「道徳科」の準備をどう進めるか

【対談】長谷徹 前東京家政学院大学教授×寺崎千秋 教育新聞論説委員

小学校では平成30年度から、中学校では31年度から、「特別の教科 道徳」(道徳科)が全面実施される。これを目前に控えた今年度中には、どのような準備をしておくべきなのか。教科としての授業内容や指導・評価のポイント、教員の意識づくりなどについて、長谷徹前東京家政学院大学教授と元全連小会長の寺崎千秋教育新聞論説委員が対談し、探究した。


年間指導計画に明確に位置づける
◇「特別の教科 道徳」とは◇

寺崎 「特別の教科 道徳」(道徳科)は既に移行措置が始まっており、小学校では30年度から全面実施となります。まずは、教科化の背景や理由を振り返ってみましょう。

元文科省道徳教育の充実に関する懇談会委員、元「心のノート」改善協力者会議協力者
元文科省道徳教育の充実に関する懇談会委員、元「心のノート」改善協力者会議協力者

長谷 改訂のスタートには、滋賀県大津市の中学生がいじめによって自ら命を断ってしまった問題があります。教育再生実行会議などの場でいくつかの柱が出て、その中の1つに道徳教育の充実が挙げられました。25年に文科大臣のもとに道徳教育の充実に関する懇談会が発足し、私も委員の1人として参加しました。「教材がもう少し充実しないと『道徳の時間』は充実しないのでは」との話が出ました。「教材の充実には教科書を出すのがよい」「教科書を出すには、教科にするのはどうか」という経緯です。

「道徳の時間」は学級担任が指導するのが原則で、数値による評価はしないと記されています。これでは教科にできないので、「特別の」と言葉を付けました。教科書を子供たちが手元に置き、それを進めていくのが、これからの道徳教育を充実していく上で大事な要素なのではないでしょうか。

◇授業が変わる◇
(一社)教育調査研究所研究部長、元全連小会長
(一社)教育調査研究所研究部長、元全連小会長

寺崎 教科化によって授業がどう変わるのかが気になります。

長谷 学校での道徳教育は、「特別の教科」である道徳科を要として、全教育活動を通じて行います。この「要」としての、また教育活動全体を通じての位置づけや目標、育成すべき力については、従来の「道徳の時間」と道徳科で、ほとんど変わりありません。ただ、改訂に向けては、読み物教材の登場人物の行動や言葉を通した心情の読み取りに偏った、形式的な指導が多かったのではないかと言われました。自己を見つめるのが基本のはずだったのに、授業の大半を資料の読み取りに終始してしまっている。それを変えていかなければなりません。

寺崎 指導案を作るときは、どのように工夫するとよいでしょうか。

長谷 資料の読み取り時間を半分以内にして、自己を見つめたり考えたりするのに時間を割く必要があります。読み取る時間を少なくするためには、発問を精選しなければなりません。そのためには、教科とした改訂の意味や、道徳の変わらない部分や変えなければいけない部分などの基本を学校全体で共通理解できるよう、研修などに取り組む必要があります。

校長がリーダーシップ発揮し推進
◇道徳教育をつかむ◇

寺崎 校長が率先して学び、教職員に説明し、全員で学習するのが大切だと思います。特にどういう部分を勉強してほしいですか。

長谷 1つは、学校における道徳教育は「特別の教科 道徳」を要として、全教育活動を通じて行う意味をしっかり捉え、学ぶ必要があります。国語の教材や学校行事とのつながりなど、全教育活動で行われる道徳教育と道徳科がどう関わるのかを、年間指導計画を作成するときに記入していきます。

2つ目は教科書です。学校が立てた教育目標や地域の特性に合った重点指導目標が、道徳科の教科書を見たら重点になっていない場合があるかもしれません。その場合、「でも教科書があるから、教科書に沿ってやらなければ」となると、困った事態になります。小・中学校の教科書採択は市区町村レベルで行うので、当然合わないものも出てくるでしょう。解説の中では、教科用図書なので原則として取り扱わなければいけないとされています。ただし、道徳の特質に鑑み、これまで使用してきた地域資料などについては、どんどん使うよう促しています。

ですから、全てを教科書通りにやらなくても、それを基にしながら学校独自の目標に合わせて、道徳科の年間指導計画を作っていく必要があります。学校の主体性はきちんと担保されています。

3つ目は、週1時間、年間35回の授業を行うことです。方針を立て、道徳教育をどう進めていくのか、校長がリーダーシップを発揮してやっていく必要があります。

◇授業内容に工夫を◇

寺崎 大変良い視点からの指摘だと思います。授業の改善・充実については、問題解決的な手法や体験的なものが求められています。学校としてはどういうふうにやっていけばよいでしょうか。

長谷 読み物教材の登場人物とその言動に自我関与させながら自分なりの価値観を捉えていく方法、問題解決的学習、体験学習の3つを並列に捉える場合があります。また自我関与させながら体験を考えさせ、体験しながら問題解決的な学習につなげていくなど、多様な方法を交ぜながら、読む道徳から考える道徳、そして議論する道徳への流れをしっかりやっていくのが大切です。

寺崎 考え、議論するところに目が向きますが、どう捉えていったらよいでしょうか。

長谷 考える道徳は今までもやっていましたが、子供たちが自分の生き方をより考えられるものにして、自分の価値観で議論できる授業にしていく必要があります。問題解決では「このとき主人公はどうしたらいいのでしょうか」ではなく、「あなたが主人公だったらどうしますか」「主人公はこの後、どういう行動をとったでしょうか」、子供が何か言ったときには「なぜそう考えるのか」など、主人公を考えながら自我関与させていくのです。「なぜ」は自分の考えになっていきますから、そのように発問の在り方を少し変化させていく必要があります。

また動作化や劇化、役割演技などは疑似体験なので、体験を生かす際には、子供たちの直接体験を教材にしてよいと思います。生命倫理と科学技術の発達、情報化の進展と人々の福祉など、答えがなかなか出ない、いろいろなものの考え方で問題について議論できるような教材も出てくるのではないでしょうか。論説文的なものが教材になるなど、いろいろな意味で教材を工夫でき、教材の工夫によって指導方法も工夫できると思います。そのときに大事なのは、何を育てたいかを明確に持っていることです。

子供とともに教員も成長する機会
◇道徳科の評価◇

寺崎 道徳科を通して子供を育てていく中で、評価に対してはどのような配慮が必要でしょうか。

長谷 道徳科の評価は数値によりません。子供たちの道徳科の学習状況と道徳性の成長の面、道徳授業に対する評価が必要となります。道徳性の成長では、何時間かの中での子供の経過観察、継続的な観察が必要です。子供たちの成長については、道徳ノートの作成やファイリング、ワークシートに書かせたものを取っておくなどがよいです。これは一担任の努力というより、最終的には校長の指導に関わってくるものだと思います。また授業への評価も取り入れられるようになります。

寺崎 教材研究や教科書研究についてアドバイスを。

長谷 子供をどう育てたいのか教員が確かな指導観を持つことです。そういう目で教材を見ると、どこにポイントを置けばその指導ができるのか、「教科書はここを重要視しているけれど、自分の指導ではこちらの方が」などと見えていきます。

ただ単に教科書をやればいいのではありません。道徳教育を充実させるには、子供をどう育てたいか、自分自身のしっかりした考えを持つのがポイントになってくると思います。

◇子供と学び合う道徳へ◇

寺崎 担任教諭にメッセージを。

長谷 道徳科の授業は子供との対話であり、生き方です。「私はこう思うけれど、あなたはこう思うのだね」と、いろいろな考え方ができます。教えなければならない事項はありますが、子供たちとともに学び合い、自分も成長していくのが道徳教育です。あまり気張らずに、子供と一緒に考えて授業をやってみてはどうでしょうか。

決まりきった形があるわけではないので、ねらいをしっかり押さえて指導していけば、子供は伸びていきますし、学級経営にもしっかりつながっていきます。失敗を気にせずに何でも言える学級、いろいろな友達の意見が受け入れられる人間関係など、学級経営にも十分に役立ち、日頃の学級経営が反映するのが道徳科の授業でもあります。怖がらずにやってみてください。


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