【座談会】 献立は教材、学校給食は教育活動 教員の「伝え方」で子供の食べ方は変わる

出席者
文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課学校給食調査官
齊藤 るみ氏
桐生大学医療保健学部栄養学科教授
宮原 公子氏
新潟市立関屋中学校栄養教諭
島津 美和氏
日本食品洗浄剤衛生協会/東京サラヤ株式会社代表取締役会長
更家 悠介氏
一般社団法人日本厨房工業会/株式会社中西製作所営業企画部営業企画課課長
古水 豪氏

 

「おいしい給食実現のための方策」をテーマに、学校給食関係者が集まって座談会を行った。

(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)

■学校給食は全体で議論する時代に

小木曽 メインテーマの「おいしい給食の実現」に触れる前に、給食の重要課題である衛生管理面を踏まえた、学校給食の現状を教えてください。

齊藤 るみ 氏

齊藤 ここ最近はノロウイルスを原因とする食中毒の発生が多い傾向にあります。異物混入の事故も発生しています。引き続き衛生管理を徹底していくことと、事故をなくすための対策が必要です。

調理業務委託などの外部委託が増えてきている状況です。委託を行う場合であっても、学校給食を実施する学校の設置者は、委託先の選定も含め、どのように給食を運営するのか、学校給食を通じて児童生徒にどのような教育を行っていくのか、しっかり認識した上で提供していく必要があります。

更家 そういうお話を聞くと、学校給食は設備単体というよりは、サプライチェーン全体で議論する時代になってきたと痛感します。人手が足りないのであればセントラル化するとか、素材加工の一部を外部に委託するとか。

衛生面でも、もっとリスクアセスメントして、過去の事例と照らし合わせ、根源を排除しなくてはならない。コントロールポイントを見つけるためのデータを集める必要があります。

今国会では、食品の中に潜む危害要因を科学的に分析し、除去する工程を常時管理し記録する方法「HACCP(ハサップ)の義務化」が通過しました。将来的に学校給食にも波及してくるでしょう。私ども日本食品洗浄剤衛生協会としても、これが実現したら学校給食でどう機能させていくか考えているところです。

島津 私はこれまで民間委託型や自校直営型など、いろいろな形態の現場を栄養教諭として経験してきました。現在は単独の直営校で勤務しています。衛生に関して思うのは、直営・委託関係なく、そこで働く人が学校給食衛生管理基準を理解したうえで、その施設ごとの基準に沿って作業を理解し進めていくことが重要だということです。

例えば、なぜその作業が必要かをしっかり説明した上で指示を出す。「うちは古い施設で、足りない設備もあります。本当はこんな目的があって、本来はこういうやり方が推奨されていますが、うちの施設にはそれがないのでこうします」と必ず説明します。本来あるべき姿を調理員が理解した上だと、意識が変わってくると思います。

■技術革新を現場に持ち込むことがカギ

小木曽 衛生面に留意しながら、おいしい給食を提供しなければなりません。

更家 味がおいしくないと、逆教育的要素になります。おいしさに関しては、設備や機器の技術進展が大きく寄与できます。

例えば当社では、急速新冷凍法「ラピッドフリーザー」をやっています。食材の品質低下を最小限に抑えられ、冷凍による味の低下を防ぎます。そういう新しい技術をどんどん自社にいれて、学校給食においしさと経済性の追求をしていきたい。

予算の問題はありますが、技術革新をちゃんと調理現場に持ち込めるかがカギだと思います。そのためにわれわれも自治体とお話しながら、新しい技術や設備の導入を進めていかなければなりません。

島津 美和 氏

島津 栄養教諭に求められる資質でもありますが、いかに献立のイメージを作業前に調理従事者に伝えるかを、現場では大切にしています。例えばサラダのきゅうりと、即席漬けのきゅうりでは、切り方も厚みも変わってきます。サラダのほうが柔らかく、即席漬けは歯ごたえを残した食感に仕上げなくてはならないので、もちろん加熱時間も違います。

加えて献立を教材として使い、子供たちに学びを与えることも常に心にとどめています。その一環で地場産物を活用したり、郷土料理を取り入れたりしています。この春に卒業した生徒が「今まで当たり前だと思っていたけれど、恵まれた環境だったことが最近分かりました」と言って卒業していきました。すぐにではなくても、大人になってからいつか思い出してくれるような給食ができればと思い、日々取り組んでいます。

古水 いま学校給食は地産地消がキーワードですよね。その中でわれわれ厨房(ちゅうぼう)機器メーカーは、いかに新鮮な状態で、食材本来の味を生かし、おいしく食べてもらえるかに寄与しなければいけません。例えば下処理室では地場産の野菜をなるべく活用できるように大きくシンクを取ったり、泥つきの野菜を衛生的に次の処理に移せたりなど、そういったレイアウトも提案しています。

実は厨房(ちゅうぼう)機器メーカーとしては、衛生とおいしさ、この二つは両立しないかもしれないという懸念もあるのです。加熱するにしても、安全面を重視して、衛生管理基準で決められている時間よりも長く加熱してしまうという現場の声を耳にしたことがあります。そして、それは仕方がないとも分かっています。だからわれわれは、それでもおいしく届けられる機器を開発したいと努力しています。

齊藤 おいしく仕上げるためには加熱温度や食材を入れるタイミング、加熱時間の管理など基本的なことをきちんと行っていく必要があります。その調理場の施設・設備に合った方法をマニュアル化していくこともよいと思います。

衛生管理しながら一層おいしく仕上げるための調理機器等を開発していただいており、現場はその機器をどの工程で、どのように活用すればよりおいしく調理できるのか研究する。そのような工夫を行っていただきたいと思っています。

宮原 公子 氏

宮原 学校給食のおいしさの基準は、とても難しいと思います。地産地消もそうですし、栄養面や食育など教材としての質も保たなくてはならない。味のおいしさと同時に、子供たちに何か伝えられる料理を提供する必要があります。では彼らが満足する給食は、どの指標で評価したらよいのか。それは栄養教諭のスキルに左右されます。

例えば旬の物、今だったらアスパラを使ってあえ物にする。まず塩ゆでにするにしても、お釜を使うかコンベクションを使うかで、出来上がりの量と味わいがずいぶん違ってきます。そこで量の満足度か味の満足度か、子供たちの個々の好みも踏まえて選択していきます。

古水 そうですね。最近のレイアウトではあえ物の加熱用に、スチームコンベクションオーブンと専用の回転釜二つを置いて、食材によって使い分けるというのが主流になってきています。

■大磯の給食は実はまずくなかった?

小木曽 先ほど「おいしさ」を判断する基準が難しいという意見がありましたが、先日、神奈川県大磯町の中学校で提供されていた給食が「まずい」と話題になりました。異物混入など衛生管理面で問題があったことはたしかですが、献立・栄養面だけに着目すると、本当にまずかったのでしょうか。

宮原 実は私はあの給食を見て、献立や栄養バランスの面でも悪くないと思いました。問題のない給食で、決してまずいものとは思いませんでした。

小木曽 ではなぜ、「まずい」の連鎖が起きたのでしょう。

宮原 私も中学校の現場が長かったので分かりますが、中学生くらいですと、まずくないのに関わらず、1人が「こんなにまずいもの食べられない」と言うと、みんなが「食べない」「食べない」と広がっていきます。

島津 そして報道でも、ああいう取り上げられ方をしてしまう。本校の調理員も、同じ給食を作る者として「悲しい」という思いでニュースをみていました。

小木曽 他の学校でも起こり得るのではないですか。

宮原 起こり得ます。ですから大磯の教訓から改善すべきは、生徒への伝え方なのです。「この食事から、しっかり子供たちに何を伝えるか」が重要です。あの給食も伝え方をマネジメントする必要があったのですが、それをする役割の人がいなかった。それは栄養教諭をはじめとする教員の役割で、教育が入ってくることによって、給食が教材になるのです。

齊藤 この件に限らず、伝えるということは大切です。単独調理場でも共同調理場でも、給食を喫食する際の、学級担任等の声がけは児童生徒に大きく影響を与えます。例えば子供が苦手なものでも、意図的に取り入れる食材や献立があります。そのときは学級担任等の声がけや指導がとても大切になります。

更家 悠介 氏

更家 おいしさの基準は個人でそれぞれ違うので、それぞれの子供さんへの声かけや指導をぜひ教育的な一環としてご対応いただきたいと思います。

あのケースは聞き取りをしながら、おいしくない原因を調査して、情報を集めて精査していく必要があったのかもしれません。生徒が「まずい」と言っても、「どこがまずいの?」と聞いて、「でもこの食材にはこんな栄養素があって」と説明して、改良するヒントにするなど、一歩進んだ落ち着いた取り組みがあれば、あそこまで報道も加熱しなかったのかもとは思います。

■府中市では2万2千食を手作りで提供

小木曽 ここまでいろいろな意見が出ましたが、厨房機器を作る側として、古水さんはどう思われましたか。

古水 東京都府中市の給食センターが2万2千食にも関わらず、手作りにしようと取り組んでいます。学校給食は当日入荷・当日調理が当たり前となっているなかで、2万食を超える量を当日の朝、搬入するだけでも大変です。ですが現場の栄養教諭や調理員の方々、もちろん設備面ではわれわれもカバーして、関わる大人の思いがあれば、おいしい学校給食は食数に係らず可能なんじゃないかなと希望が持てました。

小木曽 そこまで大量に作るとなると、それまで以上に機器の技術が重要になってきますね。

古水 豪 氏

古水 正しい使い方を現場にもっと広めていく必要があると改めて感じています。調理する個人の力量に頼るところもあると思うのですが、厨房機器は正しく使えば誰が使っても同じクオリティーを担保できるものです。現場の方々には、われわれの発信する正しい使い方や清掃方法、衛生指導をとことん活用してほしいです。もちろん私たちも、どんどん勉強、研究して、情報を提供していかねばなりません。

更家 調理器具も衛生環境も日々変化しています。特に先ほどもいった「HACCP」は今後大きく波及していくでしょうから、食品洗浄剤衛生協会としても注目しています。

繰り返しになりますが、学校給食は関係各所がアセスメントを進め、衛生管理のリスクを理解し共有し合っていくことが大切です。協会としても提案できることを、現場にどんどん発信していきます。特に衛生では時代時代で、流行する菌が違います。例えば、こういう新しい型のウイルスが出てきたので注意が必要という情報をいち早くキャッチして、現場にお伝えすることができればよいと思っています。

食事は統合力です。食材選び、カット、加熱、保温……おのおののプロセスをうまくコーディネートすることで、おいしさと衛生が担保されます。

■人のスキルと機器の技術で「おいしく学べる給食」を

小木曽 今後の学校給食の在り方について、ご意見はいかがですか。

宮原 他の給食施設と違って学校給食だけは、献立を外部に委託できません。文科省から、そう通知されています。その意味を今一度考えなくてはなりません。献立が教材、学校給食が教育活動ということをどう捉え、栄養教諭は現場でどう発信していくのか。

現状では、その理論が構築されていないのではないかと思います。栄養教諭には知識だけでなく、給食を教材にするための理論を体系化、標準化した教科書が必要となります。

私たちは食をリードする役割なので、個々でもセンスを磨く必要はありますが、まずはそこを標準化して、一定レベルまで引き上げていただきたいです。

島津 「安心安全」というと一言でまとまってしまいますが、それは衛生管理をきちっと徹底し、アレルギーにも対応して、異物混入もなくてと、いろいろな要素を含みます。加えて、その季節や人的な部分でも留意しなければならないことは日々違います。だからやはり、臨機応変に対応していかなければならない。

加えて調理員と共通理解を図って、同じ目標に向かって進むというのが重要です。現場の調理員は本当に頑張っているので、その縁の下の力持ちの部分を、教職員や子供たち、家庭に発信していくことも私の役目だと感じています。

齊藤 以前に比べれば、多様な機器等が使用されるようになりました。その機器等の特性を生かした献立や調理方法を工夫することで、衛生管理の徹底を図りながら、おいしい給食が実現すると思います。実際に調理場を訪問しても感じています。学校給食は、栄養バランスのとれた食事のモデルとして、家庭における日常の食生活、児童生徒の日常または将来の食事作りの指標となるものです。

地場産物を活用することは、地域でとれた新鮮な食材そのもののおいしさを児童生徒に実感させることもできます。栄養教諭、調理員のスキルと、調理場の施設設備の技術が合わさり、衛生管理されたおいしい給食、食に関する指導の教材となる給食が実現するのだと思います。


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