プログラミング教育必修化まであと2年 準備フェーズの取り組みは

安彦広斉情報教育振興室長に聞く

「教師の指導力向上を図る研修教材を作成する」と話す安彦室長
「教師の指導力向上を図る研修教材を作成する」と話す安彦室長

小学校におけるプログラミング教育必修化まであと2年――。学校現場での情報教育の重要性が一層高まり、環境整備などの「準備」フェーズに入った今、その中心的な役割を担う文科省生涯学習政策局の安彦広斉情報教育課情報教育振興室長に、教師の指導力向上や教育のICT化に向けた取り組みの進展を聞いた。

■18年度は教師の研修支援を実施
――新学習指導要領への対応に関連した、今年度のICT教育の取り組みは。

小・中・高の新学習指導要領ではいずれも、情報活用能力の育成が掲げられている。小学校でのプログラミング教育の必修化を受け、今年度はその支援事業に取り組んでいきたい。3月には、「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」を作成した。必修化を前に、各学校に指導例を示すのと同時に、実践事例を作っていきながら普及を図る必要もある。特に大事なポイントは、さまざまな教科とのマッチングだ。手引でも今後、無理なく、かつ教科の学びを実現した上で、プログラミング的思考も育む相乗効果を生む事例を示していきたい。

――プログラミング教材の開発は。

20年度から全国の小学校でプログラミング教育を円滑にスタートさせるために、逆算して考えると、19年度までには、具体的にどの単元でどう取り組むのか決めておかねばならない。教材も用意し、プログラミングの授業を先行実施していたり、全ての教師が一度は模擬授業を実施していたりする必要がある。18年度には、手引を基に、各学校での研修に活用するeラーニング教材を作成する。同時に都道府県教委らと連携し、各市町村の研修リーダーの育成を支援するセミナーなどを通じて、全ての市町村教委で一度は模擬授業を実施し、必要な教材やICT環境整備の予算確保を含む準備を進められるようにする。

また、文科省が中心となって推進している「未来の学びコンソーシアム」でも、実践事例など情報発信をしていく。学校での活用を考えたときに、さまざまな教材の情報をコンソーシアムの中で流通させ、うまくマッチングを支援できればと思っている。

手引では、小学校のプログラミングに関する学習活動の分類をA~Fの6段階とした。

例えばA分類は、学習指導要領に例示された算数、理科、総合的な学習の時間の単元などで実施するもので、B分類は各教科の内容を指導する中で実施するものとした。C分類は、国語で習った単元の学習を活用しながら、発展的にプログラミングに関する学習を行うなど、各学校の裁量により、創意工夫を生かして取り組めるものとした。このように分類することで、現在、実施に向けて検討している取り組みがどの分類に該当するかが明確になる。これからの時代を生きるために必要な子供たちの情報活用能力を積極的に育成していく上で、学校全体でどのようなプログラミング教育を展開していくのか、議論がしやすくなる。

また、D~F分類では、プログラミングが楽しく、もっとやってみたいという子供に向けた活動が考えられる。企業のIT人材や教師を目指す学生、ITが得意な子供が「教師役」をやってもいいだろう。学校教育では、そのベーシックなスキルや考え方を身に付ける場として、裾野を広げる役割が期待されている。より高度で専門的な内容に関しては、学校の外で持続的に展開されていくのが理想的だ。総務省や経産省とも連携しながら盛り上げ、日本で求められている高度IT人材の育成にもつなげたい。

小学校のプログラミングの授業は「楽しさや面白さ、達成感を味わう」ことが重要であると手引でも示している。プログラミングやコンピューターを嫌いにならないように、興味を持って意欲的に取り組んでほしい。プログラミングは、難しい教科の内容も楽しみながら乗り越えていくためのツールとしても、とても魅力的だ。

――中学や高校は。

中学校では、技術・家庭科の技術分野におけるプログラミングに関する内容を充実し、これまでの「計測・制御のプログラミング」に加え、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」について学ぶこととしている。これは、生活や社会の中から見いだした問題を、情報通信ネットワークを利用した双方向性を持つコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して、情報の技術の見方・考え方を働かせて、問題を見つけ出して課題を設定し、解決する力を育成するもの。同時に、情報通信ネットワークの構成と、情報を利用するための基本的な仕組みを理解させ、安全・適切なプログラムの制作、動作の確認およびデバッグができるようにすることを狙いとしている。

高校の新学習指導要領も公示した。高校の情報科では、これまで「社会と情報」と「情報の科学」のいずれかを選択履修することにしていたが、実際にプログラミングを学ぶ「情報の科学」は、2割程度しか履修されておらず、8割程度の生徒は、高校でプログラミングを学ばずに卒業していた。新学習指導要領では、全ての生徒が必ず履修する科目「情報Ⅰ」を新設した。全ての生徒が、プログラミングのほか、情報セキュリティーを含むネットワークやデータベースの基礎を学ぶ。選択科目である「情報Ⅱ」では、プログラミングについてさらに発展的に学ぶ。プログラミングだけでなく、データサイエンスやサイバーセキュリティーといった新しい要素も加わる。これから教えなければならない、新たに加わる部分については、教師の指導力向上を図るための研修教材を作成する。夏には学習指導要領の解説を公表する予定であり、それも踏まえ、研修教材の作成に着手する予定だ。

現状では、情報の免許状を持っていない教師が、免許外教科担任として情報を教えている場合もあるが、今後は免許法認定講習を受けて免許状を取得してもらったり、情報の免許状を持った教師を採用したりする取り組みを進めてもらうような条件整備も大事だ。

学校のICT環境の整備方針で22年度までに目標とされている水準(文科省資料を基に作成)
学校のICT環境の整備方針で22年度までに目標とされている水準(文科省資料を基に作成)
■日常的にICTを活用する環境を

――タッチタイピングなど、ICTの基本的な操作のスキルをどう指導するか。

小学3年生の国語でローマ字を習うが、それに関連させて、「総合的な学習の時間」の探究的な学習の過程でタッチタイピングを学ぶのが基本になると思う。いかに日常的に使う環境を整えるかが一番大事だ。学習活動を円滑に進めるために必要な程度の速さでタイピングできるようにするには、それを確実に身に付けさせる学習活動を、各教科の特質に応じて計画的に実施することが重要である。例えば、▽コンピューターを活用して、文章を編集したり図表を作成▽インターネットから情報を収集して調べ比較する▽調べたものをまとめたり発表したりする――学習活動である。授業の終わりに子供たちに学習内容の振り返りや授業評価を入力させる場面を日常化することも有効だ。タイピングは、子供が自分自身の思考を邪魔しない程度に文字が打てるなど、学習活動に支障のない程度に基本的な操作を身に付けていくことが重要である。

――ICT化に向けた環境整備は。

新学習指導要領の中で、情報活用能力の育成が明記され、ICT環境の整備も盛り込まれたのが、かなり大きなポイントだと考えている。国においては、新学習指導要領の実施を見据え、学校で最低限必要とされ、かつ優先的に整備すべきICT環境についての整備方針を策定し、昨年12月に全ての教育委員会に通知した。その整備方針を踏まえた「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」()に基づき、統合型校務支援システムなどの新たな要素も加え、今年度から22年度まで、単年度で1678億円から1805億円に拡充した地方財政措置として財源を保障している。ただ、さまざまな事情により、段階的に進めていく自治体もあるだろうし、一斉に整備していく自治体もあるだろう。指定避難所の学校等に向けた公衆無線LAN環境整備支援事業(総務省)の活用や、タブレット型PCなどと一緒に教室間を移動して利用できる無線LANのアクセスポイントを導入し、当面はそれで対応しながら、段階的に整備していく場合もあるだろう。各自治体においては、20年度からの新学習指導要領の全面実施に向け、当該整備方針を踏まえ、学校のICT環境整備に係る経費を予算化し、整備を進めていくことは喫緊の課題である。地方財政措置がなされていることを念頭に置いて、積極的に進めてほしい。

――統合型校務支援システムが学校にもたらす可能性や期待は。

教師の働き方改革に当たり、ICTの活用による業務改善が期待できる。それ以外でも、子供たちがコンピューターを活用した際の学習の履歴と、教師が校務事務で入力したデータを連携・活用して、学びを可視化すれば、教師による学習指導や生徒指導の質の向上、学級・学校運営の改善につながる。子供の学ぶ意欲や予習復習にもつながるため、統合型校務支援システムは子供にも教師にも良い循環を生む魅力的なツールだ。

――デジタル教科書の併用と学校現場への普及は。

実際に今でも、指導者用デジタル教科書は、かなり普及している。教師が指導する上で、いろいろな教材を手作りしていたことを思えば、圧倒的に楽になるという意味でも、ものすごく便利なツールとして捉えられている。学習者用デジタル教科書については、拡大・ハイライト機能、動画、参考資料、音声読み上げ等を活用することにより、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害などによる学習上の困難の低減につながる。児童生徒の学びが質・量両面で向上できると期待される。

――読者へメッセージを。

これからは、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」の実現が求められる。「問題を見いだす」のは、クリエーティブな活動だ。「問題を解決する」のは、国際調査の結果を見ても日本の子供たちが得意だと分かるが、そもそも問題を見つけられなければ、解決に至らない。プログラミング的思考によって育まれた見方・考え方は、これまでにない視点から問題を見いだし、問題を解決する重要なツールを新たに手に入れることでもある。小学校段階では、プログラミングの体験を通じて育み、中学校や高校段階では、それを次第に情報の科学的な理解とともに発展させていく。こうして、将来の予測が難しい社会においても、未来をひらいていく子供たちが、情報を主体的に捉えながら、何が重要かを主体的に考え、見いだした情報を活用しながら他者と協働し、新たな価値の創造に挑んでいくことにつながっていく。

言葉ではなかなか実感することが難しいプログラミング教育の狙いがどういうものかを知ってもらうには、「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」も読んでいただき、教師自らがプログラミング教育を体験するのが一番の近道だ。イメージだけでは難しいと思っているうちは、不安感だけが募ってしまう。学習指導要領で必修になったのは、これからの子供たちに必要だからだが、現在の大人にも必要な力とも言える。まず教師が体験した上で、子供たちに教えるステップを踏んでほしい。教育のプロである教師が実際に経験してみると、子供たちが身に付けるべきことは何なのか、文字で書いてあること以上に本質を実感できるはずだ。文科省としても、そういった機会を持ってもらえるよう、支援していきたい。


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