学習者用デジタル教科書・教材でインクルーシブ教育を推進 東京学芸大学附属小金井小学校

指導方法の開発と実践

東京学芸大学附属小金井小学校では、「インクルーシブ教育」においてデジタル教科書・教材などICTを効果的に活用し、児童が感じる「『困りごと』に寄り添う」支援が充実している。支援を必要としない児童にも文章の読みやすさ、内容理解に大きな成果が見られるという。具体的な実践のポイントを鈴木秀樹教諭と大塚健太郎教諭から聞いた。

一人一人の個性や違いを尊重
普段の授業の様子

同校では、「インクルーシブ教育」を支援を必要とするを児童への対応といった狭義のものではなく、児童一人一人の個性や違いを尊重することと捉えている。

この考えを軸に日々、児童と向き合いICTを効果的に活用していくと、支援を必要としない児童からもICTを歓迎する声が聞こえるようになった。実践を進めていった結果、これまで知り得ることができなかった考えや思いを会得できるようになり、そこから互いを認め学び合う姿勢が生まれてきた。特に国語科では、学習者用デジタル教科書・教材の活用がその役割を果たしているという。

ICTは児童の困りごとに対応するためのツール

学びに困難を抱えている児童と向き合う方法としてICTを取り入れ活用していく中で、児童が感じている「困りごと」には多様なものがあることが見え始めた。それは支援を必要としない児童も同様であった。

現在のICT環境は、コンピューター教室に児童用PCは45台、共有で使えるiPadは10台、インクルーシブ教育推進用のiPad35台、PC35台が整備されている。国語科では2018年度から光村図書出版(株)の学習者用デジタル教科書・教材(以下デジタル教科書・教材)を活用し、インクルーシブ教育を実現する指導方法の開発と実践に取り組んでいる。

内容を理解し考える時間を提供
【マイ黒板】根拠を立ててまとめる

デジタル教科書・教材の活用以前と以後の変化について鈴木教諭は、エピソードを交えながら次のように語る。

「デジタル教科書・教材の朗読機能を使い始めたころ、児童の文章の聞き終わりのタイミングがそろわないのに気付いた。一人の児童から理由を聞くと、『分からないところを繰り返し聞いた』という答え。思わず『ハッ』とさせられ、『読む授業で、児童の理解しづらい箇所をやり過ごしていたのではないか』ということに思い当たった」という。

「『繰り返せる』利点は、深く読み込むことを促し、多くの情報を獲得できるということ。これに気付いてからは、単元の導入時には『聞きながら読む』ことに集中させた。児童の初発の感想にも変化が見られた。全体を読み込んだ上で情報が盛り込まれた内容を書くようになった」と児童の変化だけではなく、授業の進め方の変化にも波及したことを指摘した。

思考の可視化により自信をもって表現

もう一つ、大きな変化がある。児童が意見や考えを積極的に発表するようになった点だ。

鈴木教諭は、「教科書の本文箇所を抜き出せる『マイ黒板機能』や『書き込み機能』の活用が大きかった。書字が苦手な児童、ノートにまとめるのが苦手な児童にとってこれらの機能を用いて、きれいにまとめられることは大変うれしく、『これなら他人にも見せられる』と自信になる。人前での発言が苦手な児童も考えや意見を『目に見える形』で表現できるようになった」と具体的な変化を挙げる。

さらに意欲にも大きな影響を与えたことに言及、「『もっときれいに分かりやすく見せたい』という意欲が生まれ、『抜き出してまとめる』という行為に集中するようになり、『本文を繰り返し読む』ことにもつながった。思考の可視化により自分の考えをしっかり整理し、かつ自由に表現して他者との対話を深めるようになった。今では授業内のプレゼンテーションにも積極的に取り組んでいる」と実践の成果を強調した。

今後の課題については、「教師も常に新しいことに対応できるように、日々、試行錯誤しながら授業デザインに取り組まなくてはならない。児童からの情報量が増えたので、これを整理する対応力、さらに授業における瞬発力が求められるようになった。デジタル教科書・教材と他のICTやグループウエアとの連携も有効な手段となるだろう」とポイントを整理した。

デジタル教科書・教材活用時の留意点と教師の役割
大塚教諭(左)と鈴木教諭

大塚教諭は「デジタル教科書・教材は、伝えなければならない内容、学ばなければならない思考にアクセスしやすく、得意なパート(聞く・読む・書く)で学ぶことができる。劣等感や緊張感が取り除かれ、得意、不得意を乗り越えて、お互いを平等に評価できるようになる。効果的に活用すれば、『まとめる』→『発表する』→『正当に評価される』→『理解を得る』→『やる気がでる』――という流れで主体的な学びの歯車が回るようになってくる。そのような好循環のためには、教師側の『情報活用能力』の向上に加え、『児童の困り感』をどのチャネル(手立てやツールの活用)とマッチングさせ、その質と量のバランスを判断するかが重要」と活用の利点と留意点について述べた。

課題については「デジタル教科書・教材の『教育的効果』を理解してもらうためには、活用事例の良し悪しを判断できる資質が教師には求められる。そのような資質を備えた教師が増えれば、より効果的な授業デザインができ、エビデンスが発信できるようになる」と分析した上で、「ICTは到達できなかった学習目標に、児童を到達させてあげるツールと言える。今後、主体的な学びがさらに重要となり、教師は個別に対応する機会が増えていくだろう。ICTの活用ポイントについて助言し、学びに役立つように価値付けてあげるなど、コーチ的役割も求められる」とまとめた。


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