学校のICT環境に本腰 髙谷情報教育・外国語教育課長に聞く

「タイミングを逃してはならない」

誰一人取り残すことのない個別最適化された学びの実現に向けて、文科省は2020年度予算案の概算要求で「GIGAスクールネットワーク構想」を新規に打ち出したのをはじめ、学校のICT環境整備に本腰を入れる。文科省初等中等教育局情報教育・外国語教育課の髙谷浩樹課長は「もうICTは必要不可欠なもの。学校のICT環境整備で、このタイミングを逃してはならない」と強調する。次のフェーズに移行しつつある教育の情報化。文科省が推し進める施策に迫った。

1人1台のICT機器が欠かせない
2020年度予算案の概算要求に盛り込まれた教育の情報化に関連する事業

文科省の2020年度予算案の概算要求は、教育の情報化に対する同省の本気度が伝わってくる。特に、約375億円を計上した大型新規事業の「GIGAスクールネットワーク構想」は、国公私立の小、中、高校、特別支援学校の3分の1に相当する約1万校について、高速で大容量の通信ネットワークを整備し、1人1台の学習者用コンピューターによる誰一人取り残されることのない個別最適化された学びの実現を標榜する。

関連して「新時代の学校におけるICT環境実証研究事業」(7億6500万円)と「初等中等教育段階でのSINET活用に関する実証研究事業」(6億4800万円)を新規事業として掲げ、全国で150校程度の実証研究に取り組む。

これらの新規事業の狙いについて、髙谷課長は「さまざまな子供の能力を最大限引き出すためには個別最適化された学びが必要で、そのためには、1人1台の学習者用端末は欠かせない。これまでは端末の整備に目が行きがちだったが、端末をつなぐネットワークも重要だ。これからはクラウド環境の構築を目指していく」と説明。さらに「もう学校のICT化は先進的なものではなく必要不可欠なものだ。先進事例を挙げるのではなく、どうやれば全国の学校に格差なく端末や基幹通信ネットワークを整備できるのかといった底上げのフェーズに入っている」と強調する。

これらの方向性を定めたのが、同省が今年6月に最終まとめを公表した「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」だ。推進方策では、日本全国の大学や研究機関をつないだ高速通信インフラ「SINET」を小・中・高校に開放する方針や、コストを抑えた学校のICT環境整備を促進するため、ICT機器やネットワーク環境などのモデル例を示した。

ICT環境の整備に向けて「このタイミングを逃さないでほしい」と語る髙谷浩樹課長

しかし、こうした文科省の方針について「全ての学校とSINETを専用回線で接続し、無償提供する」「10GbpsのWi-Fiを全ての学校で使わせる」といった誤解もあると髙谷課長は危惧する。髙谷課長は「SINETはあくまでも選択肢の一つだ。SINETのノードからは一般通信事業者の光回線などで接続するため、大幅に安くなるわけではない。学校での通常の通信は1Gbps程度で十分だが、将来的なことも踏まえれば、10Gbpsに対応したケーブルや機器を整備することを推奨している。Wi-FiだけでなくLTEや5Gも選択肢だ。各学校の規模や活用方法などを踏まえ、安くて速くて安全な方法をベストチョイスしてほしい」と話す。

また、文科省では、小規模な自治体などICT環境の整備が進んでいない自治体に向け、自治体で学校のICT端末を調達したり、ネットワーク環境の整備を進めたりするにあたっての相談に乗る「ICT活用アドバイザー事業」(2億3200万円)も重視。技術面や制度面での手厚いサポート体制を築く方針だ。

髙谷課長は「6月に成立した学校教育情報化推進法では、国で教育の情報化の計画を策定し、自治体もそれを踏まえて計画的に進めることが定められている。年明けをめどに学校のICT環境整備に向けたロードマップを示していきたい」と意気込む。

目前に迫るプログラミング必修化

いよいよ2020年4月から、小学校で新学習指導要領の全面実施を迎える。9月の「未来の学び プログラミング教育推進月間」では、文科省、総務省、経産省の3省と民間企業が連携し、全国各地でさまざまなプログラミング教育の授業が展開されるなど、この1年ほどで、プログラミング教育に取り組む小学校が増えてきた。

髙谷課長は「ほとんどの自治体がプログラミング教育に取り組むようになり、かなり準備は整っているが、小規模自治体などで遅れているところもあり、私たちも直接出向いて支援をしている。今秋にプログラミング教育への準備がどれくらい進んでいるかを調査し、最大限のフォローアップをしていきたい」と話す。

一方で、懸念されるのは中学校や高校の対応だという。髙谷課長は「小学校でプログラミングを経験した子供が中学校に上がってくる。大学入試でも、2024年度には『情報Ⅰ』が入試科目になることが検討されている。小学校や大学の変化に合わせ、その間の中学校や高校も対応していく必要がある。小学校から大学まで一貫した情報教育の改革になる。その点は外国語教育と軌を一にしている」と指摘する。

新学習指導要領の全面実施に合わせ、文科省では「教育の情報化の手引」の改訂作業を進めている。学校のICT環境整備のポイントはもちろん、各教科でのICTを活用した学習場面、プログラミング教育の狙い、特別支援教育におけるICTの重要性などの解説を大幅に充実した。また、学校の働き方改革の実践が現場レベルで始まっている中で、統合型校務支援システムの導入をはじめ、業務のICT化がもたらす勤務時間の縮減や効率化への期待は大きい。

こうした学校のICT環境整備や情報教育の重要性が加速度的に高まっている一方で、肝心の整備状況や教師の意識改革は、徐々に進んでいるものの時代に追いついているとまでは言えないのが現状だ。髙谷課長は「かつて学校は地域で最先端のことに触れられる場所だったが、インターネットが身近になる中で、今では社会から遅れつつある。子供たちはICTを当たり前のように使って、新しい時代を生きていく。自治体や学校、教師はこの流れに絶対に遅れないようにしてほしい。このタイミングを逃してはならない」と強調する。


【戻る】