紙の教科書見ず授業に集中 さいたま市立尾間木小学校

「デジタル」で主体的学び実現 イメージで直感的理解促す

教室に教員の声が響いた。児童たちは背筋をピンと伸ばし、顔を上げた。視線を向けた先は、黒板ではなく大画面モニターだった――。児童に少しでも質の高い授業を届けようと、デジタル教科書を生かした学びを実践している小学校を訪れ、その取り組みを取材した。


モニターの前に立ち、答えを説明する児童
モニターの前に立ち、答えを説明する児童

さいたま市立尾間木小学校(丸山雅夫校長、児童数982人)の青木健教諭は今回、算数の指導用デジタル教科書(東京書籍(株))を基に授業する。授業時間45分で担任クラスの5年生37人に「分数を用いた時間の表し方」を理解させるのが目標だ。

授業が始まる前に児童たちの机の上に目をやると、紙の教科書は置かれていなかった。児童たちは筆記用具とノートだけ用意し、青木教諭の話に耳を傾けた。

青木教諭はまず黒板に「45分は何時間ですか」と書き出した。教室内に「え?何時間?」と声が上がると、青木教諭はすかさず「何分が1時間?」と投げ掛け、児童たちから「60分!」と引き出した。青木教諭はこの場面でデジタル教科書を操作し、目盛りが1分ごとに刻まれた時計の図を50インチのモニターに映し出した。

どうすれば分数を使って時間を表せるか。青木教諭は時計の図が載った紙を配布して考えさせた。児童たちはおのおの、45分が1時間の何等分に当たるかを考え、赤鉛筆で図に答えを書き込んでいった。要領を得た児童は即座に答えを書き、答えが分からない児童は青木教諭が紙で用意した別の教材からヒントを得て考えた。

青木教諭は紙を配布して10分ほどたってから答えを求めた。半数近くが手を挙げ、指名された児童はモニターの前に立ち、答えを説明し始めた。それに合わせて青木教諭がデジタル教科書を操作して図を変化させ、45分が1時間の何等分に当たるかを全員に示した。

モニターに注がれた児童たちの視線は、黒板で要点を説明する青木教諭に時折移りながらも、なお教室の前方に集中していた。机に向かって顔を下げている児童は誰一人としていなかった。

青木教諭は現在12年目。教育学部で数学を専攻したこともあり、デジタル教科書を使って、子供たちに算数の楽しさを伝えたいと考えていた。板書計画は当然のこと、教える段階ごとに何分かかるか見積もった上で、児童たちの答えや反応を予測して図を複数パターン取り揃え、準備に万全を期して授業に臨んだ。

青木教諭は、児童に自力で考えさせる際には、算数の授業では答えやヒントが書かれている紙の教科書を使わない場面がある。考えることなく答えを出せるからだ。紙の教科書だと机に向かって学習するためか、児童が下を向きがちにもなる。

翻って今回使われたデジタル教科書の場合、教え方に応じて表示する内容を決められる。問題と図だけを見せ、答えを考えさせることで、児童自身が主体的に学ぶきっかけをつくれる。図やイラストで直感的に伝えられる利点から、授業科目が得意ではないとみられる児童の間でも、積極的に取り組む姿が確認できるという。青木教諭は「動きがある教材だからか、リアクションがいい」と手応えを口にした。

一方で、デジタル教科書特有の悩みとして、(1)表示に時間がかかること(2)時々フリーズすること――を挙げた。青木教諭は少し苦笑しつつ、「表示時間を見込んで授業をつくる必要があり、フリーズすると臨機応変に対応するしかない」と話す。また、指導する際に「表示する内容やタイミングを選べるので、授業スタイルに合った使い方ができるのでは」と語った。

同校でデジタル教科書が使えるノートパソコンは、各学年に1台ずつ設置されている。コンピュータ室には生徒用として40台のタブレット端末が用意され、別の教室へ持ち出してもネット接続できるようになっている。丸山校長は「スマートフォンが当たり前の今、子供たちにとって当たり前のものを当たり前に使える環境を整えなくてはならない」と話した。

丸山校長は、マルチメディア教育が始まった当初から「教育の情報化」の進展を現場で見てきた。来年度には定年を迎え、同校で教員生活を締めくくる。丸山校長にデジタル教科書の可能性を聞くと、「子供たちの視聴覚に訴えかければ、普通では体験できないものだって疑似体験させられる。デジタル教科書を活用すれば、もっといい授業ができるはず」と力強い言葉が返ってきた。


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