「1人1台端末環境下の学び」に対する期待と課題 東京学芸大学 准教授 高橋 純

1人1台端末の活用が進展し、大きな変化が起こり始めているのが愛知県春日井市立高森台中学校である。まだ全ての生徒分の環境が整って半年に満たないが、連日、先生方から「こんな授業に挑戦した」といった報告が、学校のチャットに書かれる。校長先生らも返答し、刺激を受けた別の先生が挑戦する。私もコメントする。校内研修はチャットや動画も活用され日常に埋め込まれ始めている。ずいぶん変わってきた。

コロナ禍以前の3年間、年に数回訪問する中学校だった。生徒たちの学ぶ姿勢は教科を超えてずいぶん変わったが、従来からの授業スタイルが大きく変わることはなかった。

しかし、コロナ禍の影響で次々と教員研修が動画やリモートになった時、先生たち自身が伝達的な内容であれば、この研修方法で十分と感じ始めた。加えて、クラウドを活用し、先生方一人一人の意見も把握しながら進めていく研修に、従来にない面白さ便利さを感じた。そして、自分たちの授業も、単に伝達的であれば、YouTubeなどの動画サイトに置き換えられると危惧し始めたのである。

生徒たちは個別に取り組みつつ、相談もしている

その後の先生たちの創意工夫は素晴らしい。全ての先生がGoogle  Classroomで本時の目標や学習の流れなどを示す。教科書記述の読み取り方、学習過程や振り返りの指導といった生徒が一人一人で学ぶための下地づくり、数学での作図、美術でのタッチの表現などの動画を作り、一人一人のペースで練習をさせ机間指導を行う。生徒たち一人一人の好意的な反応など、連日チャットで報告される。生徒たちの前のめり感、学習の個別化、対話や協働が増えてきていることは写真の経過でも分かる。もちろん、授業だけではない。職員会議のみならず通学路点検、生徒会活動や部活動紹介といったことまでクラウドがフル活用されている。

急にここまで到達できたわけではない。まさに「試しにやってみる」「良かったら続けてみる」「駄目ならやめてみる」くらいのちょっとした工夫、素朴で効果的と思える実践の積み上げである。今年度は一度も訪問していないが、例年以上に学校がよく分かる。これも変化だ。

GIGAスクール構想の実現には、先生方のマインドセットの変化が欠かせない。ただ、変わるべきは指導法やICTに対してであり、先生方が子供たちを思う気持ちは決して変わらない。先生方は、子供一人一人の力を伸ばしたいと今も昔も思っている。そのための手段が新たなテクノロジーの出現によって変わってきているのである。

今回は、過去に何度も繰り返されてきた「ICTによって授業が変わる」といったセリフと根本的に違うのではないか。電子黒板や子供用ソフトなど、ある種、教育専用に開発されてきたものが中心ではなく、大人社会にも変革をもたらしている汎用(はんよう)のクラウド型ソフトの活用が中心だ。当然、1人1台端末も、大人の世界と同様に貸し借りなしで子供一人一人の専用だ。つまり、先生は校務から学習指導まで同じICTを効果的に活用できる。普段の業務にも活用していれば、指導のための教員研修は大幅に削減できるし、大人と同じICTを使って学んだ子供たちの経験は、社会でも生きて働きやすいだろう。

改めてICTの力も借りて「子供一人一人の力を伸ばす」と考えてみる。それは、ICTで「授業をより良くする」と考えるわけではない。現状の授業は、黒板とチョークの旧来の仕組みに最適化されている可能性が強い。そうした授業をより良くしようと思うのではなく、そもそも授業とは子供一人一人のためだったのだと根本から見つめ直してみるのである。

グループでの活動も活発だ

子供の興味や能力は同一ではなくばらばらなのは当然である。最初は、そのごく簡単な把握から試みてみる。振り返りを表計算ソフトの共同編集で書かせてみる。これまでは時間不足で用紙を集めるのも大変だったが、休み時間に書かせることもできる。一人一人の様子も把握もしやすいし、過去の振り返りも繰り返し参照しやすい。こうなると授業中にいつでも書かせたくなるし、自宅でも使える方がいいのではないかと発展していく。こうした繰り返しによって大きな変革がもたらされると思っている。

GIGAスクール構想は、あらゆる問題が山積しており、活用の格差は広がっている。私自身も連日くたくたで、本稿もあらゆる課題の指摘や「あるべきだ論」で満たすこともできた。しかし、勇気をもらっているのは、こうした先生たちの前向きな努力である。ここに具体的な努力と成果をお示しすることで、GIGAスクール構想のさらなる発展を期待したい。

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