JICA海外協力隊で何を実現したか 自己の成長を現職教師が語る

【協賛企画】(独)国際協力機構(JICA)

国際貢献活動に従事しながら、人間として、教師として成長――。

時代の変化に合わせ、教師に必要な資質・能力も変化してきている。特にグローバル化、情報化の進展は著しく、教師にも絶えず学び続けることが求められる時代となっている。そんな中、神奈川県鎌倉市立御成小学校の石川賢太朗教諭は、2015年度から2016年度までJICA海外協力隊員としてエクアドルの小学校で現地の教育活動の支援に携わり、人間として大きな成長を実感したという。石川教諭に、エクアドルでの体験、そして帰国後、それをどのように生かしているかを取材した。

中学生からの夢「いつか途上国の子供たちの役に立ちたい」
授業中の一コマ

石川教諭は、どのようにして、JICA海外協力隊に参加するようになったのか。JICA海外協力隊に興味を持ったのは中学生の頃で、教師になってからも「いつか途上国の子供たちの役に立ちたい」との夢を持ち続けていた。しかし、当初は現職教師としてのキャリアを優先してきた。そんな石川教諭にも、大学卒業と同時に協力隊に参加し帰国した友人との再会で転機が訪れた。

「友人は、現地での体験を通して人間的に非常に成長していました。その姿に接し、自分もそうなりたい、従前からの夢を実現したいとの思いが一挙に強まり、30歳を目前に『行くなら今だ。今しかない』とチャレンジする気持ちを固めました」と話す。

「自己啓発等休業制度」でJICA海外協力隊に参加

そして、国家公務員法及び地方公務員法に設置されている「自己啓発等休業制度」を利用してJICA海外協力隊に参加することとなった。現職教師が協力隊に参加する機会としては「現職教員特別参加制度」が知られているが、「自己啓発等休業制度」を利用した。この制度は、一定期間以上在職している職員を対象に、現職の身分を保有したまま国際貢献活動のために休業できるもの(自治体により制度の有無や内容が異なる場合がある)。途上国に貢献し、その体験を帰国後、教職に生かしたいとする自分には最適と考えた。

現地の生活になじみながら、できることを見つける

国際貢献活動への参加が決まった石川教諭の赴任先は、南米のエクアドル。シエラという山岳地帯。標高2500メートルにもなる地域だ。「ここで3つの小学校を回って算数授業や教員研修に携わりました。エクアドルは1日の中で昼食を最も大切にする文化を持っているので、学校が始まるのがとにかく早いのです。朝7時に授業が始まり、12時半には終了します。バス通勤なのですが、これがどうにも清潔とは言いがたく、匂いやダニに悩まされました」。当初は日本との違いに戸惑うことも多かった。

現地の先生に算数教材の作り方を教える

また、現地の算数授業についても違和感を覚えた。

「授業は、小学校なのに大学で講義を受けているような感じなのです。教師がホワイトボードにいろいろと書いて、一方的に説明するだけ。子供たちには、どう見ても面白いものではないし、視覚的に大変分かりづらい授業だと感じました」。加えて、一番衝撃を受けたのは、6年生が掛け算の九九をすらすらと言えないという実態である。

ならば教材を工夫し、子供たちが楽しめ、分かる授業をしようと思い立ち、現地の教師も巻き込んで手作り教材の制作を始めたのである。

手作り教材の工夫で「楽しく、分かる授業」を実現

楽しく九九を覚えられるよう、カラフルな九九カードを作成。赤青黄色の紙に1の段から9の段までを印刷したシンプルな手持ちカードだが、子供たちの目には大変目新しいものに映ったらしく強い興味を示し、このカードで九九の暗記に目を輝かせながら取り組んだという。

九九カードで大喜びする子供たち

続く面積の授業でも、手作り教材を作成。新聞紙を使って面積を表し視覚的に理解できるようにしたものだが、これにも子供たちが意欲的に取り組み、大きな手応えを感じるようになった。

また、2年生では、繰り上がりのある足し算、繰り下がりのある引き算の授業で、ボール紙製の四角いブロックが並ぶ教材を作った。このブロックを用いた授業も子供たちには好評だった。

「子供たちが意欲的に取り組むようになった理由は、主に2点あります。一つはこれまで見たこともない教材を使ったことです。現地には算数教材がほとんどないので、教材を作成して使うたびに目を輝かしていました。もう一点は『分からないことが分かっていく』という充実感を持つようになったからでしょう」。石川教諭の授業は、子供たちが理解を深め、算数への興味関心を高めることに成果を上げた。

それは現地の教師たちにも同様だった。「先生方も強い関心を示してくれたので、教材作成の研修会を勤務校で実施しました。3校ある勤務校で学期に1回、年に3回ほど行い、それぞれの学校で半数以上の方が参加してくれました」。教師たちの関心も呼び起こしたのだ。

英語授業を通して、世界の人とつながる喜びを

2年間のJICA海外協力隊の活動を終え、現在は再び小学校で教鞭をとっているが、この体験をどう生かしているか。

日本の小学校では、2020年度から5~6年生で外国語が教科化される。現在、鎌倉市でも2週で2コマの英語の授業を行っているが、石川教諭は語学を学ぶ楽しさを子供たちに伝えている。

「子供たちには『英語はきちんとしゃべらなくてはいけない』という思いが強い。だから、なかなか言葉を発しようとしない子が多いのです。そこで、『怖がらずにしゃべってみよう』『少しでもいいから話してみよう』と強調しています」という。

ホームステイのファミリー

「私はスペイン語を大して話せませんでした。でも、エクアドルの算数授業では、子供たちに一生懸命話し掛け、楽しく授業ができました。ホームステイ先の家族とも積極的に会話して、心が通じました」と語る石川教諭。時にはエクアドルでの活動時の写真を子供たちに見せ、たとえ拙くても意欲的に楽しくコミュニケーションすることで多くの笑顔が生まれたことを示すのだという。「エクアドルで感じた現地の方々の心の広さ、優しさにも触れ、世界の人々とつながる喜びを伝え続けていきたい」と意気込みをみせている。

自信をもって「やり抜く力」の大切さを伝える

それ以外で海外体験の話をするのは、子供たちに「やり抜く力」の大切さを伝える時。「言葉もうまく話せない中で授業を行い、子供たちに学ぶ楽しさを伝えた体験で、私は『やり抜く力』を身に付けました。それが生きていく上でいかに必要かも学びました。『やり抜く力』の大切さについて誰よりも自信をもって伝えられると考えています」。教師として最も重要な素養を身に付けたとの自負がある。

失うものはなし、得るものは本当に大きい

JICA海外協力隊の魅力や意義はどういったものだろう。石川教諭に2年間を振り返り語ってもらった。

石川賢太朗教諭

「JICA海外協力隊ほど、単なる旅行や普通の留学では体験できない生活を送るチャンスはそうそうないはずです」と強調する。一方、JICA海外協力隊の魅力は、「国際協力機構(JICA)に守られた環境下で、安心して現地に飛び込めること、力を付けながら自分ができることを少しずつ進めていけるところです」と指摘する。

JICA海外協力隊への参加を考えている教師たちへのメッセージをお願いすると、「教員としての身分が保有されながらチャレンジできる、この体験で得たものは計り知れません。一方、失ったものは何一つない。年齢や金銭面など考えて躊躇する人もいるでしょうが、豊かな経験で人間的に大きく成長できることは間違いありません。やり抜くことで大きな自信にもつながります」と激励してくれた。

JICA海外協力隊に教師が参加する意義

「開発途上国の人々のために、自分の持っている技術・知識や経験を生かしたい」。このような強い意欲を持つ人を募り、現地の人々と同じ言葉を話し、ともに生活・協働しながら豊かな国づくりに協力するJICA海外協力隊。教育分野での協力が重視されているので、子供に密着した実践的な教育経験や能力を有する現職教員への期待は大きい。

参加した教員は、開発途上国に赴き現地の教育活動に従事し、コミュニケーション能力や異文化理解の能力、問題への対処や概念化能力などを身に付けられる。帰国後、自身の経験を学校現場に還元し、児童生徒へ国際化に必要な素養を広めることで、日本の教育の質の向上にもつながる。これらの経験を持つ教員は、「教員としての資質・能力を高めてきている」だけでなく、「人間的な成長と豊かな経験」を得ていることから、日本の学校現場でも大きな注目を集めている。


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