正しい理解と対応でこの夏を乗り切れ 熱中症対策特集

 新型コロナウイルスの感染拡大防止をふまえた、「新しい生活様式」での熱中症対策も3年目の夏を迎えようとしている。正しい理解と対応を啓発するとともに、学校管理下で熱中症による事故を発生させないため、文部科学省からの注意喚起と学校現場での取り組み事例を紹介する。


熱中症事故防止について 適切な予防で未然に防ぐ

文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課安全教育調査官 森本 晋也

学校での熱中症事故予防の体制整備を
森本安全教育調査官

 学校の管理下における熱中症の発生状況について、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の災害共済給付の支給状況をみると、熱中症に伴う医療費の支給が、2019年度が5074件、20年度が3371件、21年度が2549件発生しており減少してきています。これは学校における熱中症対策の充実が図られるとともに、コロナ禍において学校教育活動が制限されたこと、などが減少の要因として考えられます。

 さて、学校管理下における熱中症事故は減少してきておりますが、国内では近年熱中症が増加してきており、今後の気候変動などの影響を考慮するとますます悪化していくことが懸念されています。政府においては22年4月13日に「熱中症対策行動計画」を改定しました。本計画の重点施策には、学校における熱中症対策を含むマニュアルなどの作成を促進し、学校医らとも協力し、学校現場での熱中症事故予防の体制整備を促進していくことが示されています。

 熱中症は、活動前に適切な水分補給を行うとともに、必要に応じて水分や塩分を補給できる環境を整え、活動中や終了後にも適宜補給を行うことなどの適切な措置を講ずれば十分防ぐことが可能です。また、熱中症の疑いのある症状がみられた場合には、早期に水分・塩分補給、体温の冷却、病院への搬送など適切な処置を行うことが必要です。

危機管理マニュアルの見直し

 熱中症の事故防止のために適切な措置を講ずるためには、危機管理マニュアルが実効性あるものになっていることが大切です。21年5月に、文科省と環境省において、「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」(以下、「手引き」)を、同年6月に文科省において「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を作成しました。

 熱中症の未然防止対策として、危機管理マニュアルには、熱中症防止のため各種活動を中止することを想定し、その判断基準と判断者を具体的に定めておくことが大切です。また、21年4月からは全国で、暑さ指数33を超えると予測された場合に、環境省と気象庁より「熱中症警戒アラート」が発表されます。こうした情報の活用についても危機管理マニュアルに記載しておきます。誰がいつ確認するか、誰に伝えるか、情報を基にどのように対応をするかを決定する者(管理職や関係職員)を明確にして、組織的に対応できるよう役割分担や手順をあらかじめ確認しておくことが大切です。

 そして、熱中症は、迅速・的確な対応をしなければ死に直結することもある疾病です。このため、その兆候となる症状が現れた場合には、迅速・的確な対応をとらなければなりません。熱中症が疑われる場合の応急処置などの対応手順については、図「熱中症の応急処置フロー(例)」などを参考に分かりやすいフローで整理しておくことが大切です。そして、熱中症の発生時を想定したシミュレーション訓練を実施しておくと、いざというとき教職員の迅速・的確な対応につながります。手引きやガイドラインを参考に、学校危機管理マニュアルの見直しをお願いします。

マスクの着用について

 これからの季節は、児童生徒らがマスクを着用することで、熱中症のリスクが高まる恐れがあります。政府における「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」の変更を受けて、22年5月24日付け事務連絡「学校生活における児童生徒等のマスクの着用について」が出されました。

 屋外の運動場に限らず、プールや屋内の体育館などを含め、体育の授業の際には、マスクの着用は必要ありません。その際、児童生徒の間隔の確保や屋内の場合の換気などについて留意する必要があります。また、運動部活動についても、体育の授業に準じつつ、近距離で組み合ったり接触したりする運動をはじめ活動の実施に当たっては、各競技団体が作成するガイドラインなども踏まえて対応することが重要です。さらに、熱中症リスクの高い夏場において、熱中症対策を優先し登下校時にはマスクを外すよう指導する必要があります。事務連絡や「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生危機管理マニュアル」を確認の上、適切な指導をお願いします。

 熱中症の発生は、気象条件などから予測しやすく、正しい知識を身に付け、適切に予防することで、未然に防ぐことが可能です。これからの季節に備え、熱中症事故の防止に向けて対策や準備をお願いします。

【上部に戻る】


熱中症予防のためのリスクアセスメント~調査的面接を生かして~

岩手県立高田高等学校指導養護教諭 高橋 雅恵

※本事例は前任校岩手県立花巻北高等学校の取り組みです。

 岩手県は北東北に位置しているため、夏は涼しいと思われがちですが、太平洋高気圧の勢力が強まると、南風と強い日差しにより北国といえ猛暑日を記録するほどの暑さになります。しかしながら、梅雨の時期は気温が低い日が多く、徐々に暑さに慣れる(暑熱順化)機会が少ないことから、例年、梅雨明けの急な高温多湿により、一気に体調を崩す生徒が増加します。

熱中症になった生徒から話を聞いてみた!

 ある年、熱中症の生徒が多く発生したことから、熱中症で医療機関を受診した生徒(6人)に聞き取り調査を行いました。聞き取った内容は、①熱中症の既往の有無②熱中症が起こった場所と状況③活動内容④活動時の服装⑤前日・当日の朝の体調および生活状況⑥水分補給の状況⑧自分が考える熱中症発生の要因――などです。また、上記に加え、「既往歴」「栄養状態(やせ・肥満)」「当日の気温と湿度」などは保健調査票や健康診断結果、過去の気象データなどから確認しました。

 その結果をまとめ、発生要因の共通性を整理したのが表1です。

 調査により8つの共通項目が見出されました。一番多かった項目は「当日のWBGT(暑さ指数)が28以上」でした。やはり暑い日は熱中症が発生する危険が高まりますが、事例6はそれ以下でも熱中症が発生していますので、それほど暑い日でなくとも注意が必要であることが分かりました。

 また、「前日・当日の朝、体調不良」も多く、体調不良時に無理して活動をすることは熱中症のリスクが高まることも確認できました。

 さらに、「水分補給の不足」に該当する事例2の生徒からは「(活動中に)『水分を取れ』という指示はあったが、その時はあまり飲みたいと思わず、水分を取っていなかった」という話を聞くことができました。このことから、自分の意思で水分補給するだけでなく、強制的に水分補給させるような対策も必要だと感じました。

 調査の結果から、今後必要な対策は以下の通りと考えました。

 ①WBGT(暑さ指数)を活動前に確認し、それに応じて活動時間および活動内容を変更する。

 ②活動開始前と活動中の健康チェックを実施する。

 ③活動中、自由給水と強制給水を併用して行う。

 ④熱中症に関する安全教育を実施する。

熱中症に関する安全教育~危険予測・回避能力の育成のために

 事例3・5の生徒は「頭痛があったが、継続して活動に参加した」と話をしていました。「頭痛」は熱中症第2.度(中等度)の症状であり、その症状が改善されないまま継続して活動することは大変危険です。また、日頃から体調を整え、規則正しい生活をすることも熱中症予防につながります。

 周囲の大人が注意喚起を行うだけでは生徒の自己管理能力は向上しません。そこで、熱中症の症状や引き起こす要因(睡眠不足・朝食欠食など)について理解し、自らの健康状態に気付き危険を回避するなど、危険予測・回避能力の育成を図る必要があると感じ、生徒に安全教育を実施することにしました。

 実施時期は6月の定期考査終了後のLHR時間で、担任が資料(資料1)をもとに生徒へ指導を行いました。内容は以下の通りです。

 ①熱中症になりやすい人(ハイリスク者の理解)

 ②熱中症の症状(程度別の症状の理解)

 ③熱中症予防のための行動(自分の生活の振り返り、予防策を考える)

 ④熱中症の応急手当

 ①~③は教員の一方的な説明ではなく、自分自身の生活を振り返らせ、思考を深めさせるような指導をお願いしました。

 このほか、学校保健委員会で授業中の軽装や水分補給について協議したり、熱中症対応マニュアルを作成したり、熱中症計を設置したりするなど熱中症予防の対策を積極的に講じた結果、次年度は学校教育活動中の熱中症事故は0件になりました。

おわりに

 岩手県でも公立学校の教室のエアコン設置率はここ数年で一気に上がりましたが、特別教室や運動施設のエアコン設置率はまだまだ低く、今後の設置の推進に期待しているところです。それに併せ、自らの健康を守り危機回避のための健康行動を積極的に行っていくことも大切です。今後も環境整備と安全教育の両輪を推進しながら、熱中症事故防止に努めていきたいと思っています。

【上部に戻る】

あなたへのお薦め

 
特集