インタビュー 教育DXがもたらす「学び」の未来 文科省 総合教育政策局 調査企画課長・教育DX推進室長 桐生 崇氏

 社会のデジタル化が進み、デジタル技術を活用した新たな価値創造が求められる中、学校教育においても、デジタルトランスフォーメーション(DX)による変革が期待されている。GIGAスクール構想による全国の小中学校への1人1台端末と、高速通信網の整備はほぼ完了し、2021年度活用が始まり、22年度は本格活用の段階に入った。教育DX推進に弾みを付けるには、何がポイントになるのか。文科省 総合教育政策局 調査企画課長・教育DX推進室長の桐生崇氏に聞いた。

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今年度はGIGA端末活用の「目線合わせ」の年

――GIGAスクール構想の実現により、学校に1人1台のコンピューター端末が整備されました。ここまでの取り組みをどのように評価していますか。

桐生氏

 GIGAスクール前と後では、教室の様子は大きく変わったことは先生方もご存じのとおりです。文科省では、Society5.0時代を生きる全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びを実現するためには、学校現場におけるICT(情報通信技術)の積極的な活用が不可欠との観点から「GIGAスクール構想」を推進してきました。21年4月から、全国のほとんどの小中学校において、児童生徒の1人1台端末と、高速大容量の通信環境が整い、本格的な活用が始まっています。

 ただ、この間、学校現場にはかなりのご負担をおかけすることになったのは事実です。当初、GIGAスクール構想は5カ年で進める計画でした。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、20年年度内の実現を目指し、前倒し実施がされたからです。

 一方で、全国的な整備が一気に進んだことを奇貨として、これからどう活用を進めていくか、22年度がその分岐点になると受け止めています。GIGA端末をどのように活用していくかの「目線合わせ」を国、都道府県、市区町村、学校と、全体で行うことがポイントになると思います。例えば、ある学校が取り組みの成果について「うちの学校ではこうだけれども、他の学校ではどうなのだろうか」とか「地域の全体の中ではどうなのだろうか」と検討したいと思ったときに、これまでのアナログデータから始めて比較検討するのでは、なかなかうまくいきませんでした。

 そのような学校のニーズに、デジタル技術を活用して応える方法を、国や地方自治体、事業者などが学校に向けて「こんなことができますよ」と提案していく。そんなすり合わせができる年になればと思います。

学校現場は教育DXの第1段階

――教育DXという言葉がさかんに言われています。改めてどのようなことか、何を目指しているのかを教えてください。

 文科省が推進する「教育DX」は、三つの段階を踏むことを想定しています。第1段階は紙で行っていたものをデジタルに置き換えて効率・効果的に教育活動を進める「デジタイゼーション(電子化)」です。第2段階は、1人1台端末を効果的に用い、データをフル活用した学校教育を目指す「デジタライゼーション」。最終的には学習モデルの構造が質的に変化し、新たな価値を創出する第3段階「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に到達すると考えています。

 多くの学校が第1段階に取り組んでいるところで、今後、第2段階への移行が見込まれます。第2段階以降では、データを活用して、一人一人の特性や、興味・関心に応じた学び方ができる「個別最適な学び」が可能になります。また、データの共有が容易になるので、子供たちが協働的に学習を進める「協働的な学び」も充実させることができます。

 子供たちの学び方だけでなく、校務や教育行政の分野でも、データをフル活用すれば学校働き方改革が進み、今よりずっと便利な仕事のやり方が実現していきます。例えば、経験や勘に裏打ちされた、学校や先生方の豊かな実践のノウハウは、これまで閉じた形でしか継承されてきませんでした。一方、デジタルデータを使えばそのノウハウを組織化し、共有化するのが容易になります。全国の先生方の知を「集合知」としてみんなで使い、日本全体の教育水準を向上させることに役立てたいのです。

 DX時代とは、より良いものがあれば、それをみんなで低コストで共有し、みんなで暮らしをよりよくしていく時代のことです。ですから、教材にしても指導法やテスト方法にしても、いいものがあれば地域の枠を越えて、どの子どもも、どの先生も使えるようにしていく。それが教育DXの目指すところなのです。

クラウド活用は教育DXの要

 ただし、デジタルデータを活用した教育を実現するには、整備しなければならないことがあります。一つは、ICTを活用して収集される教育データを、使いやすいように標準化する作業です。もう一つはデータを活用するための汎用性の高いシステムを開発することです。これは地方自治体がそれぞれ構築していたのでは負担も時間もかかります。そこで、2年前から文科省は、児童生徒が学校や家庭において、学習やアセスメントができる全国共通のCBT(Computer Based Testing)システムである「MEXCBT(メクビット)」を開発し、運用を始めています。これらの基盤が整えば、教育データを研究・分析して、現場に役立つ知見を提供することができるのです。

 さらにMEXCBTを用いて、世界の学力調査で主流となりつつあるCBTの導入も進めていきます。コンピューター上でテストができれば、自動採点技術を活用して結果をすばやく集計し、問題を解いたときの操作の記録を分析して、子供たちのつまずきに関して多角的な分析ができるようになります。思考力や、問題発見・課題解決力など、これまで測定が困難だった能力が測りやすくなるメリットもあります。

 こうした教育DXの基盤整備に欠かせないのが「クラウドコンピューティングサービス(クラウド)」という技術です。GIGA端末でインターネットに接続すると、さまざまなアプリが使えますし、子どもたちの作ったデータや教材プリントなどを保存しておけますね。自分の端末にわざわざ保存しなくてもそれが可能なのは、クラウドがあるおかげなのです。

 同様に、教育データの利活用を目指す教育DXが第2段階へと進むためにもクラウド活用は不可欠です。そう話すと「セキュリティの確保など、データの安全管理は大丈夫か」「政府が個人の教育データを一元管理するのか」と、心配する声が聞かれます。国は個々の子供の情報を一元的に管理することは全く考えていません。もとより、クラウドサービスは常に最新のセキュリティが施され、安全な環境で利用できるものだからこそ広く活用されているのです。文科省では2023年春を見据えて、教育データの利活用に向けた留意事項のまとめを提示し、安心して教育データの利活用に積極的に取り組めるよう努めていきたいと考えています。

教育DXは日本の教員の良さを引き出す「強い味方」

――教育DXが進むと、先生の役割も変わるでしょうか。

 私は、日本の教員がこれまで蓄えてきた共有財産のようなものは、実はとても大きいものがあると思っています。教育DXが進むにつれ、それをフル活用できるようになる、と考えてほしいのです。その共有財産とは、目の前の子供に対する働き掛けです。OECDの国際調査では、日本の授業では、他の国に比べて先生の子供への「問い掛け」の質が高いことが明らかになっています。

 今だって「この子には、こんな教材が合っているのではないか」「本当は、こんな授業をすると面白いんだよな」と、じっくり考えたい先生はたくさんいるはずです。しかし、何しろ業務量が多く手が回らないのが現実です。そのうえでGIGA端末を活用した個別最適な学びに取り組むのは大変なことです。教材準備や採点、テストの用意などで定型化できるもの、大量処理が必要なものはデジタルに任せて、本来の日本の教員が持つ、目の前の子どもに割くエネルギーや工夫に充ててほしいのです。「教師の仕事がコンピューターにとって代わられる」という発想ではなく、授業や問い掛けを工夫する日本の教員の良さを引き出す「心強い味方」と捉えていただければと思います。

 そのために、国は教育DXと教育データの利活用に向けたルールやツールを設け、全国の成果や知見を共有する橋渡しの役割を果たすべきだと考えます。教育の分野だけでなく社会全体がDXのメリットを感じられるように、デジタル庁や他の省庁との連携も重要です。無償かつ公正で質の高い義務教育を維持するために、目には見えないところで多様な存在が相当なエネルギーを掛けて取り組んでいます。それと同じように、日本全体のDXを進めていく上で、ネットワークやデータ処理、クラウドサービスなどのデジタル社会の基盤を形成するために、さまざまな企業が公共性を担いながら活躍しています。

 DXとは全てをデジタル化し、あらゆるものをデジタル機器で行うという意味ではありません。鉛筆で紙の本やノートに書くといった行為は、これからもおそらくなくならないでしょう。けれども、そうしたときに残ったものをデータとして上手に処理し、活用することは意義がある、というメッセージが社会に広がると、教育DXの推進も期待できると思います。


 なおAWSでは学校現場で活動されている先生に向けた情報発信を行っている。同社担当者は「先生方が日々取り組まれているよりよい教育の推進にはクラウドのような新しいテクノロジーがお手伝いできることもございます。直近では教育データ活用時のセキュリティについてお話させて頂きましたので、下記リンク内のイベントもご参考にしてください。また、先生方が普段GIGA端末でご使用になっているサービスも実はAWSで動いているものがたくさんございます。こちらのサービス一覧より気になるものございましたら弊社までご連絡ください」
と話す。

AWS Summit Online スペシャルセッション 「日本が目指すデジタル社会の姿と、それを実現するために必要な考え方と取り組みについて」

2022年7月20日開催 AWS ウェビナー 「教育情報セキュリティポリシーガイドライン改訂から読み解くクラウド化」

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