デジタル教科書・教材の今後の活用 教師がその可能性を実感して

GIGAスクール構想、新型コロナ禍によるオンライン学習へのニーズの高まりなどを受け、児童生徒が一人一人、自分の端末を所持する環境が現実味を帯びつつある。従来、一人一台の環境は、一部の先進校や私立学校に限られていたが、横浜市、大阪市などの大都市でも一斉整備がアナウンスされるようになった。

学習者用のデジタル教科書は2019年度から「学校教育法等の一部を改正する法律」の施行により、法的に使用が認められた。20年度、新学習指導要領の実施、教科書の改訂に合わせて各社が本腰を入れた製品がリリースされている。「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けてどのような活用が考えられるのだろうか。

なお、教科書紙面と同等の内容をデジタル化した「デジタル教科書」と、動画やアニメーション等を含む「デジタル教材」に区別しておく(協賛企画/東京書籍(株))。

(1)個の特性に寄り添う
フォントの変更、行間の設定などが可能

デジタル教科書の特徴の1つとして、文字の大きさ、行間、書体、背景色の変更や、ふりがなの表示、機械音声による読み上げなどの機能がある。紙の教科書では対応が難しかった視覚特性や読み書きに関する障害を持った児童生徒への対応や、日本語を母国語としない児童生徒が教科書にアクセスしやすくなることは大きなメリットになるだろう。

16年4月に施行された「障害者差別解消法」により、学校には「合理的配慮」の観点から代替手段の利用を検討する義務がある。端末の一斉導入が難しい場合であっても、個に寄り添った支援として先行導入を検討していただきたい。

(2)教科書の使い方を拡張する

デジタル教科書では、紙面にペンやマーカーによる書き込み、拡大表示などの機能がある。紙の教科書では何度も書き直したり、拡大して細部まで観察したりすることは難しかった。試行錯誤を促す、新たな気付きを引き出すといった効果が期待できる。

操作や書き込みを行い試行錯誤を促す

さらに、操作した結果を他の児童生徒と見せ合ったり、クラス全体で共有する際、授業支援ツールなどのアプリケーションと組み合わせたりすることで、紙ではやりづらかった対話・共有を実現できる。

ただし、端末の画面サイズの制約により、紙に比べて一覧性に課題がある。常時自分専用の端末がなければ書き込みを見返すことが難しい。現時点ではデジタル教科書は紙との併用を原則としているから、端末台数が限られている場合、効果的に活用できる場面を教師が見極める必要がある。

(3)デジタル教材・外部リンクの可能性

デジタル教科書から呼び出すことができる動画やシミュレーション等の教材は、従来の指導者用のデジタル教科書では、教師が一斉指導する際に効果的と判断した場面で提示していた。学習者用デジタル教科書と連動するようになったことで、児童生徒が主体的にそれらを自らの学習に役立てられるようになる。

外部リンクでプログラミング教材も可能

算数で自分の考えを形成する際に何度もシミュレーションで試行錯誤する、社会科で自ら疑問に思ったことを動画や外部リンクをたどるなどでさらに深く調べるといった学びが考えられる。児童生徒が自分の考えをじっくり組み立てられる時間の確保や、多様な情報から考えを形成する課題設定の工夫など、児童生徒の学びを深める授業設計上の工夫が求められる。

一人一台環境の実現は、デジタル教科書・教材のこれらのメリットを常時、児童生徒が享受できるようになることを意味する。とはいえ、デジタル教科書を導入するだけでこれらのメリットが自然と生かされ、主体的・対話的で深い学びが自動的に実現するわけではない。

教材の使い勝手の変化に即した指導技術の向上と共に、授業を設計する際の教材研究の幅が広がったものととらえ、教員自ら学習者用デジタル教科書・教材を体験し、その可能性を実感することから始めていただきたい。

新型コロナ禍におけるオンライン学習の実施について、改正著作権法が4月28日に前倒し施行された。遠隔授業環境においても教科書等の著作物を許諾無しに利用できるようになった(補償金は20年度に限る特例措置として不要)。

学校と家庭をつないだ授業を実施する際も、共通教材として教科書は重要であり、デジタル教科書・教材を有効活用できるだろう。

(文責/東北学院大学文学部教育学科教授 稲垣 忠)


【戻る】