ICT環境整備における校長のリーダーシップ インフラから教員研修まで

東京都千代田区立お茶の水小学校 校長 太田 耕司

2019年12月に「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」が出され、文部科学省が推進するGIGA(Global and Innovation Gateway for ALL)スクール構想が、本格的に始動し始めた。23年度までには、全学年の児童生徒一人一人が端末を持ち、十分に活用できる環境を作るという構想であったが、コロナ禍での臨時休校の長期化や学びの保障に対する課題などの状況もふまえ、20年4月に同年度内の完了を目指す方向性が示された。こうした状況の中で、現場の校長として何を考え、実行すべきなのか考えてみる。

(1)端末のスペックに対する基本的な考え方

最初に確認しておくべきは「スペックの高い端末が、高い質の教育を保証する」という間違った考え方の排除である。児童生徒が学校でICTを活用するのは、例えていうなら、自動車教習所で安全な運転を習得するようなものである。大切なのは「社会でのルールや基本的な操作を習得させることであり、決して高いスペックを求めるものではない」ということを関係者が理解していくことが重要である。

(2)必要な環境整備
①インフラを整備する

端末のスペックに対する基本的な考え方を理解した上で、最初に整備する必要があるのが、インフラである。多くの自治体で、PCは入れたものの、活用が進まないことがあるが、これは、このインフラの脆弱(ぜいじゃく)さが原因であることが多い。

現場の教員にしてみると「どうして児童生徒が数人使うだけで、インターネットへの接続が遅くなるのだ。使えないなら使わない」となってしまう。全児童生徒が同時に活用できるだけのインフラを整備することが、重要である。ただし、この整備については、各学校の校長ができるものでもない。自治体の担当者と、しっかりと話し合い、どの程度のインフラを導入するかを決定していくことが必要となる。

②常設環境を整備する

インフラが整っても各教室の環境が常設されたものでないと、授業では大変使いづらい。たとえ全児童生徒がPCを持っていても、「教員用PCと投影するプロジェクターを接続し、スクリーンを準備する」という手順が授業のたびに必要ならば、教員は使わない。特に教科担任制である中学校以上では、1時間ごとに違う教室で授業を行うことになる。

これらを考えると、欧米の多くの国でできているようにどの教室にも必要な機器が常設されており、スイッチ一つですぐに活用できる環境が必要である。

千代田区立神田一橋中での常設環境(写真1)

写真1は、以前勤務していた千代田区立神田一橋中学校での常設環境の例である。各学校の環境はそれぞれ違ってはいるが、その中でどのように常設環境を作るかは、校長のリーダーシップが発揮される場面である。

③ソフトを整備する

インフラが整備され、常設環境が整えば、次に必要なのはどのようなソフトを導入するかである。ここで考えるべきは、児童生徒にどのような力を身に付けさせるために、どのようなソフトを導入するのかである。

現在、さまざまなソフトが開発されているが、最低限、文書作成ソフト、表計算ソフト、プレゼンテーションソフトがあれば良いと考える。ただし、教員用PCから、児童生徒用のPCをコントロールすることのできる、授業支援ソフトが導入されていることが望ましい。

ソフトの導入については自治体の予算が絡むため、インフラと同様、自治体の担当者と意見交換しながら進めることが重要である。

④教員研修を整備する

以上、3つの環境が整えば、ICTを不得意だと感じない教員は、どんどん使うようになり、活用率は飛躍的に上がってくる。ただ、どうしても不得意な教員もいることは事実である。これを解消するためには、教員の研修を整備する必要がある。

この研修は、段階を追って行うのが望ましい。もっとも不得意な教員には、実物投影機の使い方からでも良い。機器の接続など専門的な知識が必要でなければ、教員は「便利だ!」と、感じ始める。

教員同士で相互研修を実施(写真2)

最終的には、中学校でも教科を超えて教員同士が「児童生徒にどのような力を付けるために、どのような使い方をするとよいのか」という観点で授業を観察し合うような研修を実施することも可能になる。写真2は、神田一橋中学校での相互研修の様子である。

(3)新型コロナウイルス感染拡大への対応

20年5月中旬現在、勤務校も含め、多くの学校が臨時休校となっている。ICT活用の観点から見ると、飛躍的に活用が増えていると言えるが、この状況は、基本的に教室の中でICTを活用しようと考えてきた現状とは、大きく異なっている。

1人1台の環境が整っていない中で、どのように遠隔授業を実施できるのか。各家庭のPCやWi-Fi環境を活用するにしても、その環境がない家庭へのサポートはどのように行うのかなど、多くの課題が存在する。

文科省は、通常時のルールにとらわれずに、ICT環境を整え、家庭での学習をサポートするようにと指示を出しているが、これを受け、自校では何ができるのかを考えることが必要である。

非常時であるからこそできることもある。「条件がそろわないからできない。やらない」ではなく、非難を恐れず、できることは何でもやっていく。その覚悟も必要である。そうすれば、コロナ終了後には、今までとは違ったICTの活用が見えてくるはずである。


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