の導入でエチオピアでの活動についてふれる、当時の写真を題材に英語の例文を作るなど、生徒の興味や関心をかきたてる授業をしている。教員のリアルな海外体験談は、生徒の外国語学習のモチベーションを高めてくれるという。「世界の開発途上の国々に目を向け、JICA海外協力隊などの海外でのボランティア活動に興味を持ってくれる生徒が1人でも出てくれれば嬉しい」と西田教諭は期待をかける。

 何より「子どもの見方が大きく変わった」と言う西田教諭。派遣前までは”苦手なタイプの子”がいると、それが学級経営に影響し、自分に自信を持てないこともあった。「エチオピアと日本、両方の子どもたちに接することで、一人一人違うのが当たり前だし違っていていい、と受け入れられるようになりました。誰にでもいいところがあるのだから、個性をしっかり認め伸ばしてあげられるようになりたい、そう思えるようになったんです」。帰国後も、エチオピアからの留学生や在日エチオピア人との交流をはかるなど、エチオピアとのつながりを大切にし続けている。

安心の制度でチャレンジを

 途上国への貢献、そして自ら成長できるJICA海外協力隊員の活動。参加に関心を持つ教員への、西田教諭からのアドバイスは次の通りだ。

 「授業が楽しくなるようなスキルを一つでも多く身に付けて、アイデアの引き出しを増やしていくといいと思います。楽器や踊りができるのも、現地の人とコミュニケーションを深めるのに有効です。私もソーラン節を踊って見せたら子どもも先生も興味津々で、ぐっと距離が縮まりました」。折り紙や、歌の音程をその場で確かめられる鍵盤ハーモニカ、どこでも音楽をかけられる充電式のスピーカーも重宝したという。現地では先輩の隊員に相談したり、取り組んでみてよかった実践を真似させてもらったりもした。

 こうしたチャレンジができたのは、「現職教員特別参加制度」を利用し、現職のまま海外協力隊に参加できたことも大きい。日本の教員の身分を維持しながら派遣されるので、帰国後すぐに学校への復帰が可能だ。戻れる職場があることで「焦りなく、最後まで活動に専念できるのが魅力」と西田教諭も言う。家族も「JICAの制度なら」と安心して送り出してくれた。ただし、情報収集や応募までの準備にも1年ほど時間がかかる。スムーズに応募から派遣へと到達するためには、周囲の教員や管理職には「いつかは海外協力隊に行きたい」と日常的に希望を伝えておくこともポイントだという。

 エチオピア人の温かく社交的な人柄や、助け合いの精神に助けられたことも多かった約2年を振り返り「エチオピアは第二のふるさと」と言う西田教諭。違う角度から物事を見る発想力や想像力といった精神的な成長を遂げることができた。

 「これから高校受験を迎える中学生にも、さまざまな方向からアドバイスや声掛けができるのではないかと感じています。教員人生の中で多くの子どもと接する教師だからこそ、自分の視野を世界へと広げることが必要ではないでしょうか」。

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現職教員特別参加制度について(動画等)

(教育新聞ブランドスタジオ制作)

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