「食育の時間」

より良い食と生活習慣 科学的に理解
ゲーム形式の交流で自分事の学びに

小・中学校に向けた食育無償教材があるのをご存知だろうか。デジタル教材「食育の時間」は日本マクドナルド(株)がNPO法人企業教育研究会、(株)NHKエデュケーショナルと協同で平成17年に開発した食育教材で10年以上にわたって学校現場で活用されている。同NPO理事長で千葉大学教育学部の藤川大祐教授は、現代の生活環境を踏まえ、子供たちが適切な食や生活習慣を科学的根拠とともに実感的に理解できる教材にしたと強調する。

藤川教授は、「平成17年に成立した食育基本法を契機に、学校でより良い『食育』が実現するのを願って、現場で使いやすい教材を大事にした」と同教材開発の背景を説明する。

さまざまな食品の栄養素、体の基礎代謝、衛生など、幅広い食と生活習慣への基礎的な学びを深められる内容を押さえ、保護者の共働きなどの家庭状況、ファストフードなど多様な食選択が可能なライフスタイルも考慮した。そのため、コンテンツでは日本マクドナルドのリソースも有効活用し、子供たちの実生活で生かせる知識習得ができる内容となっていると特徴をあげる。

教材構成は、子供たちにとって身近な「朝ごはんの大切さ」「栄養素とバランスの良い食事」「手洗いの必要性」など大きく6テーマ。食と正しい生活習慣を関連づけながら「科学的根拠」と合わせ、理解が深まる内容になっている。

例えば、偏食の問題を考える項目では、朝昼晩の献立を設定するゲーム形式の学習を用意。子供たちが選択した献立に応じて栄養素とバランスが表示される。多様な栄養素の働きや不足する栄養素の体への影響も解説。ゲームを通じた確認と吟味で、子供たちがさまざまな栄養素の役割に理解を深められる。日々の食生活を振り返り、栄養バランスの良い食事の意味を実感的に理解できるようにしている。栄養素の説明教材は、学校の授業につなげやすいよう学習指導要領に則った内容を考慮している。

同教授は「コンテンツは、学校の教育課程や学習指導要領の視点を踏まえた内容を盛り込んでいる」と指摘。各項目45分程度の授業で使える流れをモデル指導案として示している。学校の教育目標やねらいに応じ、保健体育や学級活動など、あらゆる場面で有効に生かしてほしいとする。

同教材では、単に、食などへの正確で科学的な知識を示すだけでなく、食の問題行動を重ねるキャラクターが登場し説明や問いを投げかける。クイズ形式の出題もある。それぞれの問いを子どもたちが「自分事」として受け止め、振り返る中で、各自の食習慣や日常生活を考え直し「当事者意識」「内発的動機付け」を深める学習となるのも期待している。

教材を使った授業効果について同教授は、「子供たちが食と生活習慣を見直し、改善するための科学的理解が深まっている。当事者意識を育むコンテンツと多様な問いかけによる学びで、子供たちの長い人生を踏まえたより良い食と生活習慣、行動力が育ちつつある」と喜びを語る。

各学校や子供たちの実態を踏まえ活用
継続的な改善行動や意識の育成にも
食育の時間・授業風景/授業者・古谷さん
食育の時間・授業風景/授業者・古谷さん

同教材の作成に学校教育の立場から関わったのが、現在千葉県富里市教育委員会主幹でNPO法人企業教育研究会の古谷成司さん。当時、同県本埜村立本埜第二小学校教諭としての指導の中で、児童の食と生活習慣を見つめ食育の重要性を実感したと話す。そこで、同教材を生かし食と生活習慣の関連が分かる授業を展開。児童たちに朝食の大切さや健康な体づくりの基盤となる基礎代謝などの科学的理解を深めさせ、長い人生の健康行動につなげたなどの成果をあげる。

クラスには、「肥満」「ダイエットでやせ過ぎ」の児童が少なからず存在したことから同教材を使い「基礎代謝」を学ぶ授業を6年生の学級活動で実施。そこで、人が生きるために必要なエネルギーと基礎代謝量、消費と摂取エネルギーのバランスなどについて理解を深める学習を行った。

一連の学びによって、児童は、食事の摂取エネルギーと消費エネルギーの関係を理解。その上で、必要な食事量なども知った。特に、20歳までの成長期に適正な食事と運動をする重要性も指摘。教材に盛り込まれているスキャモンの発育曲線などを提示し、より深い理解につなげた。

古谷さんは、同授業の結果として「肥満児童が『この授業をうけてこのままの食生活を続けていると健康を損なって死んでしまうかもしれないんだな』とつぶやくなど、この授業が食と生活習慣を大きく見直すきっかけになった」と報告。児童が自分の食と体を見つめ直し、科学的知識を深めながら、具体的な改善行動につなげる学びが進んだ点を喜ぶ。児童が中学校に進んでも、より良い行動を継続している点にも同教材を使った授業の意義を感じた。

また、同教材はこの10年間でも進化を続けていると、教育委員会に入ってからも、教職経験を踏まえて同教材に関わっている古谷さんは語る。子供たちの生活習慣の乱れが社会的に叫ばれたことをうけて「早寝、早起き、朝ごはん」の重要性を学ぶ項目を平成20年に開発、追加。27年にはデジタルブックコンテンツも追加されている。

この項目では、朝食を欠食しがちなキャラクターが登場。朝食を食べない同キャラクターが「ぼんやりしがち」な状態が続く様子を吐露する。学習者にそんな状態になる理由を考えさせる。個々の児童に思い当たる節を意識させながら、朝食と心身の影響について考えを深めていく。大人でも難しい「血糖値」「脳の栄養ブドウ糖」「体温グラフ」を交えながら朝食の大切さを大切さを科学的に理解し、個々の食生活を見直す強いきっかけを生む。

同教材を生かした5年生家庭科では、調理作業と合わせ朝食と心身の影響を学習。おいしい朝食を作り味わいながら、健康への食の影響について考えを深めた。また、朝食を欠食するのは就寝時刻が遅いことにも起因することから、早寝早起きにつながるよう適切な生活リズムの重要性についても理解させることができた。

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