知の粋を結集し海洋教育を推進 公共財の海洋と共生

環境・生命・安全がキーワード
東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター キーパーソンに聞く

わが国の知の粋を結集して、海洋教育を推進――。東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センターでは、海に親しみ、海を知り、海を守り、海を利用する、海洋教育の、小・中・高校への普及充実を推進している。同センターのキーパーソン3人に、中核をなす活動について聞き、海洋教育の現状と展望を探った。

人類は、海から多大な恩恵を受けている。四方を海に囲まれている日本で、その事実は顕著であり、それだからこそ海を知り、共存していく取り組みが必須だ。海洋教育はその軸をなす。海洋基本法、海洋基本計画の趣旨を受け、また次期学習指導要領でも社会科で海洋国家としての学びが示されており、海洋教育の必要性と関心が高まってきている。同センターは東京大学海洋アライアンスの中に設置され、教育学の専門家と海洋学の専門家から成る2つのユニットから構成。海洋教育に関するカリキュラムの研究開発、教員研修、人材育成、授業の支援など多彩な活動に取り組んでいる。

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田中智志センター長(大学院教育学研究科教授)には、海洋教育の中枢となる考えと目指すものを聞いた。グローバルで教科横断的な考えと取り組みの重要性を強調した。

――センターが打ち出す海洋教育の概要とポイントは。
田中センター長
田中センター長

人類は海洋から大きな恩恵を受けている一方で、海洋環境に少なからぬ影響を与えている。海洋と人との共生は重要な課題だ。当センターの海洋教育は、海洋を「公共財」ないし「公共善」としてとらえ、「環境」「生命」「安全」の3つの概念をキーワードとしてかかげている。自然環境としての海は、われわれ人間だけのものではない。生物全体を取り巻く環境としての海を保全すると同時に、海の生物との共生を考え、生物と人間の、生命としてのつながりを大事にしようということ。このグローバルな時代において、海を占有・収奪しないのは大原則である。

そして、安全の面では、日本はとりわけ津波の脅威にさらされてきた。その経験を忘れずに伝え、防災・減災に生かすことが求められている。

――どのような海洋教育で、どのような成果を目指すのか。

海洋教育は、一つの教育のジャンルではなく、海を中心にしながら、道徳や地理など、いわゆる教科横断の目でとらえることが大事。私たちは、さまざまな教科・領域に関連する要素を見いだしつつ、海について広く深く教えていくことを提案している。日本人にとっては、海洋、海はまさに一つの超越性として、われわれを支えるもの。海という存在を考えるとき、海洋の知は単なるパッケージ化された知識ではなく、自分自身をよりよく生きる方向に変えていける大切なきっかけになるだろう。

海洋教育を通して、海洋と人間の関係について、海洋環境の保全を図りながら、国際的な理解に立ち、平和的で持続可能な海洋の開発と利用をする知識や技能、思考力、判断力、表現力をもつ人材の育成を目指している。

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日置光久センター特任教授は、文科省の教科調査官、視学官の経歴を持ち、学習指導要領の改訂にも携わってきている。学校教育現場に根ざした取り組みが重要だとして、全国の教員、教委と連携した活動を展開している。

――海洋教育で基盤としているのは。
日置センター特任教授
日置センター特任教授

当センターでは、小・中・高校を対象に海洋教育の普及充実を図るため、学校教育に基盤を置き、授業に関連づけた形で海洋教育を行うスクールベースドカリキュラムの開発を進めている。教科の学習、総合的な学習、あるいは教科外の学習などに取り入れていくアプローチである。今後は幼稚園や特別支援教育にも広げたい。

ねらっているのは、あくまでも子供中心のチャイルドセンタードカリキュラムである。小学校の場合、低学年、中学年、高学年で興味・関心の状況や認識の発達の段階が異なるので、それに沿って心理学的、あるいは教育学的なアプローチをしっかり進めながら、海洋教育のカリキュラムづくりを提案している。

――どのような広がりが生まれているか。

全国の教員、教委と連携し、情報交換しながら、共にカリキュラム開発を進めることが必要。その考えに基づき、仲間づくりから始め、各地の小学校、中学校、高校や教委、社会教育施設などと協定を結び、取り組みの拠点としている。現在全国に26カ所の拠点がある。

海洋教育推進のために複数の発表、研究交流の場を設けている。一つは、7月22日に東京大学福武ホールで開催する「東京大学海洋教育フォーラム」である。また毎年度末には、「全国海洋教育サミット」を開催している。さらに、昨年からは、子供が中心となって運営し発表する「海洋教育こどもサミット」もスタートした。また、新しい海の学びに取り組もうとしている学校を応援する、「海洋教育パイオニアスクールプログラム」もスタートした。これは、海に関連する学習の実践校を対象に活動資金を支援する助成金制度。地域展開部門と単元開発部門の2部門で募集している。さらに、今年から教員研修プログラムを開始する予定で準備しているところである。これらは、日本財団、(公財)笹川平和財団海洋政策研究所との共同事業だ。

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及川幸彦センター主幹研究員は、学校の管理職、教委の指導主事を経験している。人材育成、特にリーダーの育成の重要性を強調しており、教員研修プログラムの開発と実践に注力している。

――教員研修プログラムの目的と特徴は。
及川センター主幹研究員
及川センター主幹研究員

海洋教育の持続発展的な推進と全国の各地域への普及・拡大を図るためには、海洋教育を中核的にデザインし、コーディネートできるリーダー的な教職員の育成が課題である。今年度は初の取り組みとして「海洋教育 教員研修プログラム」の夏季集中講座を8月はじめに2泊3日で実施する。

講義や座学は最小限にして、フィールドワークを取り入れた参加型の研修であるのが特長。海洋教育のカリキュラムマネジメントとしても、新学習指導要領を踏まえた教育実践にも寄与するものと考える。

受講後、参加者には各学校、各地域での実践に生かしてもらいたい。その実践を報告してもらいながら情報共有し、ブラッシュアップするフォローアップ研修を2回予定している。一度限りの研修ではなく、連続した研修プログラムの実践成果は、来年2月に開かれる「全国海洋教育サミット」で報告する予定である。

――今後の広がりについては。

当センターでは、これまでに教育現場への支援を行い、すでに各地域、拠点では、意欲的な取り組みが始まっている。また岩手県洋野町のように、町の教育の1つの柱として海洋教育に取り組むところも出ている。

海洋教育に取り組むのは、海辺の地域だけではない。山間部の自治体も拠点となっている。森林の土壌に含まれるミネラルが溶け出した雨水や雪解け水が、川の源流から海へと流れ込み海の豊かな生態系を育む、森林と海との循環の学びを深めている。これらの取り組みが全国に広がるのを目指していく。


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