インタビュー【教材整備特集】新学習指導要領の円滑な実施に向けて 教材整備のポイント

清重隆信文科省大臣官房会計課地方財政室長に聞く
ホワイトボードを見せながら説明する清重室長
ホワイトボードを見せながら説明する清重室長

来年度から小学校で新学習指導要領の先行実施が始まる。外国語や道徳をはじめ、「主体的・対話的で深い学び」の授業を実現するためには、実験器具やICT機器といった教材整備のアップデートも欠かせない。清重隆信文科省大臣官房会計課地方財政室長に、「義務教育諸学校における新たな教材整備計画」の今後の見通しや、学校や教委で教材整備を円滑に進めるためのポイントを聞いた。

進む学校のICT化
――「義務教育諸学校における新たな教材整備計画」の現状は。

10年ごとの学習指導要領の改訂に合わせて整備基準を改定しており、現行の学習指導要領でも、各教委、各学校で教材を準備する際の参考資料として、2011年に「教材整備指針」を定めた。指針では、教科ごとに使うものから教科横断で使用するものまで、例えば小学校の外国語活動で使うフラッシュカードなどのカード教材は「児童4人当たり1程度」というように、整備の目安を例示している。

この指針に基づいて、地方財政措置がなされている。かつては、教材整備費の半分程度を国庫負担して、残りを交付税算入していたが、現在は一般財源化している。現行の学習指導要領を踏まえ、12年度から21年度まで「義務教育諸学校における新たな教材整備計画」が実施されており、10年間で総額8千億円を投じる。単年度措置額(普通交付税)としては、小学校で約500億円、中学校で約260億円、特別支援学校で約40億円、合計約800億円となる。その主な積算内容としては、外国語活動(小学校)や武道の必修化(中学校)、和楽器の整備(中学校)に必要な経費をはじめ、電子黒板や地上デジタルテレビの導入、特別支援教育の指導に必要な経費などが盛り込まれている。

新学習指導要領も小学校では来年度から先行実施、20年度から全面実施となる。この整備計画についても、指導要領の内容を踏まえ、見直しを検討する必要があるだろう。

――次期学習指導要領に向けて、どのような教材整備を進めるべきか。

次期指導要領では、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)による授業改善がうたわれている。従って、その授業の実現に必要な備品、例えばグループ学習などで使うコンパクトなホワイトボードといった、汎用性の高いものについてはニーズが高まる可能性がある。

外国語や道徳が教科化され、教科書が使われるようになるが、現行の学習指導要領でも、領域としての道徳や外国語活動として既に位置付けられていたので、大幅な変更はないのではと考えている。

むしろ、ICT機器の整備をどのように進めていくべきかが課題になるだろう。ICTに関しては、14年度から今年度まで「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画」を実施し、年間で約1678億円の地方財政措置が講じられてきた。来年度から整備費目などを見直した新たな計画をスタートさせる。年間で約1801億円が地方財政措置される予定だ。学校における働き方改革では、統合型校務支援システムの導入も対応策の一つとして挙げられている。こうした動きと関連して、学校のICT化が今後一層進んでいくことを期待している。

文科省では、今国会に学校教育法の改正案を提出し、デジタル教科書が教育課程の一部において選択的に利用可能になる。今回の制度改正で、デジタル教科書の利用が学校現場で広がる可能性はある。

しかし、ソフトがあってもハードがなければ使いたくても使えない。現在進めている前述のICTの整備計画では、1日に1回程度タブレット端末を使えるように、3クラスに1セット(40台)の割合で整備を進めている。1日に1回使うかどうかというタブレット端末に、全ての教科のデジタル教科書を入れるのは現実的ではない。デジタル教科書の導入については、保護者の理解を得られるかどうかも重要な要素だ。またこれらは、どのように費用負担をするかにもリンクする課題だ。

一方で、視覚障害や肢体不自由の児童生徒にとって、従来の紙の教科書に比べてデジタル教科書のメリットは大きい。デジタル教科書やタブレット端末は、まずは特別支援学校から普及が進むのではないかと考えている。

指針を活用し、教育の環境整備を
――各学校や自治体で教材整備を進める上でのポイントは。

教材整備指針は、ミニマムスタンダードというよりは、最大公約数というイメージで捉えた方が実態に即していると思う。各学校の状況や教員の授業実践のスタイルによって、その教材の使用頻度は異なるので、それぞれの教育活動に合わせて充実を図っていただきたい。

必要な教材を整備・充実させるためには、それぞれの学校や自治体の教委が、教材の整備状況を把握しておく必要がある。日本教材備品協会(JEMA)が実施した「学校での教材備品の整備に関する調査(16年度)」をみると、「教材の現有数を把握している」と答えた小・中学校は約8割に上るが、「教材整備指針の目安数量に対して充足状況を把握している」と答えた割合は約2割程度にとどまっている。つまり、教材の現有数はおおむね把握しているが、教材整備指針と照らし合わせて過不足があるかという視点は、あまり現場で意識されていないと言える。

また、「教材整備指針を知っている/おおよその内容を知っている」と答えた小・中学校は半分程度に過ぎず、教材整備指針に基づいて教委などに予算要求をしている小・中学校の割合も、約50%にとどまっており、教材整備指針の認知度とリンクしているようにも思える。「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の改正で、首長と教委が協議・調整する教育総合会議が設置されるようになった。こうした場を活用し、教材整備をはじめとした教育環境の充実について、首長に必要性を理解してもらうことも必要だ。

各学校で教材を整備する際には、教材整備指針を参考にしていただきたい。

ただし、そこでは教材整備指針ありきではなく、その教材を導入することによって、どのような授業を実現するか、どのような教育効果が期待できるかを考えた上で整備していただきたい。整備しても埃を被ったままでは意味がない。特に、少子高齢化を迎える中で、限られた地方財源から教育に投資しようという機運をつくるためには、首長や地域住民の理解を得ていく必要があるだろう。

――自治体の教委や学校現場に向けてメッセージを。

少し気になっているのは、子供の安全に直結する教材整備の状況だ。前述のJEMAの調査で、跳び箱の整備状況について聞いていた。その結果をみると、跳び箱の購入時期が「20~30年以内」「30年以上前」というところにボリュームゾーンがあるのが分かる。これは一例だが、児童生徒が直接に身を委ねるような教材・教具は、事故につながる可能性がある。これらの備品については、学校でも注意を払っているとは思うものの、定期的に更新しなくて大丈夫なのだろうか。少々ものは古いが我慢して使っている、というのとは別の次元で、リスクヘッジの観点からも、十分な配慮が必要ではないかと感じた。児童生徒に何かあってからでは遅い。

新学習指導要領の全面実施に向けて、各教委、各学校で準備を進めていると思う。新学習指導要領のねらいや方向性を踏まえて、教育環境でも、新学習指導要領が円滑に実施できるよう、整備に努めていただきたい。


 

参考資料
参考資料:グラフ