ICT活用で緊急時の学びを保障 文科省初中局情報教育・外国語教育課 髙谷浩樹課長に聞く

日本全体で取り組み早急に整備

全国の小中学校などに「1人1台」のICT環境を整備する「GIGAスクール構想」。本格始動しようとした矢先に、新型コロナウイルス禍が学校にも訪れた。感染拡大による臨時休校に伴い計画が前倒しされるなど、情報教育を取り巻く環境は激変している。5月11日、ライブ配信された「学校の情報環境整備に関する説明会」を通じて、「今は前代未聞の非常時。既存のルールにとらわれず子供たちの学びの保障に取り組んでほしい」と、全国の教育関係者に向けてメッセージを発信した文科省初中局情報教育・外国語教育課の髙谷浩樹課長に、GIGAスクール構想が目指す学校像やICT活用による学びの保障について聞いた。

新たな視点が加わった2020年度補正予算
――2019年度補正予算で打ち出された「GIGAスクール構想」では、23年度までの学校内のICT環境整備を目指したものでした。20年度補正予算では、それらを前倒しして、学校内だけでなく家庭内のICT教育環境にまで踏み込んでいます。まずは、「GIGAスクール構想」の実現に向けた進捗(しんちょく)状況を教えてください。

「GIGAスクール構想」が立ち上がった背景には、日本全体において、「学び」と「ICT」が結び付いていなかったという状況がありました。OECDのPISA2018における「ICT活用調査」によると、学校外でのデジタル機器使用状況では、日本の子供たちは勉強のためにICTを活用する割合が著しく低いという結果が出ました。

例えば、「コンピューターを使って宿題をする」という設問では、OECD平均が22.2%であるのに対し日本はわずか3.0%。「学校の勉強のために、インターネット上のサイトを見る」では、OECD平均が23.0%であるのに、日本は6.0%でした。

一方、「ネット上でチャットをする」や「1人用ゲームで遊ぶ」という設問ではOECD平均より日本は約20%も上回っています。

つまり、日本の子供たちはデジタル機器を使っていないのではなく、学習に活用していないだけで、チャットやゲームで使うものととらえているわけです。これは、世界からも一般社会からも乖離(かいり)していますし、教育現場におけるICT活用の遅れにつながっています。

こうした問題意識から、義務教育段階において、23年度までに全学年の児童生徒一人一人がそれぞれ端末を持ち、十分に活用できる環境を実現することで、教育の情報化の進展と、教員の負担の軽減などを目指したのが「GIGAスクール構想」で、19年度に2318億円におよぶ補正予算が成立しました。

さらに、今回、臨時休校が長期化して子供たちの学習機会が失われたので、ICT活用により学びの保障をすることが緊急の課題として浮上しました。当初の構想では、学校内における環境整備に主眼が置かれていましたが、学校に通えなくなってしまった子供たちの家庭学習支援のために、各家庭におけるICT環境の早急な整備が必要となりました。

日常的にインターネットを活用している家庭では、休校期間中もICTを通じてさまざまな学習支援を受けられている一方、そうでない家庭では学習の継続が難しくなるという状況が生まれました。

臨時休業中に「同時双方向のオンライン指導」を実施した公立学校は、4月16日時点で、わずか5%だった

子供たちが置かれている環境によって、受けられる教育に格差が生じることは看過できず、全ての子供たちは、等しく教育の機会が保障されなければなりません。

私立学校では、積極的にオンライン学習に取り組む事例も報告されていますが、公立学校は4月16日時点で同時双方向のオンライン学習に取り組んでいたのはわずか5%でした。

そこで、20年度の補正予算では「学びの保障」という新たな視点が加わり、「災害や感染症の発症などによる学校の臨時休業などの緊急時においても、ICTの活用によって全ての子供たちの学びを保障できる環境を早急に実現」するために、2292億円の予算を計上しました。

学校現場にICT人材配置をサポート
――学校現場のICT環境整備を進める際にボトルネックとなるのが、自治体間の温度差です。どのように克服していくのでしょうか。

各自治体における教育行政の主体は、あくまでも設置者である市町村教委です。国は支援をする立場ですが、20年度補正予算で予算のみならず、ICT環境整備のノウハウの提供やアドバイスも徹底的に行います。

ICT化に悩む自治体を支援するための相談窓口として、「ICT活用教育アドバイザー事務局」を5月11日に設置し、ICT環境整備計画の策定や、端末・ネットワークの調達方法や、セキュリティー・ルールの策定の相談、ICT活用に関する助言などを行います。

「GIGAスクールサポーター配置支援事業」は、急速な学校ICT化を進める自治体を支援するために、ICT技術者の学校現場への配置経費を支援する

さらに、学校内の人的体制が十分に確保されていないことが、環境整備が進まない要因のひとつであるため、学校現場におけるICT環境整備の設計や使用マニュアルの作成などをサポートする「GIGAスクールサポーター配置支援事業」(20年度補正予算額105億円)を実施します。

ICT関係企業のOBや大学関係者など、ICT技術に知見のある人材を学校現場に配置し、その経費の2分の1を国が負担します。サポーターは、それぞれの実情に応じて、早期のICT環境実現をサポートします。

――1人1台の端末が整備された後、教育現場でのICT活用はどの程度進むのでしょうか。

現状は、1人1台の端末や校内ネットワーク環境、さらに家庭でのオンライン学習環境などハード面の整備を加速させています。それらが実現した後、平常時の授業でICTがどのように活用されるかは、学校や教員ごとに変わると思います。

ハード面が整備できても、授業の進め方などは長年の研究で培ってきたものなので、一気に変えるのは難しいかもしれません。最初は、インターネット検索で調べものをするとか、プレゼンテーションソフトで資料を作るとか、簡単なことから始めれば良いと思います。とにかく、まずはICTを使用する経験を積んでほしいと思います。

また、制度面でも授業時間、教科書の使い方など、まだまだ検討する必要があります。現在は緊急措置として、双方向の講義であれば標準時間数の一部として弾力的な対応をすることも認めていますが、今後の対応についても検討しています。

それでも、コロナ危機が浮き彫りにした数々の課題を真剣に考え、今後に生かすためにも、今年度中にしっかりICT環境を整えておくことで、将来の教育活動がさらに充実するようにしたいと考えています。

臨機応変な対応で家庭のICT環境を支援
――オンライン授業の実施にあたり、各家庭のICT環境整備についてどのように考えていますか。

端末については、家庭のパソコンやタブレット、スマートフォンの活用や、学校の端末の持ち帰りなど、一律のルールにとらわれず臨機応変に対応して、学習の保障をしてほしいものです。

文科省が5月11日にYoutubeで公開した、「学校の情報環境整備に関する説明会」では、危機感をもって学校のICT活用を進めてほしいと、全国の学校関係者にメッセージを送った

Wi-Fi環境が整っていない家庭に対しては、モバイルWi-Fiルーターを学校に配備して、端末と一緒に貸与します。ルーターは平常時には屋外学習などで使っていただくなど使用経験を積んで、家庭でもスムーズに使えるように工夫してもらいたいと思います。

通信費については、自治体の一部ではルーター貸し出しの際に負担するケースもあります。臨時休校措置への対応として、携帯電話キャリア各社が25歳以下のスマートフォンのデータ通信プランを期間限定で軽減する措置をとるなど配慮していただいています。

――ICT環境整備は、教職員の働き方に影響を与えると考えられます。

臨時休校期間中は、教職員についても安全確保のために在宅勤務が推奨されました。在宅勤務中もICTを活用すれば業務の継続に有効です。その際も、セキュリティー問題などは十分配慮しつつ、学校端末の持ち帰りや家庭端末の利用など、既存のルールにとらわれることなく、柔軟な運用をしてほしいと思います。

今回の新型コロナウイルス対策は、長丁場になると考えています。学校が再開したとしても、「第2波」「第3波」が発生し、再度の臨時休校を余儀なくされる可能性があります。また、大規模な自然災害がいつ起きるともわかりません。緊急時においても、全ての子供たちに学びをどのように保障していくかは、教育業界関係者だけでなく、日本全体で考えていくべき課題だと思います。


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